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49ー15 とある男の小さな冒険

 受験が終わるまで週一更新にさせていただきます。ご迷惑おかけします。


 何かあったらツイッターで報告します!

 アロクがどんどん絞める力を強くしてくる。骨がギシギシと悲鳴をあげ始めた。


「アロク……」


 どうすれば止められるのか。


 もうこれは彼女の暴走でしかない。


「君は、何のためにこんなことをしている?」

「勿論。リュウイチ様の為―――」

「俺が望んでいないと言っても、そういう?」


 アロクは一瞬黙って、大きなため息をついた。


「リュウイチ様のお優しいそのお心遣い、下界に住まう下等生物には勿体無いかと。この大蜥蜴もそうですが、私は貴方様のお手に下等な生き物が触れるのが我慢ならないのです」


 大蜥蜴といわれてレヴェルが目を細めるが、敵わない相手だと理解しているのか何も言わなかった。


「ですが、リュウイチ様が認める者ならば、許せなくもありません。そもそもラグーンに暮らしている者のなかで優秀な者のみを貴方様のお世話に向かわせているというのに、あの者たちはなんとも無礼な……」


 ……え?


「俺の世話の人達って、君が?」

「ええ。そうです。ですが今回のはあまりにも役立たずだったので殺して回りました」


 寒気に似たものが全身を駆け巡る。


「それだけのために、あの人たちを殺したの?」

「はい。なにか問題でも?」


 問題しかない。


 確かに俺は疎まれていたし、いい顔をされていないことはよくわかっていた。


 外に出てみたいとも思っていたし、中にいなければならないということを強制してきたあの人たちに不満を抱いたこともないわけではない。


 でも、殺されることはしていないはずだ。彼女の、アロクの場合はその判断があまりにも厳しすぎる。


「それにしても、何故ラグーンから降りてきてしまわれたのですか? まだ消毒には少々の時間が掛かりますのでもう少しお待ちいただければ美しい世界を貴方様に―――」

「俺は!」


 アロクの腕を掴み、言葉を選びながら喋る。


「俺は、綺麗なものが好きだ。生き物が好きだ。美味しいものが好きだ。そして人が好きだ。人の生き方が好きだ。たまに道を逸れたってそれを精一杯正そうとするが好きだ」


 アロクの作る場所は、それが存在しない場所だ。


「宝石だって、美しく切り取られたものと原石のもの。どちらも綺麗だと思う。整えられた美しさも、手が加えられていない美しさも等しい価値であるべきだ」

「というと?」

「俺は、下界に干渉したくない。ただ人の営みを含めた全てをこの目でみて回りたいんだ」


 アロクが何度か瞬きした。そして心底不思議そうに首を傾げる。


「理解ができません。人は愚かです。正す方法が見つからないのなら滅ぼすのが一番でしょう?」

「その考えが俺とは合わないんだよ、アロク……。俺はそうは思えない。俺はもう、独りは嫌なんだよ……」


 手からアロクの腕がすり抜けたと思った瞬間、足に鈍い衝撃が走った。直後、視界が大きく揺れる。


 何が起こったのか初め理解が出来ず、足を見た瞬間に納得がいった。今の衝撃は、両足を折られたものだったのだと。


「ぁっ、ぅぐ……ぎ」


 あまりの痛みに声が出ない。両足が使えないので立ち上がることもできない。


「お可哀想に。大丈夫ですよ、リュウイチ様」

「な、にが……」

「私が洗脳を解いて差し上げます。大方、あの碌でなし共にそう生きろと吹き込まれてしまわれたのでしょう」


 洗脳? 一体、なにを言いたいんだ。


 碌でなし共、とは確か俺の両親含めた地上の人が神と呼ぶ存在のことだ。


「あの忌ま忌ましい結界のせいで、近付くことすらも出来なかったのですから、それを壊してくれたそこの大蜥蜴には少しだけ恩義があります。それに、貴方様もこれを殺すのはどうもお気に召さないご様子」


 もしかして、あの結界って『俺を出さないため』ではなく『俺とアロクを出逢わせないため』に存在していたのか……?


 そうだとしたら、そこまでして妨害をしていた亡き両親の努力が無駄になってしまったのは確かだ。


「ただ、こちらも準備をしなければならないのでラグーンに再び帰っていただき―――」

「らぐ、ナロク。君の考えは……わかった。が、俺は賛同しかねる。だから……少しだけ、足掻こうと思う」


 今アロクのいいなりになってしまえば早いうちに下界が壊れてしまう。かといって抵抗する力はない。


 なら、時間稼ぎしか方法はない。


 アロクは俺を第一に考える。なら、俺が面倒な状態になればきっとこっちを優先するはずだ。


 折れた足を軸にして空中に飛び出す。だが、それでは意味がない。普通に空中でキャッチされて終わりだ。だから、少し賭けに出る。


「仮説が正しければ、成功するはずだ」


 息を吐いて全身に力を巡らせる。消滅の力を。


 俺の力はものを崩壊させ、無に還す。だが、強い力なら発散せずに塊のまま散らばるはずだ。


 一気に体が軽くなっていくのを感じる。地面に立っているわけでもないのに不思議だが、徐々にバラバラになって離れていくのがわかる。


「なにをしているんです⁉」


 追い付いてきたアロクが俺を捕まえたときには既に殆ど意識すら分解仕掛けていた。それをアロクに無理矢理再構成され、動かない体とぼんやりと靄がかかった思考のみが留まる。


 回復魔法をかけながらなんでこんなことをしたのかというアロクの声だけが耳に響く。


「力と……精神を数百等分して……どこかに飛ばした……。恐らく、第二……第三の俺がどっかで……多分異界で生まれることになるだろうよ」


 人族の禁術のひとつに『精神を持ち越して転生する』というものがある。死んでもまた生まれ直せるというわけだ。


 だが俺のはその遥か上。精神を持ち越して転生させるのは一緒だが、それが数百。しかもどこに飛んだかすらわからない。


 つまり俺の記憶を持った人が、若しくは動物が多数の異世界で生まれてくるということになる。


 しかも今の俺は殆ど残滓でしかない。回復魔法が途切れれば消えるだろう。


 これで、ラグナロクを俺に集中させることができるかもしれない。もしできなくとも、少しは時間が稼げるはずだ。


 そう思った瞬間に思考が霞んでいく。もう、残滓すら限界を迎えるほどに消耗してしまったらしい。


 最後に視界の端にレヴェルが入り込んだ。レヴェルに向かって念じる。届いているかすらわからないが。


(もし、この世界に生まれ直してしまったのなら。お前が俺を助けてくれ)


 レヴェルが頷いた、気がした。

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