57ー6 真実の罠
「どうなってるんだ⁉」
「ここどこ⁉」
「なにこれ……」
呆然と立ち尽くす者、驚きに声を荒らげる者、その場に座り込んでしまっている者。各々が千差万別の反応を見せる。
アイン達はその中でぼんやりと座り込んでいた。
「ねぇ。これどういうことなの? ……どういうことなの?」
「空が見えません。どうやらどこかに飛ばされたらしいですね」
意味もわからず辺りを見回して同じ言葉を2回言うアインと、比較的冷静に状況分析をするシーナ。
一緒に居た筈の凛音は別の場所に飛ばされたのか、近くにはいない。実際にはリュウイチの睡眠薬で本体に影響がいってしまっていて分体が崩れてしまっている。
「空がないのに、明るいね」
「この壁が淡く発光していますね。どうやら光石が入っているみたいです」
光石は酸素に反応して淡く光る鉱物だ。それほど珍しいものでもないが、値もそれなりにするのでこれほどまでの光石を準備しようとなると相当な費用がかかるだろう。
「これから、どうしようか……。アレクがいなくなっちゃって、皆離れ離れになっていったら……」
「大丈夫ですよ。アレク様ならきっと見つかりますし、また皆様で服を売り歩くことだってできます」
シーナもそう言ってはいるものの根拠はない為に強くは言えない。
どうしたらいいのか、誰にもわからないのだ。
「あの、弟のルノを……ドワーフの男の子を見ませんでしたか?」
「え? 見てないですね……はぐれちゃったのかも」
「凛音様も居ませんし、別々の場所に飛んでしまったのかもしれませんね」
隣でキョロキョロしているのはドワーフの少女だ。とはいってもドワーフなので見た目より大分年は上なのだろう。
探すのに強力してあげたいところだが自分達ですら今は手一杯なので他人の弟を探すのはどうしてもついでになってしまう。
それ以前に、実はあまり記憶がはっきりしないのだ。
「アイン‼」
誰かから呼ばれた気がしてアインが辺りを見回す。だが、人が多すぎる上に皆混乱しているのでどこに誰がいるのかもわからない。
「どうされましたか?」
「今、私の名前呼ばれなかった?」
「えっと、聞こえませんでした」
シーナは聞こえなかったらしい。空耳かと思考の外に追いやろうとすると、今度ははっきり聞こえた。
「アイン‼」
「えっ?」
「今、アレク様の声が……?」
今度はシーナにも聞こえた。しかも聞き覚えのある声で。
「避けてくれっ!」
「へっ?」
真上から降ってきた。
とっさに魔法で気流を発生させて減速させたが勢いを殺しきれるほど強いものでもないので揉みくちゃになって地面に転がる。
「だ、大丈夫ですか⁉」
シーナが珍しく見てわかるほどに慌てながら落下してきたリュウイチと下敷きになったアインに話しかける。
「いっつ……ごめんアイン。声かけたから気づいてくれるかと思ったんだけど」
「かけるタイミング遅すぎるわよ……」
久々に顔を見合わせ、なにを話すかちょっと迷った。
するとアインが急に笑いだした。
「はっははは!」
「え、なに?」
「はははっ、鏡見た? 真っ黒だよ」
笑いながら差し出された鏡に顔を映してみると泥や煤で汚れまくっていた。状況的には結構それどころではなかったので全く気づかなかったのである。
「う、わぁ。汚い」
「アレク様、こちらを」
シーナがタオルを取り出してリュウイチに手渡した。それをみてアインが魔法で水を出し濡れタオルにする。
「ああ、ありがとう。それより、思ったより冷静で驚いたよ」
「冷静じゃないわよ。ただ、アレクが帰ってきたってことで一旦忘れてただけで……って、あ! 凛音達がいないの」
「それは大丈夫。レヴェルは結界外にギリギリ脱出したんだけど、後は多分別の場所に飛ばされただけだから。結界ギリギリの場所だと地面ごと移動させるには土地の形を変えないといけなかったからね」
リュウイチの言葉に二人が眉を潜める。
「レヴェルって誰?」
「ん? あ、ごめん。琥珀のことだよ。あいつ本名はレヴェルっていうんだ」
「そうだったんですか……それと、なぜここまでこの状況に詳しいのか、教えていただけますか?」
リュウイチはすぐに首をたてに振ったが、周りを気にしてか中々話し出せないでいる。
そんな時に飛ばされた直後にアイン達が話しかけられたドワーフの少女に今度はリュウイチが突然話しかけた。
「あの、もしかしてシスルノ君のお姉さんですか?」
「ルノを、知ってるんですか⁉ 今どこに⁉」
「やっぱりそうですか。彼は今こことは少し離れた場所にいますが、安心してください。無事ですし、こちらに到着するまで多少の時間はかかりますがすぐに会えるでしょう」
シスルノという男の子の名前をアイン達は知らない。
結界が張られる直前に異変に気づいたレヴェルが咄嗟に真横にいた男の子をつかんで飛んだのだ。そのすぐ後に結界が張られたのでもしあそこにそのまま立っていたら結界で体が切れていただろう。
助けた後に名前だったりを聞いたからアイン達は知らないのだ。
「えっと、アレクの知り合いだったの?」
「その前に、今の状況についてだが。アイン達が琥珀と別れてから、二週間近く経ってる。それに気付いているか?」
「はっ? え?」
リュウイチは結界内に閉じ込められていた時間、記憶が消えることを知っている。一時的に眠り続ける状態になるのだ。
だから凛音の分体も反応しなかったのだ。
「ごめん、時間ないから手短に話させてもらう。いいね?」
質問その他はあんまり受け付けられないからよろしく、と付け加えて言葉を続けた。
「先ず、今の状況なんだけど。ここは木の中なんだ。木の中に島を移して固定させてる」
「なんでまたそんなこと?」
「ちょっと避難してもらう必要があるからだよ。ここから先はアインとシーナにもやってもらいたいことがある。しっかり聞いていてくれ。罠を、ここに張っておきたい」
シーナが軽く目を細めた。
「なにを仕留めるおつもりですか?」
「……来訪者。この世を創った張本人だよ」
リュウイチが意味深に広角を上げた。なにか企んでいるのは一目瞭然である。
商談の前日みたいな雰囲気に、アインが長いため息をついたのだった。




