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55ー2 終われない。終わりたくない

 かなりの速度で飛行しながらレヴェルが口を開いた。


『先程の話を聞いていて思ったのだが、自称創造主とやらはわざとお前を逃がしたのではないのか』

「……多分ね。俺だってそうする。上手いこと一人にさせて殺すつもりなんだろう」

『若しくは、生きているかもしれないお前の同族を完全に復活する前に』

「殺す、とでも思ってるんだろうね。でもあっちの目論見も半分外れてる。皆が生きていたとしてどこにいるのかなんて俺も知らない」


 自称創造主はリュウイチ達が勢揃いするのを一番恐れていると思われる。


 だがどこにいるかわからない。そこでリュウイチを野放しにしてとりあえず様子を見ることを選択したのではないかと思われる。


 だが、リュウイチも両親や仲間が生きていることを知らなかった。もしかしたら本当に全員もう死んでいるのかもしれないが、その可能性も低いだろう。


 あの滅茶苦茶な強さの自称創造主が怯えているのだから。なにか勢力図をひっくり返す材料が何処かにはあるだろう。


 一度拉致られたのもそれで納得がいく。もしリュウイチが仲間たちと連絡を取れるなにかを所持していたら、確実に拉致した時にバレるし、その後監視つきで泳がせておけば何かあったとき即座に対応できる。


『なら、見つけにいかない方がいいのではないのか?』

「かもね。けど今はこれしかない。自称創造主の思惑通りに事を運ぶしか選択肢がないんだ」


 とりあえず今はやれることをやっておきたい。


「今度こそは絶対に、後悔したくないから」

『………そうだな』


 少し、頬に当たる風邪が弱まってきた。レヴェルが気を利かせて手で風圧を防いでくれてはいるが、隙間から漏れる風はあるのだ。


「減速してる?」

『もうそろそろ着くぞ』

「アイン達はそこに?」

『………後で話す』

「………わかった。レヴェルがそう言うなら俺もなにも言わないよ」


 眼下を見つめているとウィルが体をパカリと開けた。実は戦闘用なのに体の中に物がしまえる地味に便利な機械人形である。


 普段はナイフなどの暗器をしまっているが、今日そこから出てきたのは暗器ではなかった。


「自称創造主と戦ったときに落として……拾ってくれてたの?」


 リュウイチの弓をこっそり回収して体の中に隠していたらしい。ウィルはそれを手渡してきた。


「ありがとう」


 素直に礼を言うと、金属質のなにかが擦れた音を出しながらリュウイチの頭をそっと撫でた。自分の子同然で暮らしてきたので親心というものがあるのだろう。


 リュウイチはもう大分成長したのにまだ小さな子供としか見られていないような気がして少し恥ずかしい気分になりながら、そっと目を逸らすのだった。







『見えたぞ』


 目をよく凝らしてみるとぼんやりとだが半球の透明なドームがあるのがわかる。


「あれが結界? なんかぼんやりと光ってるやつ」

『そうだ。壊せそうか?』

「多分ね。けど……」


 リュウイチは地面に降り立ち、眼前のガラスにも似たドームを凝視する。


「これ、解除しない方がいいかもしれない。少なくとも今は」

「何故だ?」


 リュウイチそっくりの人間形態になったレヴェルが首を傾げて同じようにドームを見る。


「ドームの上の方、丁度三分の一程度のあたり。何かあるの見える?」

「むぅ。わからん」


 ウィルに目配せすると静かに頷いた。ウィルには見えているらしい。


「あれは恐らく霊……というか魂だ。広範囲に渡ってこのエリアがあることを考えると、これを張った人は誰かを呼び戻したいのかも」

「呼び戻す? まさか黄泉からか」

「そう。とはいっても魂自体はまだこの世にとどまっているから黄泉ではないけどね」


 古い書物を記憶の中から引っ張り出す。こういうことに関しての本は意外と家に溢れていたので覚えがある。


「人が死に、魂が分離した後に帰ってこられる確率は時間との勝負だ。でもそれは術者がどれだけ遠くの場所に声を届けられるのかという、それだけの労力の違い」

「つまり?」

「簡単に言えば、魂は死ねばあの世に送られる。その距離が離れれば離れるほど、つまり時間が経てば経つほど労力が必要だ。離れてしまったぶん大声で相手に話しかけなければいけないのと同じようにね」


 死んだ直後ならまだなんとかなるというのはこのためだ。なんとかならない場合も勿論あるが、魂と体との距離が近いからこそなんとかなる例がある。


 肉体が木端微塵だったらもう時間とか関係なしにどうもできないが、ある程度ちゃんとした体があり魂の距離が近ければ蘇生は可能なのだ。


「けどあの結界はそれを無理矢理とどめてる。誰かの魂が逃げないようにそうしてるみたいだ」

「そんなことってできるのか」

「理論上では可能だけどやってる人は見たことないね」


 時間が経ちすぎてどうにもならないという結果を残さないために巨大な檻を作って逃げ出さないようにするという荒業ではあるが、一応魂はとどまっているので成功ではあるのだろう。


 だが、リュウイチの目にはそれ以上のものも映し出していた。


「……魂が傷付いている」

「わかるのか?」

「見える。俺は人間とかというより生き霊に近い属性だから種族的なものもあるかもしれないけど」


 レヴェルには魂は見えない。見えて精々が幽霊だ。


 だから傷付いていると言われてもあまりピンとは来ないが、リュウイチの様子からして喜ばしくない状況であることは確かである。


「傷付くとなにがあるんだ?」

「下手したら生まれ変われない体になるかもしれない」

「それは不味いのか」

「不味いよ。死ぬよりも辛いらしいからね」


 まだ大丈夫だけどこれ以上はちょっと危険だ、と呟きながら結界を見回す。


「それにしても危なっかしい結界だ。内からも外からも干渉を受け付けず、魂まで削っている。なにより術者の負担がでかすぎるだろう」


 少し離れ、背負っていた弓を構えて矢をつがえる。


 キリキリという音と共に心地よい緊張感が走り、石の鏃が尖端に付いた木の矢が結界に当たって爆発し消し飛ぶ。


「レヴェル、今の見てどう思う」

「どうと言われてもな」

「そりゃそうか。俺が言いたいのは矢の砕けかたの事だ」

「ああ、内側から砕けたことか」

「それもある。が、本来結界とは弾くためにある。こんな風に当たるものを消し飛ばしてたら攻撃にも使えない」


 本来これは攻撃に使うものだしね、というリュウイチの呟きをレヴェルは聞き逃さなかった。


「まて、これは攻撃用のものなのか」

「最初はそうだった筈だよ。相手の攻撃を流し、打ち返すのがこれの本当の役割り。ただ守るんじゃなくて迎撃用」


 意外と危険なものだったらしい。レヴェルは静かに数歩離れた。


「でもこれは違う。なにもかも拒絶しているだけだ。魔法というか、スキルの暴走に近いものかもしれない」


 一体誰がこれを? と思考に嵌まり始めるリュウイチに、レヴェルはとても大切なことを話すタイミングを失ってしまった。

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