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54ー2 世界の真実

「僕が……愚かだと?」

「愚かだ。自分の世界を作っただけで満足できないのにその先を考えてすらいないところもな」


 両者の視線は今にも相手を殺しかねないほど苛立ちに満ちている。殺されかけている人と殺そうとしている人で立場は真逆なのに感情はそっくり同じらしい。


「お前を創ったのは僕だ」

「だから何? 俺を創ったのがあんたでも、俺はあんたを尊敬に足る人物だとは思わない。感謝もしない。俺を育ててくれた人達にあんたは含まれない」


 ギリギリと奥歯を鳴らし、刃先をリュウイチの首から離す。


 それほど深く食い込んだわけではないとはいえ、血が結構でていたので傍で見守っていたウィルが軽く魔法で止血してからリュウイチの首に包帯を巻いた。


「……殺さないのか?」

「……馬鹿馬鹿しくなっただけだ。今ここで僕がお前を殺したらお前の言葉を肯定することになる。だからお前には死ぬ前にさっきの言葉を撤回してもらう」


 扉を静かに開けて、振り向きもせずにひと言「覚悟しとけよ」と呟いてから去っていった。


 ウィルの手当てに礼を言いながらこれからどうするか考える。


 日本から借りてきた能力の束は無事なのでとりあえず安心だ。だがあまり時間をかけるわけにもいかない。


「アロクも行方不明……。無事でいてくれればいいんだが……」


 体や胸がズキズキと痛むのは恐らく能力を底上げするあの薬の影響だろう。能力の反動で死ななかったのは運が良かったのか悪かったのか。


 それとこれも薬の影響なのか能力が全く使えない。天宮城としての記憶だけでなく体そのものも吸収しているので能力が使えない筈はないのだが。


 実際に使えてはいたし。


 能力の波は見えるので能力を失ったわけでもないのがせめてもの幸運だろう。状況は最悪だが。


「ウィル。どうして君がいるのか教えてくれないか? 母が亡くなったときに壊れたと聞いたんだけど」


 ウィルはジェスチャーでなにかを伝えようとしてくるが、あまりに動きが多すぎて余計にわからない。


「えっと……ごめんわかんない……」

「………」


 ガックリと肩を落とすウィル。


 文で書いてもらう、という手はあまり得策ではない。なぜならとてつもなく不器用だからである。


 鉛筆など渡そうものなら全て一筆目で折り、紙は破れ、最悪の場合机が壊れる。


 力加減が上手くいかないだけでなく、指先が安定しないからか細かい作業が出来ないのだ。


「あ、そうだ」


 リュウイチは即座に紙にあいうえお表を作り、ウィルに見せた。


「一文字ずつ指でなぞっていって。時間はかかるけどこれなら折れることもないし」


 商人として各地を回る時の癖で紙とペンはいつも持ち歩いている。まさか戦場まで持っていってしまっていたとはリュウイチ自身も気づかなかった。


 というかいつも入れっぱなしにしているので忘れていた。


 それから一音ずつ、気の遠くなるくらいの時間をかけてウィルから話を聞き出したところによると。


「……皆死んでないかもしれない?」


 ウィルが何度も頷く。また訳のわからない仮説が出てきた。


 しかし、全くあり得ないとも思えない。もともと何かおかしいと思っていたことは幾つかあるのだ。


 まずひとつ、第一次ラグナロク、つまりリジェクトとの戦いの際にラグーンには一切被害が無かったこと。


 二つ目、何故アロクは生き延びれたのか。リジェクトと対峙してわかったが、あれは逃げ切れるほど優しくはない。相性が良かったからリュウイチもある程度耐えていただけでアロクがあれを前にして振り切ることが出来たのが謎だ。


 三つ目、あの自称創造主はリュウイチの言動を「そうなるようにした」と言っていたが明らかに動揺していた。あれは予想外の事を指摘されて苛立っているときの表情だ。人の顔色を窺うのは得意中の得意のリュウイチが見間違う筈もない。


 そして四つ目、あの自称創造主はこの世界を壊そうとする理由を隠している。ということ。壊すということは本気なのだろうとは思うが何か引っ掛かる。それともしリジェクトを差し向けたのは創造主ではないとしたら。


 自称創造主のさらに上の存在が、そうさせている可能性もある。


 そうなると誰かの思惑で自称創造主の言う「空想の箱庭」であるこの世界は全く違う方向で事が動き始めているのではないだろうか。


 それに必要な人材が、リュウイチ達この世界の神であるとしたら。限りなく可能性は低いが、そうだとしたら色々と納得がいかないこともないわけではない。


「まず、神々が皆存命だとして、無理に世界を壊そうとするのはその復活を止めるため? いや、もしそれが本当だとすると……」


 あの自称創造主は神々を恐れていることになる。あの態度からしてそれはあり得ないだろう。


 あとの可能性は、自称創造主のさらに上の存在がいる可能性。


「仮に上司のような存在がいたとして、その人に世界を壊せと命令されて来ている。そこで俺と遭遇し、何かに気づいて突然焦っている?」


 リュウイチは少し考えて、仮定から出た真実に突き当たる。だが、これは所詮仮定からの延長線で出た結論だ。あっている可能性の方が低いだろう。


「……そもそも暴論だし」


 座り込んでため息をついた。本当にこれはもしもの話だ。


 もしも。


 この世界を自称創造主が滅ぼしに来たとして。


 それが上司のような存在が命令したからだとして。


 リュウイチが予想外の行動をとるなど自称創造主の弱点を握ることの出来るような力を持っていたとして。


 それを知らずにここに送られて、しかもリュウイチ以上の強さを誇る神々が誰も死んでいなかったら。


 自称創造主は捨て駒、若しくは処分のためにここに送り込まれたのではないのだろうか。


「あああー、ないない。無理矢理過ぎっ」


 自分の都合のいい方向に考えすぎだ。リュウイチは頭を振って余計な考えを追い出そうとする。


「結局、話は堂々巡りだ。それに……俺はもう殺されるから関係ない、よね」


 ウィルが金属音を鳴らしながらリュウイチの頬や頭をそっと撫でる。リュウイチが幼い頃、よくしてもらっていた。


 どうしても寝付けない日は、ウィルに頭を撫でてもらいながら寝たりしていたので無性に懐かしく感じる。


 両親はどちらも忙しく、ずっと隣にいるのはいつもウィルかアロクだった。アロクはある程度成長したときからなのでウィルの方が圧倒的に長い時間を過ごしている。


 ウィルはリュウイチが目を閉じてうたた寝を始めるまでずっと優しく撫で続けていた。

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