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57ー4 真実の罠

 衝撃で動けなくなっている二人に、箱から出てきた本人が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「あー……なんというか……久しぶりだね。二人とも」

「『……二人とも?』」


 凛音とリュウイチ、二人各々の記憶に残っている人物ではあるが、これまで互いに面識はなかった。


 つまりリュウイチは凛音と会う前、凛音はリュウイチに会う前に目の前の人物と会っていたということである。


「俺……ずっと、皆死んだのかと思って……全部俺のせいだと……」

「そんなわけないだろう? お前になんとか出来た事ではなかったんだ。リジェクトも、来訪者も」

「来訪……者?」

「会ったんじゃないのかい? 子供みたいな格好をしているんだけど、あり得ないほど強い」

「ああ、自称創造主……。うん。会ったよ」


 どうやらアロクにリュウイチを守らせるためにリジェクトから逃がした後であの自称創造主と会ったらしい。だからアロクは自称創造主のことを言っていなかったのだ。


 敵がリジェクトだけではなかったのは、ここ最近の話でもなさそうだ。


『……父様』

「凛音の父様、なの?」

『ん』


 目の前の人物が凛音の育ての親らしい。それはリュウイチも納得がいった。


「いつ、この子を育ててたの?」

「お前と別れて、あの来訪者に負けた。皆散り散りになったが恐らく身を隠す為に私と似たような事をして自分自身を封印しているだろうね。その直前に、自分を守るための隠れ家としてルペンドラスを植えたんだ」


 凛音はこの人を守るために産みだされた存在らしい。リュウイチは小さくため息をついた。


「……自分勝手だね」

「そうだね。少し悪かったとは思っているよ」


 どこか二人の雰囲気は似ているところがある。落ち着いているところや、掴み所のない表情をしているところが特に。


『二人は、なんでお互い知ってるの?』

「ええと……この人、俺の父親なんだ。だから凛音は義理の妹ってことになる……のかな?」


 凛音は何度も瞬きを繰返し、首を捻る。


 親子? この二人が? そしてアレクは兄なの?


 疑問が疑問しか生まない。考えれば考えるほど意味がわからなくなってきそうだ。


 植物を司る神、セドム。それが目の前の人物の名前であり、リュウイチと凛音の父親である。


「……リュウイチ、お前がここにいるということは結界が発動したんだね?」

「それを聞きたかったんだ。どうしてこんなことになっているのか……ここ最近色々ありすぎてね」

「そうか。じゃあ先にシステムのことを話すかな」


 暗がりの中、小さな声で話し始めた。


「この世界の人々を管理するために職業ジョブやステータスが作られているというのはしってるよね? 私たちにはそれが適応されないことも」

「それは知ってる。来訪者だっけ、そいつが作ったんでしょ?」

「そうだ。あれは私たちよりもここの事を理解している」


 リュウイチ達にそれが適応されないのは直接的な監視下にあるからである。それ以外の有象無象には面倒なので監視ではなく各々異なったステータスというものを与えて区別しやすくしているのだ。


 具体的な例をあげると、高額商品はどれも値段を覚えているがスーパーにおいてある物の値段は覚えていない、といった具合だろうか。


 高額商品であるからこそリュウイチ達は常に監視され続けている。地図を見つけた瞬間に結界内であろうと襲われたのはそういうことなのだ。


 それをあらかじめ予測していたからリュウイチは最後の場所は一人で行ったのである。


「だが、このシステムには穴がある」

『穴?』

「……混血種のこと?」

「なんだ、気づいていたのか」


 セドムはリュウイチの言葉に素直に驚く。


「混血種のステータスには魔力というものの欄が最初から0で固定されている。皆バラバラでなければならないのに、だ」

『それ、駄目なの?』

「ダメじゃないかもしれないけど、システムとしては失敗だ。人を管理するためにあるのに、個体識別番号が全部一緒であるってくらいのことなんだよ」


 それでは管理できない。その事自体は特に問題ではないのだ。


 それを来訪者が直さなかったのが、不思議な点なのである。


「普通それに気づいたらなんとかするだろう? でも来訪者はしなかった。……いや、できなかった」

『どうして?』

「そんな権限がない、若しくはこの世界を全く見ていなかった。前者の場合なら今この世界を襲う理由がわからないから多分後者」


 この世界を全く見ていなかった。それはこの何百年間、管理者の目を逃れて自分で独自の力を磨くことができたということだ。


 そこに勝機がある。


「もし、相手が昔の技術しか知らないとしたら。現代知識のあるこっちが有利になるとは思わないか?」


 鉄砲も知らない時代の人と化学兵器が世に浸透している現代の人、この二人が本気で殺り合ったらほぼ確実に現代人が勝てるだろう。


 現代の知識は過去の人の経験から生まれ引き継がれたものである。経験は場合によっては最強の武器になりうるのだ。


「私たちはお前に託したんだ、リュウイチ。もしあの来訪者の力を感じたら即座に全世界に結界を張り、お前に私たちを起こしてもらおうと考えてな」

「……了解もしてないのに勝手に託さないでよ」

「ごめんな。ああするしかなかった」


 中途半端な魔法文字で【過去を知る】リュウイチにしか解けないパズルを用意し、様々な鍵を作り、各々別々の場所に自分自身を封印した。


 手の込んでいるものだ。だが逆に言えばそうでもしないと勝てないのだ。


 最初にリュウイチが来訪者と会ったときに殺される可能性だって十分あったのだ。偶々逃がされただけで、状況は芳しくはない。


 結局親に頼るしか方法が思いつかなかった。


 リュウイチはリュウイチで大変な思いをしてここにいる。それを理解しているからかセドムはあまり多くは語らなかった。


「リュウイチ。後の皆を起こしにいこう。それから……一緒に死んでくれるか?」

「今更……だね」

『……死ぬ? アレク死なないよね?』


 暗すぎて、リュウイチの表情もセドムの表情も、よく見えない。だが凛音は二人が笑っているようにも泣いているようにも見えた。


「それは……無理かな」

『なんで』

「システムには穴がある、そう言ったでしょ? 混血種の魔力の話しはそれが事実であるということの確認でしかないんだ。本当の穴は別にある。それを無理矢理広げて、ぶち壊す。それをして初めてこの世界の監視システムを壊せるんだ」


 そこで一旦言葉を切って、リュウイチが呟く。


「……その穴を広げるには、俺達の力を注ぐ必要がある。やり方は知ってるけど、バグを発生させるだけならまだしも壊すまでやろうと思うと確実に全員死ぬだろうね」

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