55ー1 終われない。終わりたくない
そもそも能力者とはなんなのか。正直解明できていないことが多すぎてなんなのかよくわかっていないから超能力等とよんでいるのだが、それは置いておくとして。
なぜ超能力というものは存在しているのだろうか、というのが疑問でしかない。
最初の10人以降様々な能力者が誕生し、藤井や天宮城達はその力の解明と研究、及び能力者の管理をし続けてきた。
だがどれだけ見ても最初の10人より前に能力が覚醒したという話は聞いたことがなく、あったとしてもデマであるものが多い。
そんなことなど、あるのだろうか?
もしそれが事実だとして、最初の10人とはいったいなんなのか。自分とは、一体何者なのか。
「う、ぐ……」
浅い眠りから醒めると、辺りは薄暗かった。リュウイチはどうやら寝てしまっていたらしいということを思い出す。
寝ながらでも思考できるとか、ある意味すごい。
「能力者……か」
なんの不思議もなく受け入れていた存在。自分自身もそうであったから、受け入れるのは当然だったかもしれない。
だが天宮城は能力を嫌っていた。能力者を嫌うことはないが能力そのものを好きになったことなど殆どない。
最初の頃は興味と不安、混乱で無我夢中だった。
やっと落ち着いてきたと思ったら力の暴走を抑えきれずに大切な人を傷つけ、地形を大きく変えてしまった。これを好きになれというほうが酷だろう。
だが一旦能力というものから離れてみると、色々と不可解な力だ。
能力は先天性と後天性の物に分かれ、能力の強さはレベルで分けられるが特に先天性と後天性でできることに代わりはない。
先天性でレベル3の能力者と後天性でレベル3の能力者は出来ることは同じなのだ。違いは能力の質である。
先天性の人のほうが細かく能力を操作できるし、後天性の人のほうは回数や量で先天性に勝る。
例を出すと、先天性と後天性のサイコキッカーが各々居たとして、先天性の人はサイコキネシスで紙に文字を書いたり、折り紙を折ったり出来る。後天性の人は細かい作業は出来ないが重いものを持ち上げられたり、使用回数が多かったりする。
勿論個人差はあるので先天性の人なのにやけに不器用でその代わり家並みのものを持ち上げたりできる人や、後天性なのに椅子も持ち上げられないが数枚の紙に一斉に文字を書いたりできる人だっている。もはや曲芸だ。
最初の10人はそのどちらにも含まれない。自分達より強い能力者がいないので判断のしようがないのだ。
天宮城は言わなかったが自分達最初の10人はウィルスのようなものを持っている感染源で周りの能力者は皆感染者であるのではないかと思っている。
なにか不幸を撒き散らす、害虫に近いものだとすら思っている。
「間違いではない、よな……」
能力というものは、きっとあの自称創造主のような存在が遊び半分で作ったに違いない。リュウイチはそこまで考えてふと思考を止める。
「……? ? まてよ……」
自称創造主のような存在が、能力を作った。
そして恐らくそれはあの自称創造主本人ではなく、また別の存在であるだろう。やっていることは似たものだと思うが。
「もしかして……」
だとするならば。今こんな場所に連れてこられて閉じ込められている理由は、それではないのか。
「あの自称創造主は俺の能力が未知数……理解できないなにかということになる。だとすると」
この場所で魔法は使えなかった。スキルも使えなかった。それはこの世界の原理、法則の一つだから。なら、異世界の法則なら無視できるのではないか。
隠してあった能力の込められた紙を取り出して手を押し当てた。ほんのり体が暖かくなる。身体強化が発動した証拠だ。
「ウィル」
「?」
「逃げよう」
「⁉」
叫びだしたくなるのを抑えながらウィルの手を掴んで転移の能力を発動させる。
もしこれがあの自称創造主の予測可能な未来だとしても、動かずにはいられなかった。相手には行動がお見通しであっても、それでも座っていることなど出来ない。
なにも考えずに転移を使ったからだろうか。それともあのドーピングの影響なのだろうか。転移した先は雲の上だった。
「⁉⁉⁉⁉⁉」
ウィル共々落下していく。能力を使いたくても紙が飛んでいきそうなので迂闊に取り出せない。絶対にこれだけは無くすわけにはいかないのだ。
身体強化とは違い、時間制限ではなく回数制限がある転移などの能力は使う度に紙を取り出さなければならないのだ。
「うぃ、ウィル⁉ なんとかならない⁉」
自分にふられるとは思っていなかったのか、一瞬ポカンとしたウィルだがすぐに首をブンブンと横に振る。
ウィルはそもそも陸の戦闘に特化した機械人形だ。空を飛ぶ機能などない。
あの自称創造主に何かされたのか、魔力もスキルも反応してくれない。パラシュートなしのスカイダイビングなど心臓に悪いどころでは済まない。
リュウイチであれど瀕死並の重傷を負うのは間違いないだろう。死なないのは確かだが怪我はするのだ。
『全く……世話の焼けるやつだ』
半泣きでどうしようかと考え続けていたリュウイチの思考を遮ったのは白い竜だった。
「レヴェル!」
琥珀……レヴェルはリュウイチとウィルのダメージにならないよう、落下速度にあわせて下降しながら二人の真下に回り徐々にスピードを落として掌で受け止める。
「レヴェル……無事だったんだね」
『戻ったか、リュウイチ』
「うん。それよりどうしてここに」
『お前が居なくなってから大変だったのだぞ。ここ数日、ずっと飛び回って捜していたら転移の気配を感じてな。直ぐにここに飛んできたというわけだ』
リュウイチは懐かしいやら嬉しいやらで本気で泣きそうになる。だが、直ぐに切り替えて現状を軽く説明した。
『なるほど。今はあのラグナロクと共闘している状態なのだな?』
「うん。彼女を探してるんだけど心当たりはある?」
『……無いわけではないな。仕方ない、連れていってやる』
「ありがとう」
くるりと方向転換してスピードを上げ始めた。
『最近、妙な結界が張られた。なんなのかわからないのだがあまりにそれが大きいせいで誰も近づけん。下手に触ると切り裂かれるらしい』
「結界か……俺なら壊せるかな」
『恐らく可能だろう。お前の力は反則級だからな』
リュウイチはレヴェルの手の中に腰掛けながら少し気になっていたことを訊く。
「アロクと共闘しているって話、すんなり受け入れたね?」
『いや、なに。お前が嘘をいうことはないと思っているからな。それに、あやつは本気でお前のことを守ろうとしていたのを覚えているからな』
「そっか……」
当然のように信頼してくれることが、こんな状況だというのにとてつもなく嬉しい。
リュウイチはレヴェルに心の中で感謝しながら、まっすぐ前を見据えて両手を握りしめた。