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62ー8 やっと、これで

「ちょっと、早いって……俺、病み上がり……いや、怪我上がり?」

「何を言っている。全部自業自得だろう」

「それは、確かにそうなんだけどさ……」


 少し違和感のある歩き方をしながらなんとかレヴェルの後ろをついていく。


 石のほとんどは除去に成功したが、それでも体の構造上どうしても取れない場所があり、生活には支障のない程度に後遺症が残ってしまった。


 だが、それでも生活できるレベルにまで回復しているのだ。魚住には感謝してもしきれない。


 ……個人的には、あまり一人で会いたくない相手だが。


「早くしろ」

「だから、無理だって……っていうか杖返して」

「ほら、さっさと歩け」


 左足が上手く動かず、右足に負担がかかるので最近では杖をついている。とはいえ、杖というより金属製の松葉杖っぽいやつなので、歩く度にバネの音が響いて仕方ない。


 先程煩いからとレヴェルに取り上げられた。


 無くても歩けないわけではないが、殆ど右足に重心が寄っているので足が中々進まない。


「……これから、どうする」

「さぁ。これからのことは、これから決めるさ」


 肩を竦める。本来は日本の住民ではないが、石の大部分を取り除いてからというもの、何故か帰れなくなってしまった。


 夢の中でも、あちらの世界に行けなくなってしまったのだ。


 どうやら能力そのものが無くなった。このタイミングで。


 しかも体が耐えられないので正攻法で、異世界であるあちら側に渡ることもできない。向こうに行くための道は用意できるが、行けない。


 諸々の事情説明に一旦レヴェルはあちらに戻る。


 リュウイチは道ならば開くことができるので、日本から来たというシオンもいつでも帰すことができるだろう。


 一緒に来たという他の数名は知らないが。


「これでよかったのだろうか」

「わかんないよそんなこと。ただ……」


 リュウイチは柔らかく笑った。


「未来は暗くなさそうだ」


 赤い目を細めて、遠くを見つめながらそう言ったのだった。








 それからまた少し時は流れる。


 リュウイチが能力を失って、左半身が不自由になったことは上層部のみに知らされることになった。


 そもそも夢使い(ドリーマー)という能力自体、よくわかっていなかったので能力が無くなってもそれほど問題がなかったのが幸いした。


 リュウイチ自身も仕事は基本的にデスクワークだったし、能力の波長を見るという力は残っていたので特になにか困ることはなかった。


 左手も満足に動かせないので物によっては作れない料理も出てきたのだが、協会内に移転したあの『誰にも気づかれない場所にあるが相当美味い店』の主人が嬉々として仕事に励んでくれるので毎食作らなくても良くなったのだ。


 結果、左手と左足が少し不自由になって、あっちの世界に行けなくなったということを抜けば今までと何ら代わりない生活である。


 ……いや、まだ変わったことはある。


「お、龍くん来たね」

「魚住さん。近い」


 ため息をつきながらベッドに横になるリュウイチ。今ではこれが日課になった。


 一日一回の検査が必要になったのだ。別に毎回特に何かある訳じゃないからいいだろうと最初は思っていたリュウイチだが、死にかけ助けられてここにいるのだ。


 助けてもらって文句は言うまい。


「うん、大丈夫そうだね。痛いところとかある?」

「いや特には。ただ、眠気が来るのが妙に早く感じます」

「仕方ないよそれは。命が助かっただけ儲けものと思っておかないと」


 石の侵食はとりあえず止まっているが、いつまた石が体を食い破ろうとしてくるのかわからない以上定期的な検査は欠かせない。


 それに加え、何故なのかはよくわかっていないが目を覚ました日から妙に疲れるようになってしまったのだ。


 種族がら疲れというものは基本的に縁遠いはずなのだが、どうやら石を止めるために体力を使うのか、大体22時を過ぎる頃になると急に眠くなってしまう。


 眠気は突然来るのでパソコンで仕事しながら突っ伏して寝ていたということも何度もある。


 お陰で22時以降は仕事ができなくなってしまった。


「また明日来てね。待ってるから」

「……はい」


 杖をつきながら自分の部屋に戻る。一冊の本の栞がわりになっているのは、昔幼馴染達と撮った写真だ。


 人に会う時は、いつも作り笑いを浮かべていたせいで本当の笑みを忘れていた時期すらある天宮城。その写真の中の天宮城もどこか空虚な笑みでカメラに笑いかけている。


「今は、もっと自然に笑えてるかな……」


 口許を弛めて写真を戻し、本棚にしまい直した。

 とりあえず一旦完結です。


 あ、まだ続きますよ。

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