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63ー4 一難去って二難

 遠藤がニヤリと笑ってテーブルの上の菓子を摘まんで口にいれる。


「それで? なんでそんな事になってるの君? この前のアレの副作用じゃないよね流石に」

「………」


 リュウイチは無言で左手の包帯を解く。


 体の中から突き破って生えてきた黒水晶は除去したとはいえ、根本はやはりどうしても残ってしまう。


 その結果、皮膚の表面が一部水晶に覆われる形になっているのだ。


 人体に石を埋め込んだような奇妙な光景に、遠藤は目を輝かせてリュウイチの隣に座り直す。


「なにこれ凄い!」

「……もういいだろ」

「だめ。触るよ」


 手を引っ込めようとしたリュウイチの腕を無理矢理自分の方に引き寄せてまじまじと観察する。


「綺麗だ……正直、君ごと飾りたいくらいだよ」

「気持ち悪い」

「辛辣だなぁ」


 水晶の表面をなぞりながら不敵に笑う。リュウイチは今すぐにでも帰りたいと切に願うが、契約違反をこちらからするわけにもいかないので黙って耐える。


 一通り触って満足したのか、一旦リュウイチの腕から手を離す。


 そして両手を前に出して、


「これ、切り取った痕だよね? 切ったもの頂戴」

「……ばら蒔くなよ」

「飾るに決まってるじゃないか」


 本当は、持ち出し厳禁のものだ。


 リュウイチの石は今の技術では解析不能なものであるので学術的価値も高ければ、削れば能力のドーピング剤になる。しかも副作用がないので下手したら殺してでも奪い取ろうとする者すら出てくるかもしれない代物だ。


 魚住が切り取った石はリュウイチがすべて保管しているが、その一部をこっそり持ってきておいた。


「うん、綺麗。これは加工の必要もないね。このままショーケースにいれて飾るよ」

「………変態」

「わー、酷い」


 リュウイチからすればその石は自分の体から出てきたものである。なんとなく気持ち悪いと感じるのは仕方ないことなのかもしれない。


「それじゃあ早速死神の部屋へ行こうか」


 手に持っている黒水晶の欠片を大事そうにハンカチで包んでから近くの男に渡し、反対側にいる女性に声をかける。


「清香」

「はい」


 空間が大きく歪み、どこかのリビングへ飛ぶ。暖炉があり、アンティークの家具が慎ましく並べられているのをみると、どこかの古いお屋敷のリビング、という感想が正しいだろうか。


 古いとは言っても、汚い感じではなく風情を感じさせる旧さである。


「どうかな? 今回は部屋にも趣向を凝らしてみたんだけど」

「……あっそ」

「相変わらずの反応だね。君のそういうところ好きだよ」

「俺はお前が嫌いだ」

「直球にどうも」


 遠藤は軽く目を細め、背後の女性の名前を呼ぶ。


「柚月」

「準備はできております」


 その言葉が聞こえるや否や遠藤は誓いの言葉を口にした。


「僕はこの場で嘘をつかない。死神に誓おう」

「………嘘をつかない。死神に誓う」


 ガキン、と何処かからか硬質な音が聞こえた気がする。


 遠藤のお気にいりの能力を持った女性、柚月は【死神を呼び出す】力を持つ。


 ただこの力、かなり制約が多く「死神に誓う」と約束した者がその約束を破った場合のみ死神が殺しにくる、という能力だ。


 効果は一時的なものであるし、自分自身には使えないという能力だが、交渉事にはとにかく便利だ。なにせ嘘を言えば本当に殺されてしまうのだから。


 相手は出し惜しみせずに色々としゃべってくれる。遠藤が資産家として有名なのも彼女の力が手を貸している。


「よし、と。ここから先は全て本音で話そうか。君の体に起こっていること、全て話しなさい」

「……わかった」


 リュウイチは異世界の事をなるべく伏せて自身の体になにが起こったか事細かに説明した。


 異界に渡る能力である【夢使い(ドリーマー)】が使えなくなったこと、左半身がうまく動かないこと、人間ではないこと。


 知っていることは全て話さないとならない。不自然でない程度には情報を伏せることも可能だが、あまり露骨にやってしまうと隠していることを全て吐けと命令されかねない。


 そうなれば完全にリュウイチの敗けだ。情報を全て提供してしまえば圧倒的に不利になる。


 口がうまいので色々と丸め込まれて帰ることができなくなってしまう可能性があるのだ。


 事実、一週間以上拘束されたときもある。


「へぇ……人間じゃない、ね」

「ああ。もう人じゃない。……これでただの化物だ」

「そう。そうか。いいね。凄く素敵で、素晴らしい」


 この狂人は、人と違うものを異様に追い求める。


 珍しい能力、物、絶大な権力。


 他人とは明らかに違う、ということに異常に執着する。


 だからこそ遠藤は能力者を求める。自分が能力者じゃないから。特別ではないから。


「あぁ……やっぱり、君はいい。来る度来る度にどんどん良くなっていっている」

「左手も足もうまく動かないし、能力もなくした。なのに俺がまだ欲しいのか」

「欲しい」


 即答する遠藤。


「愛玩用としてもいいけど、君の場合は全然壊れないしね。でもやっぱり飾りたいなぁ」

「………」


 リュウイチは軽く頭を振る。こいつには何を言っても無駄だ、と思ったからである。


「欲しいものは、なんとしてでも手に入れたくなっちゃうからね」


 この男の異常な能力者への想いがどこから来ているのか、リュウイチは知らない。知りたいとも思わない。


 なぜそうまでして特別な存在を求めるのか、正直興味がない。


 ……筈だった。


「……なんでそうまでして俺たちを求める」


 いつもなら絶対に訊かない事が口から出た。どうしてこの質問をしてしまったのか、口に出してから疑問に思う。


 こいつの事なんて、知りたくもなかった筈なのに。


「………そうだね。じゃあ話してあげるよ。ただ、話してもいいけど、誰にも言わないでね?」

「………ああ」


 ここで返事をしてしまったからには今からの話を少しでも口走ったら死神に殺されることになるが、もう後悔しても後の祭りである。


「僕がまだ小さかった頃……」


 遠藤は空虚な笑みを浮かべ、次の言葉を口にした。









「たった一人だけいた家族を殺したんだ」

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