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53ー3 神々を殺したゴーレム

 目の前の機械人形の名前を呼んだ瞬間、ゆっくりと彼が振り向く。


 間違いなくウィルだった。手を擦り合わせてから念じるような動作をすると、半透明の赤い膜がリュウイチとウィルを囲む。


 それがなんなのか知っているリュウイチは手足に意識を集中させて、怪我の回復に努める。


「ウィル……どうしてここに?」


 喋る機能がないことくらい知っているが、聞かずにはいられなかった。


 機械人形はただリュウイチの手を握った。手の回復を手伝ってくれる。


≪条件を満たしました。ポイントを使用して技術アーツを取得しますか?≫


 技術アーツなんてここ最近全く気にしていなかった単語だ。そもそも天宮城だったとき、レベルの上がりが不自然なほどに遅くポイントを貯めることすら難しかったから完全に存在を忘れていた。


「わかんないけど……」


 了承の意を伝えると、目の前に灰色の表示が浮かび上がり徐々に鮮明にくっきりと映し出される。


ーーーーーーーーーー


【傀儡使い】レベル10


 あらゆる物に魔力の糸を付け、操ることが可能。糸そのものを攻撃に使うこともできるが、切断される度に痛みが伴う。傀儡との相性がよければ意思疏通も可能。


ーーーーーーーーーー


「これ……!」


 以前、本当に大分前だ。


 アインと出会ってすぐの頃。


 灰色表示された技術アーツがあったことを思い出した。


 条件とはなんだったのだろうかと気にならないわけではないが、ウィルが守ってくれる時間にも限りがあるので今はやめておく。


「ウィル。……いい?」


 ウィルは無言で首肯く。鉄の体がかちゃりと硬質な音をさせた。


 リュウイチは魔力の糸をウィルに付け、指で示した通りに動いてくれるかどうか確認した。


 どうやら専属武器の時と同じで使い方は考えなくても体が覚えているらしい。


 手を引っ張ると、ズッシリとした重みが糸の先から伝わってくる。疲れた体には相当きつい重さではあるが、耐えられないほどでもない。


「ウィル、行くよ」


 周りを覆っていた赤い膜が取り払われ、それに気付いたリジェクトが飛び込んでくる。


 リュウイチは注意深く回りを見回しながらウィルの右手を振り上げるように指示を出す。そこにあたったリジェクトが消滅した。


 魔力の糸を通した間接的なものでも崩壊の能力は使えるらしい。


 大群になって襲いかかってくるリジェクトに冷静に対応するリュウイチ。なるべくウィルを盾にせず、自分の足で避けつつ細かく指を動かして指示を出す。


 やっと劣勢の状況を脱せられるかと思った矢先、突然リジェクトが攻撃をやめた。


「えっ」


 引き返していくリジェクトを見てリュウイチが感じたのは困惑でも安心でもなく、


 恐怖だった。


 そしてその予感が見事に的中する。


【まさかこの世にまだ君のような存在が残っていたとは思わなかったよ】


 少年特有の明るい声色で何かが喋った。リジェクトではない。その奥から別の何かが近づいてくるのだ。


【折角静かに暮らせると思ったのに、面倒だなぁ】

「っ⁉」


 無意識に一歩後ずさる。手は細かく震え、声もでない。


【僕のために死んでよ。神を気取る化け物さん?】

「……化け物はどっちだよ……」


 姿は少年のそれだが、明らかに人ではない。雰囲気というか気配がそれを物語っている。


 ウィルが心配そうにリュウイチを見つめる。機械人形である彼は気配を感じ取れないため、これには気づいていないらしい。


「……何者だよ、リジェクトといい、あんたといい」

【さぁね? ……ストーリーテラーに直接産み出されたキャラクターとでも言おうかな】

「あとは全部モブ(不必要)とでも?」

【そうだね。偽りの世界で生きる君にはピッタリじゃないかな?】


 リュウイチが不自然さに目を細めた瞬間、少年を見失った。


 凝視していたはずなのに、と頭が理解するより先に体が吹き飛んでいた。


「――――ぐっ⁉」


 鳩尾に激しい衝撃が来たのでなにかで殴られるなり蹴られるなりしたのだろうと即座に判断し、ウィルを先回りさせて受け止めさせる。


 だが、勢いは大分殺せたものの受け止めきれずにウィル諸とも川に落下する。


 流れが早いので長居せずに糸を使い逆バンジーの要領で川から上がる。


【成る程ー、人形をそうやって使うこともできるわけか。頭いいね。僕なら防御に使うかな。まぁでも数回でも喰らったら壊れちゃうくらいだろうけどね】


 痛覚が鈍いのである程度冷静に状況を分析できるだけである。とはいっても鈍いだけで怪我や疲労は溜まるし、他の感覚も少し鈍っているのでいいことではないのだが。


 ウィルをなるべく近くに控えさせてから回復を再開する。


【させないよ?】


 反対の川岸にいた少年が再び視界からかき消え、今度は後頭部に激しい痛みが走る。真横にいたウィルも反応できず、そのまま額が地面に恐ろしい勢いで衝突することになった。


 頭蓋が大きく揺さぶられ、視界が歪む。


 額が地面の尖った石で裂け、血が止まらない。ウィルに繋げられた糸が無理に切断されたせいで両手に針が深く刺さったときに似た感覚が襲いかかる。


【まるで亀だね。おっそいよ、君。戦闘って言葉の意味調べ直してきたら?】


 確かにこれでは戦いと呼べない戦力差だ。足止めどころか目ですら追えず、ただ甚振られるだけ。これでは蹂躙と何らかわりはない。


「それでも……俺は、勝たなきゃ、いけないんだ……。帰って、皆に返さないと……!」

【しつこいなぁ】


 一撃でもいれなければと少年の足首を掴んだリュウイチだが、即座に踏み砕かれる。どこが痛いのかすらわからなくなってきた。


【その根性だけは誉めてあげる。鬱陶しいけど、そこまで障害でもないし】


 そこまで言ってから、少年がにたりと笑みを浮かべた。早鐘を打つ心臓が直接掴まれたと錯覚するほど鋭く痛み始める。


【……でも、暇潰しにはなるかな】


 少年はリュウイチの額の傷を癒し、担ぎ上げる。既にリュウイチは意識がなかった。踏み砕かれた瞬間に飛んだらしい。


【君、来るの? 来ないの?】


 ウィルを指差して軽く睨み付ける。ウィルは小さく頷いてから少年の後をついていった。正確にはその肩に担がれたリュウイチを追って、だが。

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