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57ー5 真実の罠

 それから凛音は黙り込んでしまい、気まずくなった二人は大雑把に互いの状況を話し終わり一息つく。相変わらず部屋は真っ暗だがもう気にならなくなってきた。


「それで、これからどうする? 来訪者がいつここに気付くかもわからないのに、他の皆を探しに行けるのか……?」

「そのために、この時代の人々に協力してもらっているんだ」


 リュウイチの疑問に淀みなく答えるセドム。元々勢いで動いているリュウイチとは違い、セドム達は数百年単位で物事を動かして考えているのだ。


 当たり前ではあるが、この場合の対処はセドムの方が正しいだろう。何年間も練ってきた計画だ。


「まず、私たちは―――」


 セドムの今後の計画を聞き、リュウイチが眉を潜める。


「……それで大丈夫なのか?」

「恐らく。多分。そういくといいなと思っている」

「確証は全くないわけか……」


 楽観的すぎるセドムの答えにため息をつくリュウイチ。だが、セドムのこの曖昧な言い方は納得がいった。


「確かに、あの圧倒的すぎる相手にはどんな作戦も曖昧にはなるだろうけど……」


 そもそも戦力が計れない。


 RPGで言えばこっちはレベル1なのにあっちは100あるくらいの差だ。どんな攻撃もほぼノーダメージで耐えられてしまう上に逆に一発でも食らえばゲームオーバーである。


 もうチートの域を明らかに越えている。


 そんな相手に、たとえ全員でかかったとして本当に勝てるのだろうか。全員の能力を一斉に使ったところで効果はあるのだろうか。


 勝つために、なにができるのだろうか。


 今全員を起こしたところで、勝てる見込みはない。


 あの来訪者の反応からして一番相手が嫌がりそうなことをしてやっているだけだ。それが有効であるかは正直なんともいえない。


「とりあえず、やるだけやってみよう。……これでどうにもならなかったら、この世界そのものが終わる」


 そう言ってからリュウイチはひとつ気付いたことをセドムに話しておくことにした。


「ああ、そうだ。言うの忘れてたんだけど、あの来訪者。多分俺達しか傷つけられない。レヴェル達と行動していたのに襲われたのは俺だけだった。レヴェル達を驚異に思っていたとは思えないし、多分だけどシステム上の問題かなにかで」

「なるほど。確かに私たちが戦ったときもそうだったな。私たちが召喚した獣は殺されてしまったが、それ以外の木々なんかは倒された後元に戻っていた気がする」


 セドムの言葉に頷いてから立ちあがろうとすると、凛音がリュウイチの服の裾を掴んでいた。


「凛音?」

『行かないで……お願いだから、一緒に……ずっとここに居てっ‼』

「………」


 ドライアドの彼女は見た目よりずっと力が強い。勿論本気を出せば圧倒的にリュウイチの方が怪力だが、下手に手を払ったりして凛音を怪我させないかが心配だった。


「凛音………ごめん、むりだ」


 いやいやと首をふる凛音。


 女性の涙に弱い二人は困惑して顔を見合わせる。どちらもどうしたら良いのかわからないというちょっと絶望的な状況である。


 リュウイチはしゃがんで凛音の頭を撫でた。


「離してくれ、頼むよ」

『離さないもん』


 より強く抱きつかれてもう本当にどうしたら良いのかわからない。二人揃って誰か助けてくれとさえ思っていた。


「凛音……ごめんね」


 リュウイチはバズーカを突如取り出したと思うと、その形を針に変えて凛音に軽く突き刺す。その瞬間に凛音が大量の木の葉になってバラバラに散らばった。


「わっ⁉ ビックリした……分体って葉っぱでできてるんだ……」

「何をしたんだい?」

「針の先から睡眠薬をちょっと。それくらいの調節ならできるから」


 かなり強力なものを使ったので本体も暫く寝たままだろう。その証拠に外に出ても凛音の妨害はなかった。


 急いで一旦家に駆け込む。文字通り派手な音を響かせながら家に転がり込んだ。


 偶々廊下にいたレヴェルが目を丸くしている。


「うぉっ⁉ お帰り……」

「ごめんレヴェル、ルノ君とここに居てっ‼」

「は?」


 ウィルを呼んで矢筒と弓を掴んで外に出る。そこには既にセドムと蔦でできた巨大な鳥が待っていた。


 この鳥は本物ではない。セドムが作ったゴーレムのようなもので、指示を出せばその通りに動く人形だ。


「おい、ちょっと」

「頼む、ここにいてくれ!」


 止めようとするレヴェルを完全無視してセドムとリュウイチ、ウィルを乗せた蔦の鳥が恐ろしい勢いで上昇する。


 相当な高々度に到達したところでリュウイチが弓を構える。矢の先端につけられているのは種だ。


「外すなよ」

「外さないよ」


 風の向きや強さ、距離と速度を一瞬で計算し狙ったところに矢を届かせる。何発も連続で放つのには向かないが、精度は抜群だ。


 矢が何本も軌跡を描きながら遥か下の地上へと降り注ぐ。


 リュウイチが息を長く吐いて一旦集中を解いた。あまりの高さ故に吐く息が白く広がっていく。


「……芽吹いた」


 ボソッとセドムが呟き、リュウイチに目配せをしながら鳥に高度を下げるよう指示する。ウィルはリュウイチが落下しない為の保険だ。ずっと傍についている。


 ハッキリと地面が見えるくらいになるまで高度を下げると、もうそこは今まで見てきた世界とは異なっていた。


「凄……」

「何百年も力を込め続けた種達だ。一瞬でここまでやるのは少々骨が折れたけどね」


 唖然とするリュウイチ。眼下に広がっていたのは巨大な一本の木だった。いや、一本ではない。何本もの木が寄り添うように聳え立ち、巨大な一本の木と化していた。


「世界樹より大きいんじゃないか、これ……」

「そうだな」


 木の頂上に着陸し、枝をつたって下に降りていく。とはいっても一本一本の枝が超巨大だ。枝の中に天宮城が通っていた高校が丸々すっぽり収まるくらいの大きさだ。いったい直径何メートルあるのだろうか。


 しかもそれで枝分かれした一本である。


 横穴を見つけて、入ってみた。中はルペンドラスと同じで空洞だったが、ありえない構造になっていた。


「町が丸々入ってるのか……」


 そこには人が大勢いた。


 結界内に閉じ込められていた人達が一斉に放出されたのだ。どこかにアイン達もいるのだろう。


 中は円形に通路や階段が広がっており、相当深いところまで人が散らばっていた。何階分あるのかわからないが、一階で町一個は軽々入るスペースがある。


 いや、スペースというのは間違っているだろう。


 各島に散らばっていた町が今この木の中に転移されたのだ。島ごとここに飛んできたと言ってもいいだろう。


 多数の島が木の中に存在するというのはおかしな話だ。だが、このおかしな話を実現してしまった。


「もう引き返せないぞ。覚悟はあるか?」

「なかったらここにいないよ」

「……フッ、それもそうか」


 人類世界樹内移住化計画、たった二人と一体の人形によってそれが実行に移された。

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