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61 一縷の望み

「……ありがとう」


 半透明の地面に降り立つと、セントレンドの作った扉から出てきたセドム達が迎えた。


 リュウイチをそっと地面に下ろしてから人の姿になる。レヴェルがリュウイチに瓜二つなのは始めてみた人の形をした人がリュウイチだったからだ。


 見たものをそのまま再現する力が、レヴェルにはあったからだ。


 リュウイチを囲んで、全員がその場に座り込む。


「……強いな、この子は」

「ああ。俺達の子だ。とびきり強くて当たり前だ」


 全身に火傷を負い、黒水晶に侵食された姿はかなり痛々しい。実際、かなり苦しかったはずだ。


 だが、やりきった。やりきってくれた。


「本来は、私達大人がやらなければいけないことだったのにな」

「全部背負わせてしまった……」


 全員の命を背負って、相当な痛みとリスクに耐えながら戦い抜いた。本当なら守られるべき存在のリュウイチが。


「……いや、リュウイチは大人だ。ラグーンに居たときのような子供ではない」


 レヴェルが、ポツリとそう言った。


 何年もずっと一緒にいた間柄だ。この中の誰よりもリュウイチのことを知っている。


 セドムはレヴェルに小さく頭を下げた。


「君が、リュウイチを助けてくれたんだろう? 本当にありがとう。リュウイチは君のことをずっと話していたよ。自分の話なんかよりずっと君のことを」

「……助けられたのは、こっちもだ」


 ラグーンに迷いこんだときレヴェルに色々としてくれたのはリュウイチだ。


 食べ物をくれたり、怪我を診てくれたり。レヴェルが打ち解けてきた頃には本で読んだ様々な知識を教えてくれた。


 自分の力が恐いと言いながら外に憧れ、たくさんの物を見たいと言った。リュウイチが横にいるだけで何てことない空や、木々や、海が急に色鮮やかなものになった。


 歩くことに必死になって下しか見えていなかったレヴェルに風の気持ちよさと爽やかな雨の匂いを教え、一度立ち止まって周囲を見ることを話した。


 リュウイチがいなかったら、レヴェルは必死すぎて早死にしていたかもしれない。


 互いに互いを支えあって生きてきた。


 感謝されることはなにもない。


「リュウイチは、大人だ。先に行くのが恐いからと泣き叫ぶ子供ではない」

「……そうだね。この子はいつの間にか大人になっていたみたいだ」


 レヴェルの言葉にセドムが同意する。


 数秒間の間が空き、セントレンドがレッテに訊ねる。


「レッテ。どうにか、ならないか」

「……ならない。復旧はもう使えないし、リュウイチは回復魔法が効きにくい体だ。昔の方法だと、心臓が止まってたらどうしようもない」


 昔の方法、というのは魔法が発見される前の魔法を使わない医療だ。つまりは天宮城のいた日本の医療と似たようなものだ。


 そこまで考えて、レヴェルの動きが止まった。


 ……何故気付かなかったのだろう。


「こいつは、魔法が効かない体質なんだよな?」

「え? ……ああ、そうだけど」

「じゃあ魔法以外ならなんとかならないのか?」


 魔法以外。その言葉に当てはまるのは固有能力と呼ばれる力、つまりリュウイチの進化やレッテの復旧だ。


「いや、回復に使えそうな能力は復旧くらいしか」

「それじゃない。それはもう無理なんだろう?」


 じゃあ一体それ以外になにがあるというのだ。レヴェルを除く全員が怪訝な表情になる。


「日本なら、治せるかもしれない」


 魔法がダメなら、魔法以外の方法で試せばいい。幸いにも協会には腕のいい医師がいる。正直あまり頼りたくないがあの人なら全身全霊を以てなんとかしてくれるかもしれない。


「そんなに医療技術が発達してるのかい?」

「いやわからん。専門家ではないからな。だが魔法を一切使わない治療ならあっちの方がいいだろう」


 善は急げとリュウイチをそっと抱えるレヴェル。まだリュウイチが死んでいないなら、可能性があるかもしれない。


 ほんの少し、微かにだがまだ脈は動いている。


 問題なのは向こうに行く方法と、それまでリュウイチが生きていられるかだ。リュウイチはもうピクリとも動かない。一応体が動いているだけでそのうち心臓も停止するだろう。


「ニホン、という場所がどこかはわからないけど、リュウイチが通っていた世界線の道なら逆探知で広げられるよ」


 セントレンドが手を前に出す。空間を司る神の手が動くとたくさんの扉が周囲に現れる。


 どれもうっすらと透けていて、消えたり増えたりしている。


 世界を渡る時に通過する世界線の空間を扉という馴染み深いもので繋いでいるのだ。この扉そのものは実はなんの関係もない。


 道が大量に並んでいるよりも扉がたくさんあった方が探しやすい、という謎の価値観から扉を作っているだけだ。正直、誰も理解できない美学である。


「あった、あれだ!」


 セントレンドがぐいっと手を手前に引くと奥にあった扉が音もなく開く。向こう側に見えるのは天宮城の自室だ。


 協会に引っ越してきたときすっからかんだった本棚には本や写真が飾られていた。天宮城の居るはずだった場所。


「いってくる」


 着いていきたいのは山々だが、力の強いリュウイチが死にかけていることで制御が弛んでいるのか能力が駄々漏れになっていてかなり道が不安定なのだ。


 ここに更に神が加わったら道に負荷がかかって道が途切れかねない。レヴェルに任せるしかなかった。


「頼んだよ」

「わかっている。絶対に、なんとかする」


 しっかりと頷いてから足を踏み出した。

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