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57ー7 真実の罠

 話の内容が途中からシスルノの姉には関係ない話になってきたのでシスルノの姉はその時点で一旦別行動をとるために別れた。


 話し終えると、後ろからちょっと抜けてそうな男性が現れる。


 どこかほんわかした、といった表現が正しいだろうか。


「いやぁ、ごめんごめん」

「……ほんとに謝ってる?」

「謝ってるって。ほら。この通り!」


 その男性にジト目を向けるリュウイチ。アインが恐る恐る訊ねてくる。


「アレク。……どちら様?」

「えっと……俺の父親って言うか、うん。父親」

「なんで言い淀むんだい……」


 父親なのにあまり父親と見られてないことに少なからずショックを受けている様子のセドムに苦笑するシーナと、唖然とするアイン。


 アインの反応を見て、リュウイチが首をかしげた。


「アイン? どうした?」

「え? ええ、うん。……アレクに親っていたの?」

「は?」


 リュウイチからすれば、じゃあ俺はどうやって生まれてきたと思ってるんだ? くらいの事なのだが、アインは最初に会ったときからアレク=リュウイチだと知っている。


 天宮城自身が自分をリュウイチだと知る前からそうだと思い込んでいるのだ。


 自分をアレクだと言い張るのはリュウイチだとバレてしまってはいけないからだと思っていたのだ。


 そこで出てきた父親。そもそもほとんど下界に降りることはなかったリュウイチ達はどんな存在であるか謎が多い。


 便宜上神と呼んでいるがそれは一種の種族名の渾名みたいなもので生物としての彼らの存在は名前すらついていない。


 人間がヒューム族と呼ばれてるのと同じで、一応は人種のひとつである。


 だがあまりにも閉鎖的だったために(実際はほぼ全滅しかけていたため)そもそもどうやって生まれてくるのか、何を食べるのかなどは全く知られていない。


 神と呼ばれているのはその希少性の高さからでもあるのだ。


 なので「彼らは不老不死であるが故に生まれる時は皆同時で、繁殖などしなくても存在できる最高位の存在である」ということになっている。


 つまり、生まれるというより発生すると思われている。いつのまにかどこかで一斉に発生し、朽ちることなく永遠を生きる。そういうものだと言われていた。


 だから「親」という存在が居た時点でアインの頭は軽くパンクしている。


「え、アインって俺のことなんだと思ってたの」

「ええ……と、人間なんでしょ?」


 わざと濁したのは、アレクがリュウイチであることを隠し通そうとしていると勘違いしているのでそれをうっかり言ってしまわないようにこう言ったのだ。


 人間という種族は滅んで数百年経っている。そのためにその生体はよく知られていない。神とそう変わらない立ち位置の存在なのだ。


 だから人間に近い形でいることが好まれる。位の高い人が人間に獣耳生えただけの姿が多いのはこの事からだ。


 リュウイチ達は船が店そのものである関係上、海部の町から内側には殆ど入ったことはないのだが、内陸部にあるほど全身獣っぽい人種が増えるらしい。


 リュウイチはアインの言葉に変な形で納得した。


「ああ。そうだけど……(これって本当の種族バレてないってことなのかな)」

「うん、だよね……(やっぱり隠しといた方がいいんだよね)」

「……なんのお話でしょうか(お二方とも恐らく話が噛み合ってないご様子ですが)」


 ある意味で唯一理解できていたのはシーナだけだった。


 リュウイチは最初からアインに「神様である」と思われていることなど毛ほども思っていない。というか考えたことがない。


 そもそも天宮城がリュウイチだと自覚したタイミングは割りと最近である。それより前にもしアインに「神様ですよね?」と聞かれたところで「いや、違うけど?」と答えるだけである。


 そしてこの答え方、捉えようによっては取り繕っているようにも聞こえてしまうのだ。


 リュウイチ本人に全くその気がなくとも、疑われてしまった場合相手にずっと勘違いされることになっている。未だに。


「アレク様のお父上。アレク様にはお世話になっております」

「ああ、丁寧にどうも。僕はセドム。宜しくね」


 すれ違ったまま苦笑いをするリュウイチとアインの隣で二人がペコペコと社会人っぽい挨拶を交わしていた。日本でなら名刺を交換していそうな雰囲気である。


「そろそろ始めるよ」

「ん、ああ、もうそんな時間か」


 リュウイチがセドムに話しかける。リュウイチの手には手のひらサイズの懐中時計が握られていた。文字盤が割れている上に針も止まっている、完全に壊れているそれをちらと見てアインたちに目を向ける。


「アイン。シーナ。さっき話した通りに頼む」

「……全部終わったら、ちゃんと説明してよ」

「わかってる。全部話すよ」


 アインの小言に苦笑しながら頷くリュウイチ。その表情はいつも通りで、でもいつも通り過ぎて怖い。


 こんな訳のわからない状況で、完全に普段通りに行動できるはずがない。


 それが出来るのは『滅茶苦茶に図太い』か『普段から隠している』かのどちらかだ。アインもシーナも、付き合いの長さからリュウイチの場合は後者であることを知っている。


 演技することを常とし、本心を欠片も見せない鉄面皮。それでもとてつもないお人好しだからきっと根は優しいのだろう。


 彼の場合、本心を隠すのは人を騙すためではなく、自分を守るために本心を見せないのだ。極限まで自分を殺すことで自分を生かし続ける。


 天宮城であったころも、リュウイチであったころもその行動原理は変わらないあたり、行動だけには本心が反映されている。だから二人は止めない。リュウイチが決めたことだから、どんなことでも最終的には許してあげるのだ。


 それが表情も言葉も作り物で塗りかためてしまうリュウイチの本心を知る唯一の方法だ。


「アレク様。お気をつけて」

「シーナも、ここは任せたよ」

「はい」


 リュウイチがやると決めたら、二人はそのサポートに回る。役割分担しているわけではない。そうあるべきだと、皆無意識に行動するのだ。それがリュウイチの力でもある。


 『言葉ひとつで人を動かせてしまう』カリスマ性が彼にはあるのだから。


「やろう。あの自称創造主を罠に嵌めて損害賠償させる」


 手を上に掲げて、ニヤリと笑った。


 その笑みは演技なのだろうか、それとも本心からなのだろうか。それがわかる者は世界に誰一人としていない。

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