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55ー4 終われない。終わりたくない

 トリップしているリュウイチが突然動きを止めた。その目は窓ガラスの更に向こうへと向けられている。


「あれは……?」

「ああ、始まったか。あれは数時間に一度起こるんだが―――」

「俺、行くよ」

「はぁっ⁉」


 走り出したリュウイチにウィルが無言でついていく。


 シスルノとレヴェルは互いに顔を見合わせてからその後を追った。


「ちょっとまてアレク!」

「あれってどれくらい続く?」

「確か……三十分くらいだが」

「じゃあ説明の時間はあるか」


 リュウイチは結界を見たまま振り向きもせずレヴェルと会話する。その結界はある一定の間隔で萎んだり膨らんだりを繰り返していた。


 まるでそれは、なにかが脈打っているかのごとく。生き物みたいに動き始めていた。


「多分結界が入れ替わってるんだと思う」

「入れ替わる?」

「魂があるから下手に壊せないって言ったけど、今なら壊しても即座に新しいのが張られるだろうからその一瞬なら中に入れると思う」

「大丈夫か?」

「わかんない。けどやるしかないだろ」


 なかで何が起こっているのかは中に入らなければわからない。


 アインたちを助けるためには危険を承知で飛び込む必要がある。


「中に、入るんですか? 入れるんですか?」


 急にシスルノにそう聞かれて若干驚きながらも首を縦に振るリュウイチ。


「僕も、つれていってください」


 ゆっくりと。しかしハッキリとそう言った。中に閉じ込められた人がどうなったかは目の前で見た筈。そしてそれはかなり恐ろしかったのだろう。


 小刻みに体と声が震えている。それでも意思が変わる様子はない。


「邪魔かもしれないけど、僕だって助けに行きたい」

「………下手したら死ぬよ?」

「いい、です。それでも行きたい」


 シスルノは服の裾をぎゅっと握りしめて断言した。


 もうこれはどう揺すったって変わらないな、と感じたリュウイチがレヴェルに目を向けるとレヴェルも溜め息をつきながら首をかしげた。あきれている。


 どうやらリュウイチとシスルノは似た者同士らしい。


「いいよ。君がそういうのなら止められないし、止めようとも思わない。けど全部自己責任だってことを忘れないで。もし君とレヴェルが危険な状況になっていたら俺はレヴェルを助けに行く。君を見捨ててもね。それでもいい?」

「はい」

「そうか。じゃあ行こう」


 特にこれ以上話す必要もない。今度はレヴェルに向かって口を開いた。


「レヴェルも来る?」

「愚問だな」

「そうだね」


 クスクスと笑って全員に指示を出した。


「……そんなので行けるのか」

「わからない。一発勝負だから失敗したらどうしようとかなにも考えてないよ」

「お前が外したら?」

「その時は全力で撤退だ。けどその辺りは多分大丈夫だと思うけどね。止まってる的は基本外したことないんだ」


 リュウイチは矢筒から二本だけ矢を取り出して一本口にくわえ、もう一本を背から取り出した弓につがえた。


 キリキリと弓を引き絞る音が鳴る。因みに、ウィルに肩車された体勢だ。機械人形の肩車という不安定なことこの上ない格好だが矢の先端は全くと言っていいほどブレがない。


 半端でない緊張感の中、弓が放たれた。その音が聞こえた瞬間にウィルが走り出す。右脇にレヴェル、左脇にシスルノ、肩の上にリュウイチというヘンテコな装備のまま見た目は恐ろしい金属製の人形が疾走するというシュールな絵面ではあるが、当人たちは至って真面目である。


「レヴェル!」

「任せろ」


 矢が結界に当たった直後、ウィルに運ばれながらレヴェルが口から炎を吐いた。所謂ドラゴンブレスである。


 その炎は矢が当たって出来た穴が閉じるのを留めていた。だが徐々に結界に押し負けていく。


 結界に穴を開けてその中にダイブするという雑で単純明快な策戦を告げられたときは少し呆れていたレヴェルだが、キチンと自分の役割は果たしてくれるらしい。


「上出来だ。レヴェル」


 なんとか炎で押し止めていた穴が完全に閉じかけてきたところで口にくわえていたもう一本を構えたリュウイチが全く同じところに矢を射る。


 リュウイチの崩壊能力の込められた矢は炎をや火の粉すら崩壊させ、穴を押し広げた。


「飛び込めっ‼」


 ウィルがスライディングする形で結界になんとか体をねじ込むことに成功した。ウィルはリュウイチ達を怪我させないように自分を下敷きにして地面に落下する。


「ウィル、ありがとう」


 全員無事と確認してからウィルに礼を言う。そして直ぐ様レヴェルにアイコンタクトをとった。


 予め話してあったので直ぐに意図を理解し、レヴェルは全員が乗れるほどの大きさのドラゴンになった。昔は大きさの調節が苦手だった筈だが、レヴェルも練習は怠っていなかったらしい。


「中央まで」

『わかっている』


 白竜が浮かび上がると、シスルノが感嘆の声を漏らした。


「ルノ君はドラゴンに乗るの初めて?」

「はい。特に白竜なんて……神話でしか聞いたことないです」


 普通はそういうものなのだろう。身近にいるのがおかしいのだ。……身近に神が居るのもおかしいのだが。


「琥珀さんが白竜だったなんて驚きました。竜人族じゃなかったんですね」

「流石に普段から竜になるわけにはいかないしね……」


 町の中央にレヴェルがゆっくりと降り立った。


 その背からリュウイチ達が順番に飛び降りて辺りを見回す。


「……やっぱり人はいないか」

「アレクさん。ここになにを?」

「俺にとって大切なものがここにあると思ったんだ。勿論アインたちを助けにきたってのもあるけど」


 地面を触り、店の中などを見ていく。人型形態になったレヴェルがぽつりと呟いた。


「本当にただ無人だな。人だけが丸ごと消え去っただけという感じがする」


 リュウイチはそうだな、と相槌を打ってから眉を潜めた。


「いや……おかしくないか?」

「なにがだ」

「皆、地面に沈んでいったんだよな?」

「ああ」

「全く抵抗した様子がない。その場からパッと消えたって言うんならありえるかもしれないけど、沼みたいに沈んでいったんだろ? 商品の一つくらい落っこちていても不思議じゃない」


 背後で水の落ちる音がした。

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