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63ー5 一難去って二難

 特別であること。


 それは、この世のほとんどの人間が特別でないからこそ、誰もが望むものである。


 だが、特別であることに悩み、苦しむ人もいる。天宮城がいい例だ。


 特別であることを嫌がり、生きることすら何度もやめようとした。


 逆に、特別というものに異常に執着する人もいる。


「僕は子供のころから金持ちでね。望めばなんだって買ってもらえたし、なんだってやらせてもらえた。その点では、君と大分かけ離れていたといえるかな」


 叔父に虐待を受け、食事すら殆どなく、望むものはなにも与えられなかった天宮城の幼少期とはかなり異なっている。真逆とも言えるだろう。


「僕の母は覚えてすらいないほど昔に飛行機事故で亡くなって、父親だけが僕の家族だった。当時からかなりの資産家で、生活の苦労は全くなかった」


 食べきれないほどのお菓子や料理、遊びきれないほどのゲームや玩具、読みきれないほどたくさんある本。


 何不自由無い、とはまさにこの事だろう。


 友人もそれなりにいた。決して多くもなかったが、少なくもなかった。


 成績もそこそこで、運動もそれなりにできる。


 所謂可もなく不可もない、平凡な子供だった。


 友人を家に招くと、持っている玩具の多さに皆驚き、羨ましいと言う。


 だが、遠藤はそれがあまり気にくわなかった。


 羨ましいと言う同級生にではなく、普通そのものである自分が。


「僕はね、普通なのが嫌だったんだってその時気付いたんだよ。刺激的なことってのがなかったのさ」

「………俺はその普通になりたかった」

「僕ら、生まれる家を間違ったかもね」


 自分の持っているものを羨ましいと言う同級生を見て気づいた。


 つまり、自分が今持っている物は『特別』なのだから、自分自身も『特別』であるのではないか。ということに。


 周りと違うこと。それが遠藤にとっての『特別』であった。


 天宮城の『特別』は平穏な日常そのものだったので、二人は本当に真逆なのだろう。リュウイチは自分が遠藤ととことん合わないことをなんとなく理解した。


「僕はそれから、いろいろなものを集め始めた。珍しいものなら、なんでも。僕がいいと思ったものも。幸いにもお金は使いきれないほどある」


 リュウイチからしたらとんでもない話である。


 金に困らない今でさえ、かなりの倹約家、というか貧乏性が抜けないのだから、お金を大量に使うということにはあり得ないほど慎重に慎重を期す。


「でも、そのうちに飽きちゃったんだよね」

「……飽きた?」

「そう。飽きちゃったんだ。なんでもかんでも手にはいる現状に、飽きた」


 金さえ積めばなんだって手に入る。そんな世界に失望した。


 子供ながらに、この世の腐った部分を見てしまってガッカリしたのかもしれない。


「そんな時、家に強盗が押し入った。僕はその時偶然その場にはいなかった。家に帰ると、頭から血を流して倒れている父がいた」


 まだ血も固まっておらず、息もあったらしい。


「けど僕は救急車を呼ばなかった。父が死ぬのを、ずっとその場で見続けていた」

「……どうして」

「興味がなかったのさ。父にね。人が死ぬ瞬間には興味あったから、みてたんだけど」


 その言葉にリュウイチはゾッとする。


 まるで罪悪感というものがない。さもそこら辺の虫の話でもしているかのごとく、怖いくらいに無関心。


「すると、父が一度意識を取り戻してね。とはいってももう大分死にかけてたんだけど。僕に向かって『助けてくれ』って言うんだ」

「………」

「僕はそれを無視して、ただ見てた。それだけだよ」


 父親を、殺した。遠藤はそう言った。


 正確に言えば、助けることはできたはずなのになにもしなかった、ということにはなる。


 その理由が自分の親ですら無関心であったことだというのだ。


「父が死んで数年後、超能力何てものが世間で流行りだしたと聞いたときには、それはもう心が踊ったよ」


 先程までの父親を助けなかったという話をしていたときとは一変して、楽しそうに語る遠藤。


 父親の死など、彼にとってはとっくの過去の話なのだ。


「だから君たちの能力者協会に援助をするって申し出たんだよ」


 金さえあればなんでも手に入る。そのはずだった。


 能力は、違った。適性という生まれ持った運と、どんな能力になれるかは金ではどうにもできない。


 そして一番欲しい能力者はいくら金を積んでも断り続ける。


 あろうことか、敵対視までしてくる始末だ。


「何度でも言うよ。君が欲しいんだ。金ならしっかり払うし、生活も不自由という言葉を忘れるくらい快適なものを提供すると約束しよう」

「断る。お前に飼われるのはごめんだ」


 リュウイチは苦々しい表情を作る。


 合わない合わないと思っていたが、まさかここまで感性が一致しないとは思わなかった。


 リュウイチでは全く考えもつかないことをつらつらと述べる目の前の悪魔は、金があればなんでもできると思い込んでいる。


「俺は俺のものだ。誰のためにも生きない。俺のためにいきる。そうするって約束した」


 皆との約束。


 自分を大切にすること。


 人に優しくすること。


 自分の責任で動くこと。


 誰かを頼ること。


 頼られるようになること。


 これを守るという約束を、皆でしたのだ。天宮城としてだけではなく、リュウイチとして。

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