62ー5 やっと、これで
ちょっとだけ短めです。
吉水とレヴェルの答えを聞き、各々が各々の答えを出していく。
手術を希望する者はレヴェルの近くに。
延命治療を希望する者は吉水の近くに。
少しずつ分かれていく。
「俺は……手術希望、だな。龍一はきっと、本心では死にたくないと思っているだろうから」
幼馴染の中では藤井が真っ先に動いた。
リスクのある提案をするのはいつも天宮城と藤井だった。
大人しそうに見えて実は結構行動力のある天宮城に振り回されてばかりだった。協会を作るという話もそうである。
だが、暴走してしまってからは誰も傷つけたくないと人を避け、消極的になってしまった。
だからその役目を藤井が引き継いだのだ。人に接するのを怖がって逃げる龍一に周りの目が行かないようにひたすら目立つことをして自分に注目を集めさせた。
「こいつにはこれから楽に生きてほしいんだよ」
受難の繰返しだった天宮城を助けてやりたい。自分で自分に傷をつける姿はもう見たくないのだ。
「……りゅうは、多分そうだよね」
ボソッと呟きながらレヴェルの近くに移動する風間。手術希望だとその行動が示している。
どちらを選んでも死ぬ可能性の方が高い。その現実が全員の足を止めていた。
「…………龍一君」
小林は小さく唇を噛んだ後、吉水の近くへと歩を進める。延命希望だ。
そして、一時間して全員の意思が固まった。
協会の部隊は十。各々隊長と副隊長が一人ずつ居るが第六部隊のみ横井×2で副隊長なので全員で21人。天宮城を除いて20人。
そこに秘書の近藤、家族枠でエミリア、友人枠で水野と小林。
最後に、レヴェル。
計25人。奇数なので確実に決定はどちらかに偏る。
手術か、延命措置か。
「皆、これでいいね?」
魚住の言葉に全員が無言で返す。声を出せなかったという方が正しいのかもしれない。それぐらい皆緊張していた。
これでリュウイチの生死が決まるかもしれないという事実。大切な人の命を背負う重圧。
恐ろしさに震えている人も何人もいる。
魚住は軽く目を瞑ってから人数を数え始めた。
「1、2、3、4、5……」
見た感じだと、半々である。過半数は13なのでそれを超えた方の希望が通ることになる。
「………14。『手術する』に14票だ」
手術。誰もやったことのない、症例もまったくないケースの危険なもの。それの決行が決まった。
「心配?」
「心配じゃない人、このなかにいると思う?」
「居ないと思う」
片山と藤井の二人が並んで静かに会話する。
幼馴染のなかでは最年長である二人。色々と苦労もあって今があることをよく理解している二人だ。
「いつか、こうなると思ってたよ。私」
「未来が見えてた?」
「ううん。今回は見てない。けど、なんとなく。……龍一って危なっかしいところあるから」
「それは同意」
小さく笑い、だが無理に作った笑みはすぐに消える。
予知夢を見ることのできる片山は、自分に大きく関わっていることの未来しか見ることができない。
どこかの国での大地震を予知するなんてことはできないのだ。
だからこそ見えた未来があやふやな時ほど恐ろしい。
人には話してこなかったが、幼馴染が全滅した夢だって見たことがある。そのときの夢は酷く朧気だが、ただひたすらにどす黒い血に塗れた友人たちが地に倒れ伏しているものだった。
あまりの恐さに伝えることも出来ず、ただ全員で出掛ける予定を全てキャンセルさせた。
なにか悪い夢を見たのだろうと皆が理解したために誰もその行動に異を唱えなかった。それで未来が変わったのか、とりあえずその未来は訪れていない。
「……見ないのか?」
「見て、失敗してたら嫌じゃん」
「そうだな」
手術の結果なんて、カンニングをするつもりはない。その時が来たら、受け入れるしかないのだ。
「魚住さんを信じるしかないよ」
「………ああ」
今はあの人の腕を信じて待つしかない。今の日本は超能力によって進歩していることも結構ある。
臓器移植もリスクはかなり少ないし、ドナーを探し回らなくとも『変質化』の能力などで人にあったものに変えられる時代だ。
だがそれでも助からない命はある。
リュウイチの場合は臓器を移植したところで生きていけるかは解らない。なにもかも博打だ。
「龍一もそうだけどよ。俺達思ってたより博打好きだったんだな」
「そうかもね」
なんとなく、こうなるかもしれないと思っていた。
片山のその言葉には続きがあった。
「でも、龍一なら何とかするんじゃないのかな」
今は信じるしかない。あいつなら何とかして帰ってくるだろうと。