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62ー4 やっと、これで

 どうしたらいいのか。皆それを考えるだけで先には進めない。


 リュウイチは未だ昏睡状態で、日に日に状況は悪化していく。


 かなり腕のいい医者である魚住でさえどうしたらいいのかがわからないままだ。


 運ばれてきて三日目に脈が止まった事もあった。


 幸いにもそのとき見舞いに来ていた副隊長が電気を放出する能力を持っていたので咄嗟にその能力で心臓マッサージをして事なきを得た。


 心臓から石で覆われているので普通の衝撃を与える方法では殆ど意味がない。それこそ電気を流すくらいじゃないといけなかったので不幸中の幸いと言えるだろう。


 だが、この件で更に葉山がリュウイチの側から離れなくなったのも事実だ。


 死という言葉がここまで近く感じることなど初めてで誰もが混乱している。


 これまででも危ない場面は結構あったが、ここまで危うい状況は初めてだ。


 リュウイチが目を開けなくなってから、10日が過ぎる。









 代わる代わる見舞いに訪れるのはなにも幼馴染だけではない。


 近藤をはじめとした龍一を昔から知る者は勿論、龍一の状態を知った友人なんかも見舞いに来る。


 だが、誰も龍一に触れることはできない。奇跡的に生きているだけなのだ。何がどう作用して一気に悪化するかはわからない。


 だが、少しずつではあるがリュウイチは弱っていっている。


 このままではいずれ死んでしまう。回復の見込みはないのだ。


「皆、集まったね」


 魚住に呼び出され、関係者が集められた。


 幼馴染、レヴェル、エミリア、吉水を含めた各部隊の副隊長、小林、水野だ。


 本当は母親も参加予定だったのだが急な予定が入ってしまい、代わりにエミリアが出ることになった。


「率直に言おう。僕はこれ以上龍くんを助けられない」

「……つまり」

「時間切れ、かな」


 石の侵食は、中途半端に止まってはいるものの徐々に広がっている。


 もうこれ以上広がれば取り出すのは不可能。リュウイチも目を覚ますこともなく、やがて完全に呼吸も脈も止まるだろう。


「だから、君達に辛い決断を迫る。『このまま龍くんが死ぬのをそっと見守る』か『一か八か手術してみる』か」

「手術でなんとかなるんですか」

「ならない、かもしれない。正直これまで取り除こうなんて思ったことないから、できるのかどうなのかもわからないし。できたところで龍くんが死ぬのを早めるだけになるかもしれない」


 手術は博打ではない。博打であってはいけない。


 魚住もそれは十分すぎるほど理解しているが、もうこれ以上に方法がない。


 このまま治療せず、ゆっくりと逝かせるのも手ではある。


 リュウイチが苦しむのも少ないし、残り時間はまだまだある。もしかしたらいい治療法が見つかるかもしれない。


 だが、今の侵食段階ならまだなんとかなる可能性もある。


 石の部分だけを取り除いて臓器移植すれば今まで通り暮らせるかもしれない。


 だが、これは希望的観測でしかない。もし侵食されている石が生命維持に一役買っていたりしたら、逆にリュウイチを殺す結果になるかもしれない。


 それにそもそも手術の難易度が異様に高くなることは容易に想像できる。成功する可能性も低い。


「……それを、私達が決めるんですか」


 水野の言葉に魚住は無言で頷く。


 全員が黙って下を向く。暫くそのまま動けないでいるとレヴェルが小さくため息をついた。


 レヴェルが何者なのかは皆もう知っている。だからこそリュウイチを最もよく知っているのは実のところこのレヴェルだったりするのだ。


 龍一をリュウイチの頃から知っている唯一の友人。


「龍一は……いつも死にたがっていた。こいつはいつも身に余る力を持ってしまうからな……幸運であり不幸でもある」


 龍一の死にたがりをこの場の全員は知っていた。


 幼馴染達の記憶では、初めて自殺未遂までいったのは中学二年の事だ。その時はわざと崖から飛び降りたのだが、運が良かったのか悪かったのか木に引っ掛かって軽傷で済んだ。


 その後もなんども自殺を試みては失敗している。


 異様な速度で怪我が治るのも理由のひとつだがリュウイチが止めていたのもある。


 死にたいと渇望する龍一と生きたいと足掻くリュウイチ。両者が絶妙なバランスで存在していたからこそ死んでいないだけだ。


 リュウイチは、子供時代のことをハッキリとは覚えていない。ラグーンに閉じ込められる前までのことは基本的に朧気な記憶でしかない。


 だからこそ、その外の世界を見て回ることが夢だった。


 龍一が移動式の服屋を作ったのも無意識に世界を見て回ることを求めていたのではないだろうかとレヴェルは思っている。


 初めて下界に降りたときのリュウイチの表情をレヴェルはよく覚えている。


 裸足で草原を走り回る、子供みたいな笑顔を。


「……リュウイチの化身としての判断だが、手術を希望する。こいつは好きなことができれば早死にしてもいいと言い張っていたからな。可能性が全くのゼロでないのなら、それにかけてみよう」


 龍一の夢の管理者であるレヴェルは、龍一の記憶をそのまま持っている。化身であるというのも間違いではない。


 レヴェルの言葉に、一人が反応した。


「僕は……手術しない方を希望するかな。このままだとしても、個人的には……もう少し一緒にいたい」


 吉水だった。こう見えて現実主義者だったりするので現状をしっかりと理解した上での発言だ。


 第二部隊副隊長としての立場は、今は考えていない。そう付け加える。


 延命措置をとって、いずれ見つかるかもしれない可能性にかけると言った。


 手術する、しないで一票ずつ。


 残酷なことに時間だけは止まってくれない。するにせよしないにせよ、決断を迫られていた。

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