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62ー2 やっと、これで

 緊張感が続く。誰一人言葉を発する事なくその場に座り続けるか、逆に落ち着きなくふらふらと歩き回っていた。


 藤井と風間がつれてきたので今ここには幼馴染全員とレヴェルが揃っている。


 秘書である近藤や副隊長達は通常業務があるのでここには来られない。


 そんな状態が二時間ほど続き、精神的に限界が来はじめていた頃。ようやく魚住が顔をだした。


 レヴェル含め全員が魚住に詰め寄る。


「魚住さん! 龍一は」

「とりあえず、といったところだね……意識は相変わらず戻らないし、峠を越えたかも正直よくわからない……やれる事は全てやったけれど」


 ひとまず処置は済ませてくれたらしい。だが、そもそもあの黒水晶が体の内から食い破ってくるという異常すぎる状態。なんとかなっているかどうかも分からない。


 魚住は小さくため息をついて目を伏せた。


 医者としても個人的な感情としても、思うところがあるのだろう。


「会えますか」

「ガラス越しになら。ただその、あまりにも酷い状態だからかなりショッキングな光景になるけど」

「大丈夫です」


 全員が藤井の言葉に頷く。魚住も一瞬躊躇したものの、彼らは昔からそれなりにショッキングな光景を見てきていたことを思いだし、案内することを決めた。


 能力犯罪では、被害者の重傷化の割合がかなり高い。銃などない日本で、最も高火力の武器と言えるだろう。


 なにせ個人差はあるもののレベル4を越えた辺りで本当に化け物みたいな事ができるようになってしまうからだ。


 車を浮かせてビルに突っ込ませたり、一瞬で町中を火の海にしたりと、そういう現場も彼らは見てきた。


 勿論レヴェルも戦争を実際に目にしている。人間がミンチになっているくらい、いくらでも目にしてきた。


 だが、やはり知り合いが死にかけているのは訳が違うらしい。


「「「……ぁ……」」」


 全員、声が出なかった。ガラス越しに見えたリュウイチは右半身火傷で皮膚が大きく歪み、左半身は黒水晶が皮膚から突き破って顔をだしている。


 巻かれた包帯にはかなりの血が染み込んでいる。


 あらゆる機材が常に健康状態バイタルを計測し続けている。どれがなんなのかさっぱりわからないが、魚住の言うところによると一応は安定しているらしい。


「ここまでの患者さんは初めてで……それが龍くんというのは、本当に悔しい限りだよ」


 これ以上の処置のしようがない。専属医として、防げなかったのはかなりショックなのかもしれない。


「りゅうは……どうなるの?」

「一先ずはこのままここで健康状態バイタルチェックしながら隔離入院かな。本当なら、僕がずっと横についていてあげたいんだけど」


 魚住だって暇ではない。他の患者だって居るし協会の健康診断の予約も入っている。医者として『どこが悪いのか視える』という能力は垂涎ものだ。


 一瞬で患者の健康状態を見抜けるのだから医者としてはかなりの腕と言えるだろう。実際、死にかけていたリュウイチを一先ず安定させる事ができるほどの腕はある。


「俺達が交代でリュウイチを見に来てもいいですか?」

「本当はダメなんだけど……君たちのことだから扉壊してでも様子見に来るだろうしね。いいよ」


 リュウイチを心配しているのは皆同じことなのだ。誰か一人が気に病んでいるというわけではない以上、結託して強引に入ってくるかもしれない。


 魚住はなんだかんだ言いつつ彼らの事をよく判っているのだ。


 魚住が医者じゃなかったら副隊長になっていたかもしれない。


 それくらい関係が濃い人物なのだ。


「……今日は美鈴が残るか?」

「……いいの?」

「とりあえず今のお前じゃ仕事にならないだろ。確り見ていてくれ」

「わかった」


 葉山だけを残してその場を去る。レヴェルは事情聴衆だ。何故ここまで酷いことになっているのかを詳しく知っているのはレヴェルしかいない。


 皆残りたいのは山々だが、組織のトップ連中が揃いも揃って不在なのは不味い。


 それに副隊長達に連絡もしなければならない。きっと彼らも仕事が手についていないだろう。


 あれだけの人数がいなくなると、急に空間が広くなった。ガラス越しに、ほんの少し中の音が聞こえる。


 断続的に鳴る電子音、それと微かな呼吸音。音に合わせて胸が上下するのを見ると妙に落ち着いた。まだリュウイチは生きている。


 何度も何度も確認して、目を開けたりしないか顔を確認する。


 今までも入院することはあった。能力が暴走した時はリュウイチは生命力を使ってしまう。一度それで心臓が止まったこともあった。


 偶々魚住が近くにいたときの暴走だったので即座に対処してもらい事なきを得たが、あのとき魚住が居なかったらと思うとゾッとする。


 だが、今回はその比ではない。もう二度と目を開けない可能性だって十分にある。いや、魚住は明言していなかったが多分その可能性の方が高いくらいだろう。


 ガラスに手を触れ、ギリギリまで近付く。


「いつもみたいに怪我くらい早く治して出てきてよ、バカ……」


 小さく嗚咽を洩らしながらその場に座り込む。隠しきれない涙が顔を隠した手の隙間から流れ落ちていく。


 前を見れないでいると、急に昔の事を思い出した。


 龍一が協会を作ると宣言した時の事だ。最初から「うん、やろう!」とは流石にならなかった。むしろ賛成派の方が少数だったくらいだ。


 葉山は反対派だった。そういうことは大人に任せておくべきだと考えたからである。


『考えてみてよ。今、どれくらいの人数が超能力使えるかはわからないけど、相当な数いるはずだ。それを管理しなくてどうする』

『私たちのやることじゃない。大人に任せればいいじゃない』

『大人は多分動くのが遅い。間に合わなくなる』

『なにが?』

『このままじゃ、いつか反対運動とかじゃ済まなくなる』


 あのときから、龍一は1歩先を見ていた。いや、100歩先くらいまで見えていたのかもしれない。


 なにかが起こってからでは遅い。龍一の考えは最初意味がわからなかったが、今こうして能力者が浸透してきた社会にいればあのときの言葉の意味もわかる。


 要するに、法の整備がなされる前に抑止力が必要なのだ。能力を無意味に使えばペナルティがあると知れば、人はある程度力を使うのをやめる。


 無法地帯であってはならない。能力者を即座に束ね、管理し、ルールに反したものに罰を与える。龍一が言っていたのはそういうことだったのだ。


 法という国の縛りでは間に合わない恐れがある。だが、協会内のルールというくくりで動けば別だ。人に害をなした場合即座に能力消去を行う。それを大々的に広めれば抑止力はできる。


 協会に入ることでのメリットも勿論ある。ルールさえ破らなければ身の安全が保証される上、就職にも有利だったりする。


 ここまで布石を撒いたのが当時小学生だったとは、感心を通り越して逆に恐ろしい。


「龍一はいつも分かりにくいよ……」


 ガラスに背を預けて組んだ腕に顔を埋めた。

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