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62ー6 やっと、これで

 魚住は最初酷く混乱していた。


 琥珀と名乗る天宮城そっくりの男が天宮城を運んできたと思ったら、その天宮城は黒石(天宮城と魚住は石のことを話すときそう呼んでいた)の侵食があり得ないほど進み、息をしていることすら奇跡的なほどに衰弱しきった姿だったからだ。


 全身に異常反応が出ているなんて、これまで診たことがない。


 体の悪いところを一瞬で見抜ける能力を持ち、これまで数多くの患者を診てきたし、天宮城の体のおかしな部分には特に気を払って観察してきたつもりだ。


 だが、今回のは桁が違う。


 今までも暴走した時は一気に心臓の侵食がすすんだ。


 だがそれでもよくよく見て、少し大きくなったかな、くらいのものだったのである。


 半身を覆い尽くし、それどころか皮膚すらも内側から食い破ってくるという恐ろしい状態。


 体の半分を石に変えることのできる能力者だと言われた方が納得がいく。


 様々な方法でリュウイチを調べた。


 レントゲンやMRIは勿論、血液検査なども片っ端から試した。


 その結果レントゲンなんかでは反応したものの、血液検査ではエラーが出た。


 これをしたタイミングで既にレヴェルからリュウイチが厳密に言えば天宮城ではないということは聞いていた。


 人間ではないということも。ちなみにこの話は幼馴染達と魚住しか知らない。副隊長達をはじめ、エミリアも知らない話だ。


 だがそれでもやはり助けたい。


「やるしか、ない」


 成功確率はほぼゼロに近い。そもそも人間ではない相手の治療などどうしたらいいのかもよくわからない。


 でも今、リュウイチを助けられるのは魚住しかいないのだから。


「やりましょう。……龍くん、頑張って」


 小さく震える手を見ないフリをしてライトに明かりをつけた。








「皆さん子供の頃って、どんな感じだったんですか?」


 沈黙に耐えかねた水野が周りの幼馴染グループに話題をふる。


 リュウイチの手術の事をこれ以上外野が心配してもどうにもならない。そう考えての言葉だった。


 少しでも気を紛らわせることができるなら、誰かが気を張りすぎて倒れることもないのではないか。


「子供の頃、かぁ」

「今とそんなに変わんないよね?」

「それは結城だけだ」


 少しでも明るく努めようとしている水野を庇ってか、小さく笑みを浮かべながら話をしていく。だが、その表情は完全に無理矢理な笑みだったし水野に見えている内獣達も暗くどんよりと肩を落としているのがわかる。


 彼らは心の動きを顕著に表す。


 人が喜んでいる時は、内獣も尻尾を振ったり嬉しそうに鳴いたりするのだが、悲しんでいるときは涙を流したりぐったりとその場に横たわったりする。


 人の心を読んでしまう力でもあるから、あまり人には話していない。隠したいものを見られると人は激怒する。天宮城からも人には言わない方がいいと忠告を受けている。


 虫だったりすると表情とかさっぱり判らなかったりするので解りづらいこともあるのだが。内獣がゴキ――――黒光りする虫の藤井みたいに。


「でも俺ら、最初はそこまで仲良くなかったよな」

「あー……かもな。普通に遊んだりはしていたけど、そのレベルだし」

「龍一が来てからじゃない? 本当の意味で仲良くなったのって」

「それくらいだな」


 龍一は誰とも仲良くしようとしなかったが、周りの一致団結に手を貸していたらしい。


 正確に言うと、周囲とのつきあい方が分かっていなかったのだ。


「龍一って、叔父に虐待されてただろ? あれで人には寄り付かなくなったし人間不信になったしな」

「演技だけは上手いからどこでもそつなくやれてるみたいに見えるんだけどな」


 なんかだんだん龍一の子供時代の話になってきた。


「……そういえば、リュウイチが父親の写真らしきものを見つけたと言っていたが」

「「「どこで⁉」」」


 全員の動きがシンクロする。レヴェルに大量に向けられた視線だが、レヴェルは小さく肩をすくめた。


「いや、知らん。だが多分この人だという写真が部屋から出てきたとこの前言っていた」


 来訪者、ホワイトと戦う前にリュウイチがポツリと話していた。だからその写真をレヴェルも見たことがない。


 龍一もなんだか気が引けて母に父の事を聞いたことはなかったし、結果だれも龍一の父親を知らない。


 顔どころか名前さえ不明。そんな謎の人物の写真が出てきたのだと言うからかなり皆気になっている。


「龍一のお父さんか……どんな人だろ」


 足立の言葉に全員が無言で思案し……


「「「………想像できない………」」」


 同じタイミングで同じ言葉を吐いた。


 母親の印象が強すぎて父親のイメージが全く浮かんでこない。顔すらわからないのでイメージする材料がないというのもあるが。


「りゅうに聞きたいこと増えたね」

「うん」


 水野の特殊な目に、もう泣いている内獣は映っていなかった。


 皆少しは元気が出たみたいだ。


「そろそろ何時間になる?」

「5時間」


 先程から何度も時間を確認しているので最早時計など見なくても何時間経っているのかなんとなくわかる。


 かなり長引いている。そもそも予定時間というものはいつ崩れるかわからない状態だったので長引くもなにもないのかもしれないが。


「無事だといいね」

「………ああ」


 誰からともなく、手術室の方を見る。リュウイチの目が覚めることを祈って。

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