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9ー1 最悪な訪問者

 もうストックないので不定期更新にさせていただきます……。

「美味しーい」

「本当、スッゴい美味しい」

「それは良かったです。……………あの、この殺伐とした感じはなんなのでしょうか……………?」


 天宮城は両隣から発せられる殺気にも似たオーラにたじたじだった。


 そもそもなぜこんなことになったのか、話は前日の夜にまで遡る。









 天宮城の携帯に着信があった。


「あ、龍一君?」

「水野さん。どうしたの?」

「それがね―――」


 水野の言うところによると、あの海牛のお使い様の先輩から今度行われるイベントのペアチケットを貰ったらしい。


 元々その先輩も彼氏と行く予定だったのだが急遽仕事が入ってしまったので行けなくなり、それが水野に回ってきたそうなのだ。


「明日なんだけど」

「明日………少しだけ仕事が入ってるけどすぐ終わるからそれからなら大丈夫だよ」

「よかった‼ あ、仕事どれくらいで終わりそう?」

「えっと………大体9時頃には」

「じゃあ9時にそっちに行くわね」

「え? でも………」

「いいのよ。どうせそっち方面の電車に乗るし」


 天宮城は少し悩んでから、


「んー……じゃあ9時に俺のところに来てくれる? 受け付けに行って俺の名前出せば通してもらえるように言っておくから」

「わかった。また明日ね」

「また明日」


 天宮城、最近デートの回数が以上に増えているようである。本人、それに全く気がついていないが。









「えっと……ここでいいのかな」


 9時ピッタリに水野が受け付けに行く。


「あの、天宮城君………」

「水野様ですね?」

「あ、はい」

「第2隊長から聞いております。こちらへどうぞ」


 いりくんだ道を進んで行くと、関係者以外立入り禁止、と書かれたところに入っていく。一瞬躊躇したが水野もそれについて行く。


 するとその更に奥にかなり頑丈な扉を発見した。しかも鍵を差し込む部分や取っ手がない。


 どうやって開けるんだろう、と不思議に思っていると案内してくれた女性が壁を叩く。すると壁の一部が突然開き、数字がいくつか並んだ機械が現れた。


「え、凄い」


 無意識に声が出てしまった水野だがそれも仕方がないだろう。映画の中のような仕掛けだからだ。


「第2隊長。水野様がいらっしゃいました」


 そう声をかけると直ぐに反応があった。


『ありがとうございます。仕事に戻ってください。水野さんはそのまま奥へ進んでくださいね。あ、靴は脱いで上がってください』


 天宮城の声でそう告げられる。すると扉が開いて奥に進めるようになった。超最新式のオートロックドアというべきか。かなり過剰だが。


「水野さん。こっちこっち」


 通路の奥から手だけが見えて水野を呼ぶ。


「ごめんね。もう少し待ってて」

「それはいいけど……ここ、凄いわね」

「ここには見られたくないものとか沢山あるから警備は過剰になっちゃうんだよ」


 そう言いながら天宮城は何かの報告書のようなものを超高速タイピングで打ち込んでいく。


「よくその早さで打てるわね………」

「慣れちゃったから。ああ、適当に座っていいよ」


 そう言われてもなんだか座りづらい。


「ここ、俺の居住スペースだから気にしなくても大丈夫だよ。まぁ、しょっちゅう俺の部屋が荒らされてるけど」


 天宮城が打ち込んでいるものに興味を持った水野がそれを見る。


「これ、なんの報告書?」

「確か前話したよね? レベルって俺が決めてるって話」

「うん」

「それの延長線上の事でね。レベルや出来ることとか色々と纏めて協会の会員ってことを証明するんだ」


 能力者を管理するのも大切な仕事なのだ。


「何をやったとかも書き込まれるから履歴書みたいなものだと考えてくれればいいよ」

「へー。私のもあるの?」

「あるよ? 何日か前に提出したけど。新種の能力だから扱いも別格だろうしね」


 するとそこでタイピング音が止まった。


「あー。出来た。ごめんね待たせちゃって」

「それはいいよ。こんなところまで入れて役得だし」

「役得ってほどのものじゃないけどね」


 苦笑しながらコートや鞄を持って支度を済ませる。


「あ、そうだ。これ水野さんの会員証。身分証明になるからなくさないようにしてね」

「おー。なんかそれっぽい」


 引き出しから渡されたそれを見つつ天宮城の準備が終わるのを待つ。


 会員証はプラスチックで出来ていて、運転免許証のようにもみえる。


 顔写真が貼ってあり、氏名、生年月日、住所、能力、そのレベル、どこに所属しているか、と書いてある。


「あれ? 私の所属先が第2部隊特殊部門って書いてある」

「ああ、それ俺の権限でやっちゃった」

「え、私戦えないよ⁉」

「戦う訳じゃないよ。それは本隊任せでいいから。特殊部門っていうのは捕まえた相手から情報を引き出す隊だから大丈夫だよ」


 それに滅多なことないと呼ぶ気ないから安心して、と付け加える。


「じゃあなんで配属してあるの?」

「保険だよ。以後水野さんのバックには第2部隊がつくっていう。何かあったときそれなりの権限はあるから少しなら役に立てると思うよ」


 第2部隊、つまり実質二番目に偉い天宮城である。それがバックについているということは、手出しが出来ないということになる。


「そこまでしてもらわなくても………」

「俺のせいでこうなったようなものだし、これぐらいはさせて。自己満足だけどね」


 天宮城の肩の上で琥珀がうんうん、と頷いている。頭を動かしすぎて地面に落下した。


「「あっ」」


 実体がないので音などしないのだが、ベシャッという効果音が聞こえるくらい腹から地面に打ち付けられた琥珀は痛みで悶絶している。


「くくく………ははははっ! 馬鹿かお前は」


 爆笑する天宮城。対して水野は心配そうに見つめている。


「えっと、大丈夫なの?」

「実体がないからそこまでダメージは来てないよ」


 クスクスと笑いながら説明する天宮城に苛ついたのか琥珀が壁を殴る。


「いっ………⁉ おまっ、それは卑怯だろ⁉」

「え、痛いの⁉」


 琥珀が殴ったのは壁である。本来なら天宮城に痛みが行くことはない。


「琥珀と俺って繋がっててさ。例えば箪笥に小指をぶつけた時とか、そういう痛みも全部半分になって共有されるんだ」

「便利ね」

「どうかな? 確かに痛みは大分和らぐけど、琥珀がこんなことしただけで俺も痛いし」


 さっき地面に落下した時、『そんなにダメージは来てない』とまるで自分の事のように言ったのはこれが理由だった。


「琥珀には触れないからこういうのも防ぎようがないんだよ」

「あれ? 琥珀ちゃんってなんで壁を殴れるの?」

「ああ、琥珀が触れようと思ったもののなかで幾つかは触れることができるんだよ」


 食べ物と、位置が固定されているもののみ、琥珀も触れることが可能だ。


「だから地面とか固定されているものには通り抜けずに乗っかれるし、電車みたいに動くところだとしてもその壁は外れたりしないでしょ? そういうのも触れるんだよ」


 食べ物が触れるのはよくわからないが。


「俺が力を使えばどんなものでも触ることができるんだけどね」

「へー。この子はできるかな?」

「俺が見えないからな………。もしかしたら水野さんが触れられるようになるかもしれないよ?」

「なんで?」

「能力レベルはもう上がりようがないけど新しく獲得することもあるからね」


 そんな話をしている内に天宮城の準備が終わったようだ。


「お待たせ。じゃあ行こうか」


 床でまだいじけている琥珀を肩に誘導し、入ってきたときとは別のドアから出る。


「そういえば電車っていつ出る?」

「え? ………あ!」

「もう行っちゃった?」

「ギリギリかも」

「じゃあ走ろうか」


 急いで外に出ると近藤が居た。


「あ。確か……近藤さん?」

「お久しぶりです。龍一。駅まで行くなら乗せていこうか」

「え、本当ですか⁉ じゃあお言葉に甘えます」


 え、乗るの? と狼狽えている水野を後部座席に押し込んでさっさと出発する。電車はギリギリ間に合った。









「混みまくってるね」

「だね………」


 二人の肩にそれぞれ乗っているリスとドラゴンが少し面倒そうな顔をして目の前の光景を見つめていた。


「それと………なんのイベントか聞いてなかった俺も俺だけど」

「うん。ちょっと間違えちゃったね」


 漫画やアニメ、果てにはよくわからない手品道具等ののブースが建ち並び、人で溢れかえっている。本当の意味でイベントだった。


 ブースごとに分けられてはいるが全てに統一感がなく、なんとなくフリーマーケットの雰囲気が漂う。


 売っているものは勿論新品だが。


「普段はグッズを売らない漫画とかのグッズを販売するから全国から人が集まってくるみたい」

「成る程………」


 みんな好き勝手やっているので統一感が無いわけである。


「あ、屋台とかでてるね」

「なんか寂しい感じになってるけどね………」


 皆ブースの方に行ってしまっているので一気に人が減る。


 心なしか屋台を出している人たちの顔も暗い。


「あ、先輩に頼まれてるものがあったんだ」


 イベント行くならついでにこれを買ってきて、と言われたものがある。携帯に写真が送られてきて、まだ見ていなかったのでなんなのか確認していなかった。


 パッと画面に映ったのはBL漫画の無駄にでかい縫いぐるみだった。


「なんでこれ⁉」


 つい叫んでしまった。


「え、どうしたの」

「ううん。なんでもない!」

「? そう」


 近くの屋台に興味が移ったようでバレなかったが絶対に買うときにバレるだろう。


「っていうか先輩腐ってたの………?」


 寧ろそっちが気になる。


「龍一君」

「え?」

「先輩に頼まれてるものがあったから買ってきていい?」

「じゃあ俺もついてくよ」

「いや! これは私が引き受けたことだから!」

「俺もどうせ暇だし」

「いいから! あそこで待ってて! すぐ買ってくるから」


 有無を言わさずベンチに座らせてそっち方面(・・・・・)のブースに走った。


「なんで俺置いてかれてるんだろ…………」


 天宮城の呟きは沸き立つ客の歓声でかき消えた。


 水野が心配なので琥珀にこっそりついていってもらうことにした。


 天宮城と琥珀は意識さえすれば五感を共有することができるという謎能力がある。


 今回の場合は視覚を共有することになるのだが、これは使いすぎれば疲労が溜まる上、景色が二重に見えてしまうので注意が必要だ。


 なので普段の視界をシャットアウトすることが必要になるのだが、これをやると寝ているようにしか見えないのが欠点である。


 琥珀を空に送り出して目を瞑り、意識を集中させる。すると空撮映像のように段々と視界が上がっていき、水野を捉えたらそれを追うようにして動いていく。


 もし琥珀が誰にでもみえる動物だったら大騒ぎになるだろうが、いまのところ琥珀が見えるのは水野と天宮城だけなので気にする必要はない。


 琥珀に水野を追わせていると水野があるブースに入った。そこで初めて何故水野は自分一人だけ行こうとしたのか気付いた。


「ああ、成る程………」


 なんとなく罪悪感に苛まれたのでリンクを切り、琥珀に何かあったら報告しろとだけ伝えて目を開ける。


「あ、起きた?」

「こ、小林さん⁉」


 目を開けると小林が天宮城の顔を覗きこむようにして見ていた。


「なんでここに」

「あっちあっち」


 指を指す方を見るとアイドルブースがあった。


「お仕事ですか」

「そうそう。握手会をまたやったんだけどね」

「多忙ですね」

「一応有名だからね。君は知らなかったらしいけど」

「それは本当に申し訳ないです………」


 なにせ夕飯が水になるほど極貧生活をしていた天宮城である。電力を大量に消費するテレビなんて殆ど見ない。


「そんなことより、天宮城君は? やっぱりこういうのも好きだったの?」

「そう言う訳ではないのですが……知り合いに誘われて」

「へー。あの男の子?」

「晋也ではなくて、前やってたアルバイトで知り合いになった方です」


 天宮城は水野の上司がチケットをくれた話をする。


「じゃあここがなんなのか知らずに来ちゃったんだ」

「そういうことですね」

「その人は? なんでここにいないの?」

「その上司へのお土産を買いにいきましたよ。あ、戻ってきましたね」


 水野が大きな無地の紙袋を持って走ってきた。


「っと、龍一君。この人は?」

「小林さん。レベル7(セブンス)の洗脳の能力者でさっき偶々会ったんだ」

「天宮城君。さっき話してた人って女性だったの?」

「はい」


 天宮城は二人に互いに自己紹介するよう勧める。まるで合コンのようなノリである。


「えっと、水野麗です。レベル7(セブンス)の神眼の能力を持っていて、OLをやってます」

「小林ひなたです。先程天宮城君から紹介があった通り、レベル7(セブンス)の洗脳の能力者です。仕事は美由里みゆりひなたって言う名前でアイドルやってます」

「美由里ひなた⁉ 連ドラの⁉」

「はい」


 本当に有名らしい。天宮城が疎すぎるのだが。


「龍一君、すごい人と知り合いなんだね」

「本当にそれは今ひしひしと感じてるよ」


 周りの人が気付かないのは小林の変装能力がピカイチだからである。パッと見て気付けないほど普段と仕事では顔が違うようにさえ見えるのだ。


 それから先、二人が仲良くなるのは早かった。


 話題が天宮城のことしか上がっていないが本人が楽しそうなのでいいか、と放置することにしたようである。


 その内、天宮城の話から自分達の話にシフトしていった。


「水野さんの神眼ってどんな能力なの?」

「お使い様っていう動物がみえるの」

「?」


 丁寧に水野が教えると納得したようだ。


「それは凄いね。で、私にはなんの動物が乗ってるの?」

「えっとね……………熊だね。茶色の子熊」

「熊………ヒグマかな?」

「ヒグマってなんだっけ?」


 天宮城は少し考えるそぶりをして、


「ああ、そうだ。執着です。言い方変えれば一途です」

「なんで執着?」

「ヒグマって獲物を見付けたら基本ずっと追い続けるんです。捕らえるまで」


 それを聞いて、なんとなく納得した水野だった。

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