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62ー3 やっと、これで

 美鈴は、小さな頃からかなりやんちゃな女の子だった。


 俺に関わるな、と叔父の暴行で死にかけてなおベッドの上で虚勢を張っていた龍一をひっぱたくくらいにはやんちゃだった。


 一人っ子の美鈴の唯一の弟である龍一を、それ以上の感情で見ていることに気付いたのは、中学一年の頃。


 実は天宮城達の住んでいた地域は小学校はあれど中学校が無かったので、大抵中学に上がる際は寮か引っ越すかの二択に分かれる。


 幼馴染達はほぼ全員山を降りたところにある中学の寮に入ったのだが、天宮城の場合は家庭環境などが複雑だったのでそのまま引っ越した。


 つまり一人だけ皆とは違う場所へ通っていたのだ。


 美鈴が中学に上がる頃には協会という存在も現実味を帯びてきていた。


 とはいっても一番上の藤井と片山でさえまだまだ未成年である。一体どうやって作るのか、結局無理なのではないか、とも何度も考えていた。


 それでもやはり大切な弟のためである。しっかりお姉ちゃんとして動かなければ、と思っていた。


 そんなときに寮暮しで別れ、なぜか急に寂しくなってしまった。


 中学にあがってからまず驚いたのは人の多さだ。全校生徒10人の学校から来た美鈴である。全校生徒200人という人の多さに圧倒された。


 それでもまだまだ小さい方ではある。学校によっては一学年その人数だったりするのだが、少なくとも美鈴からしてみれば驚きの光景だった。


 勿論友達もできた。寮暮しということでルームメイトもいる。


 だが、何か寂しい。


 何かが足りないのだ。


 幼馴染達と電話やメールのやり取りをしているときだけは何故か少し楽になる。最初はホームシックなのかとも思ったが、どうやら違うらしいということがわかった。


 ある日のことである。ルームメイトがやり取り中の美鈴の画面を覗きこんできた。


 そして文面をざっと見てから何度も視線を美鈴と画面とで見比べる。そして一言。


「みっすー、この人のこと好きなの?」


 みっすー、とは美鈴の渾名であるがそんなことは置いておいて。


 好きなの? と言われて心のそこからポカンとした。やり取りをしていたのは龍一とである。


 好きなのか、と聞かれても龍一は美鈴にとっては弟である。少なくとも美鈴はそう考えていた。


 だが、それほどしっかりとは考えていなかった。ただ漠然と【大切な弟】としか認識していなかったのである。


 その時から徐々に天宮城のことを自分自身どう思っているのか考え始めるようになっていた。


 そして、はっきりとわかったのは龍一が中学にあがってからのことである。


 かなり遠くの中学校に通い始めた龍一の評判があり得ないほど良かったのだ。これまで同年代だと幼馴染としかほぼ会話しなかった龍一である。


 演技だったのかもしれないが、どこかほんの少し抜けていそうな爽やかフェイスが大人気だったらしい。


 当時の葉山は天宮城が告白されたという話を聞くだけで急に苛つくようになっていた。


 さすがにこの辺りで自覚した。誰にもとられたくない、と本気で思い始めた。


 だが残念ながら天宮城本人は幼馴染としか見ていない。恋愛対象に姉弟が含まれることは殆どないのと同様に、天宮城も幼馴染にはそういった感情一切、皆無なのである。


 ラッキーだったのは、天宮城が自分自身にコンプレックスを抱くタイプだったことだろう。能力の関係で他人と深く付き合うのを止めていたために誰かとそういう関係になる可能性もかなり低かったからだ。


 だが、悲しいことに幼馴染の自分達でさえその対象であったらしい。なにもかもの悩みごとを打ち明けてはくれない。


 一人で抱え込むということは、結局誰も信じていないのだ。


 天宮城は、自分でさえ信頼していない。誰かに頼ることを忘れたせいで自分にも頼れない。


 それくらい知っていたはずなのに。


 今回のことが起こってしまったのは、止められなかった自分の責任でもある。葉山は壁に背を預けて軽くため息をついた。


 死ぬかもしれないと言っていた時点で、言うこと聞いてくれなきゃ自殺するとでも言って無理矢理にでも止めるべきだった。


 何度も軽く立ち上がっては息をしていることを確かめる。こうでもしていないと今すぐにでも死んでしまいそうだ。


「どう? 龍くんは」

「まだ、起きないです」

「そうか……」


 入ってきたのは、毛布を持った魚住だった。魚住は毛布を葉山に手渡して、その下に隠してあった缶コーヒーを二本開ける。


 一本を自分の口に運び、もう一本を差し出しながら苦笑いした。


「どうせここに泊まるつもりなんでしょ? こんな早くから休憩もなしじゃ美鈴ちゃんが倒れちゃうよ。医者としては見過ごせないな」

「……とか言いながら、飲食禁止の場所にコーヒー持ってきてるじゃないですか」


 色々とルール違反なのはお互い様である。


 本当なら家に帰らせなければならないのだが、状況が状況なので魚住も無理に帰すつもりはない。


「……龍一は今、どんな状況なんですか?」

「龍くんの心臓を覆ってたあれが、全身に広がりつつある。使用さえしなければほぼ無害だと思っていたんだけど、そんな悠長なこと言ってられなかった。あれのせいで龍くんは自分の体を治せない」


 異常な治癒力のある筈のリュウイチが何故いまだに意識すら戻っていないのか。


 あの石が関係している。あの石、治癒力ではどうにもならないのだ。内臓を食い荒らされ、妙な形で侵攻がストップしているのが今の状態である。


 食い荒らされたダメージは大きく、中途半端に覆われているせいで回復もできないのだ。


 それに加えて酷い火傷だ。ただでさえ弱っているリュウイチには相当な深傷である。


 魚住の話を聞けば聞くほどむしろ今息をしていることが奇跡なのだと、現実を見せつけられた気がして怖かった。

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