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55ー6 終われない。終わりたくない

 落下するしかなかったリュウイチの体が何かに引っ張りあげられて途中で止まる。


 金属質の人形の手がリュウイチを抱えている。


「ウィル‼」


 魔力の糸を地上に引っ掻けて飛び降りてきてくれたらしい。


 なんとか助かったとホッとしていると上から声が降ってきた。


「大丈夫かー⁉」

「ご無事ですかー⁉」


 レヴェルとシスルノの声だ。どうやら落ちたのはリュウイチだけだったらしい。


「とりあえず大丈夫ー‼」


 ウィルに支えられたまま鞄を探り、ペンライトを取り出す。底を照らしてみるが暗闇が打ち消す程に下があった。


 手で投げるタイプの閃光弾を落としてみる。


 ほんの少し光が見えた。


「ウィル。ちょっと付き合ってくれる?」


 話しかけるといつものように無言で首を縦に振るウィル。カチャリと硬質な音が縦穴に響いた。


「レヴェルー‼ 俺達下まで降りてみる!」

「……わかった‼ 無茶はするなよ‼」


 ウィルが受け止めてくれたとはいえ地上からかなり遠いので互いに叫びあって会話する。もし今話しているのが琥珀と天宮城の関係だったら、琥珀はきっと止めている。


 下にどんな危険があるかわからないから天宮城をいかせるわけには行かないと言っていただろう。


 だが今は立場が違う。自分の存在がなんなのか理解している今のリュウイチならば、レヴェルの庇護下に収まらない。


 リュウイチが危険になる状況があるなら、レヴェルは即死だ。それだけ力の差がある。知識の量も経験も、種族の強さまでもリュウイチが勝る。


 だからもう止めないのだ。


 そしてそれをリュウイチ自身もわかっている。


 レヴェルがそうしてくれることをわかっている。それ故リュウイチも無茶はしない。


 レヴェルが信頼してくれる。それだけで十分無茶は出来ない。


「ウィル。ゆっくり降りてみよう」


 スルスルと魔力の糸が伸びていき、徐々にレヴェル達が見下ろしている穴が遠ざかっていく。


 底が近くなってきているのかどうかは未だにわからない。ペンライト程度の光では底まで辿り着かない。それでもこれ以上の光源はないので我慢するしかない。


「底が見えてきた……」


 相当長い間落下していた気がする。地面に立つのが懐かしく感じるほどだ。


 地面に降りてからペンライトで辺りを見回す。下も横も岩でまるで洞窟だった。


「下までついた! とりあえず少し見て回ろうと思う! なにかあったら叫んでくれ‼」

「わかった!」


 ひとまず上のことはレヴェルに任せる。ペンライトという小さく頼りない光の筋をあてにしながら一歩一歩進む。


 もしも迷ったときの為にウィルの糸は繋げたままだ。魔力さえ途切れなければ糸は永遠に伸ばせる。


「なんか、寒いね……」


 リュウイチとウィルの足音だけがコツコツと壁に反響する。足元を照らす光が小さすぎるせいか前に進むことがなんとなく躊躇われる。


 ウィルは話せないので余計に心細く感じる。せめて会話があればもう少し楽なのだが、リュウイチが独り言喋ってるみたいな雰囲気になるので寧ろ悲しくなる。


 なんで母様はウィルに会話機能をつけなかったんだと、どうでもいいことで愚痴る程度には寂しくなっていた。


 そんなこんなで歩き始めて暫くすると、リュウイチがなにかを蹴っ飛ばした。


「⁉ ……なにこれ?」


 カツーン、というなにか固いものが落下した音がした。ペンライトで辺りを探るとそれが何らかの石のブローチであったことがわかった。


 スキルやらなんやらが今全く使えないので鑑定も出来ないが。ついでに言えばそのせいで落下したときも対処できなかったし暗闇でなにも見えない状況になっている。


 普段なら落下中に飛ぶなり速度を遅くするなりいくらでも対処のしようがあったのに、今では前が見えなくてライトを使用する始末である。


 リュウイチがブローチを拾い上げると、それを突然グッと握りこんだ。ウィルに目をやると彼も大きく頷いた。


「ウィル、地上へいこう」


 魔力の糸を操作して一気に地上へと昇っていくリュウイチとウィル。リュウイチはしっかりとブローチを握りしめていた。


「レヴェルー‼ 帰るよ!」

「はっ、わぁっ⁉」


 帰るよ、と言ってから二秒後に穴から飛び出してきた二人と激突しそうになったレヴェルとシスルノ。


 せめてもっと早く穴から出ると知らせてほしかった。もしくはもう少しゆっくり上ってきてほしかった。


 今の速度ではまるで弾丸である。


 二メートルほどはありそうな機械人形と細身だが結構背の高いリュウイチが弾丸並の速度で突っ込んでくるのだ。普通に凶器である。


「レヴェル‼ 他の町にも結界あるんだよね?」

「あ、ああ」

「今すぐ行こう。皆も助けられるかもしれない」

「突然すぎてなにがなんだかわからないんだが」


 リュウイチが手に握りしめていたブローチをレヴェルとシスルノに見せる。


 青く透き通った綺麗な宝石ではあるがそこまで価値の高そうなものではない。見覚えもなかった。


「これは?」

「下に落ちてた。この石がなんなのか解る?」

「いいや」

「これはコカグルークっていう石だ。これ自体はそれほど珍しくない」


 とある鉱石で採れる石らしい。リュウイチはニヤリと笑って、


「魔力をほんの少し帯びる性質があるんだ。それは砕けば波長が変わるから鍵とかに使われるんだよ」

「ということはそのブローチは何らかの鍵だと?」

「結論を出すのは早いよ、レヴェル」


 シスルノがおずおずと口を挟んだ。


「鍵じゃなくて、薬?」

「知ってたんだね、その通り。これはずっと昔にとある病気の特効薬として使われてたんだ。長くなるから割愛するけど、これの発する魔力が見事にその病気を中和できたんだよ」


 シスルノの博識さに少し驚きながら説明を続ける。


「そしてこのブローチ。飾りの模様とか見る限り、大分前のものだね」

「わかるのか?」

「なんとなくね。模様にも流行ってあるから」


 ブローチを何度も回転させてじっと観察するリュウイチ。レヴェルも見てみるがさっぱりである。


「だからこそ予想できる。今回の件、俺達……というか俺に大きく関わってる」

「でも、その病気広まったのは何百年も前の話……」

「そうだね。でも俺はその時生きてた。そしてこれも見覚えがある」


 レヴェルにブローチを預けて辺り一帯に書き込まれているミグノ文字をなんども見返す。


「なんか見覚えのある字だと思ってたんだ……。今ようやく判ったよ」

「誰のだ?」

「……アロクさ。そしてそのブローチは俺の母が下界に行ったときに買ってきたもので、当時病気にかかっていた友人にプレゼントしたものだ」


 リュウイチは結界越しの空を見上げる。その顔には笑みが浮かんでいた。


「……よかった。きっと皆無事だよ」


 その言葉の意味はレヴェルもシスルノもわからかなかった。何を言っているのかよくわからない。なのにどこかその言葉は信頼できると思えた。


 全員無事だ。その言葉には嘘の欠片も見つからなかった。

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