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49ー14 とある男の小さな冒険

「ギャー⁉」

「わぁあああ!」


 レヴェルの救出が雑すぎて向こう側から悲鳴が上がっている。だって彼落ちていく人を適当に掴んで投げ飛ばしているだけだし。


 地面の裂け目から人が投げ飛ばされているのを見るのはちょっとシュールだ。


「ぅっ……やっぱり、あれだけ沢山の種を一気に成長させるのは無理があったか……!」


 本来はこの前の半月草みたいに何日もかけて育てるくらいの量を一度に生やしたものだから体力がごっそり抜き取られたみたいに体が重たい。


 そもそもラグナロクの一件から力を使うのすら控えていた。久しぶりに大量に使ったら加減も失敗したらしい。


 それにしても本当に愚かな武器を作ったものだ。


 ラグナロク程ではないが、それでも十分世界を破壊し得る力だ。これを扱おうとした下界の人達の考え方も凄いと思うが、まずどうやって見つけたのだろう。


 ラグーンに住んでいた人達だって存在は知っていても使う気はなかったのに。


「危険性を、確り把握してなかったのかな」


 この世界のどこかが犠牲になるということを除けば確かに便利な力ではある。


 変換の必要もなく武器にそのまま使えるし、威力も俺の全力で対抗できるかどうか、ってくらいのものだ。それも消滅の力を進化で強化してのごり押しだ。


 俺の生まれてない時期だったら俺の種族結構いたからどうなってたかわからないけど。


 すくなくともこの時代で何発も打たれたら防ぎようがない。


「そうだ……とりあえず聞かなきゃ」


 大分呼吸も整ってきたし、大砲を誰が作ったのか聞いとかないと。どうやってあんなもの(魔脈)を見つけたのか、しかもそれを制御できる武器を作ったのか。


 その辺にいた人に話しかけてみる。どうやら地割れには巻き込まれなかったけど驚いて腰を抜かしたらしい。好都合だ。


「そこの君」

「……きみ?」

「……あ、間違えた」


 しまった。咳払いをしてごまかす。


 けど堂々と間違えたと言ってしまった。バカか俺。


「い、今のは忘れろ。いいな?」

「へ?」

「いいな⁉」

「ふぁ、はい!」


 目しか見えてないこの格好で威圧すると中々効果があるらしい。普段なら多分下に見られてる。俺の顔って大衆受けは悪くないらしいんだけど、どうにも気が弱そうにみえる。


 ……実際弱いんだけど。


「卿はあの大砲のがなんなのかよく知っているか? ……ああ、嘘はつかない方が身のためだぞ。私は他人の嘘を見通せる特殊な眼を持っているからな」


 嘘です。ただちょっと珍しい色してるだけ。


 赤い眼は滅多なことがないと現れないと聞いた。多分バレないだろう。


「え、えと。あ、あの大砲は、魔脈からのエネルギーを直接打ち出すものです」

「魔脈とは誰が発見した?」

「あ、アロク様です」

「……アロク?」


 眉を潜めると、睨まれたかと思ったようで首を吹き飛びそうなほどの勢いで縦に振りながら焦りながら喋り出す。


「アロク様は、その、マグナの魔法学者で、魔脈理論を提唱した偉人です、はい」

「マグナ……確かエルフの国だったな?」

「あ、そうです、ええ」


 俺が次になにを質問しようかと悩んでいたら背後に気配がした。が、よく知っている気配なので振り向かない。


『終わったぞ』

「殺してないだろうな」

『恐らくな。で、今はなにをしている』

「情報収集だ。とりあえず人を踏み潰すことのない場所で待機してくれ」

『承知した。移動の際は合図してくれ』


 レヴェルにそう話してから考えを纏めていると、目の前の男が見てわかるくらいはっきりと震えだした。


「あ、あんた何者」

「何者? ……そうだな。カストル……いや、リュウイチだ。卿が私をなんと呼ぶかは知らないが、ラグーンの上に住んでいる種族だ。……もっとも、もう私以外の同族はいないがね」


 とりあえずアロクとやらを探して話をしてみるか。その名前もそうだがどうも引っ掛かる。


「ああ、そうだ。アロク、とはどんな種族だ」

半蛇人ナーガ族ですが……?」

「……まさかな」

「え?」

「いや、なんでもない。疲れているところを引き留めて悪かったな。だがこれ以上あれを使うと言うのであれば、卿らを消す。これは脅しでも何でもなく本気だ。私にとって、生物を消すことなど容易いからな」


 適当に落ちていた石を能力で消してデモンストレーションしてからレヴェルに合図を送る。


「ではな。これ以上愚かな真似はするなよ」


 飛んできたレヴェルの手に飛び乗ってその場を離れた。








「やっぱりこれどうみても不審者だよね」

「中々似合っていたぞ。ククッ」

「笑ってんじゃねーか‼」


 絶対心にもないこと言ってる。


『まぁいいではないか。次はどうする? 思っていた以上に早く事が済んだからな。コカゲと合流するか?』

「いや、アロクという半蛇人ナーガに会いに行く。嫌な予感がするんだ」

『何故だ?』


 方向を指示してひと言。


「行き先はマグナだ。もし俺の考えていることが現実に起こっているとしたら非常に不味いことになる。それが的中したらちゃんと話すよ。不確定な時期に話すと俺の考えもそこで固まる気がする」

『わかった』


 彼は納得いってないっぽいけど渋々承諾してくれた。


 でも的中していてもしていなくてもこの事を言うのはちょっと憚られる。


 苦しい言い訳だけど、今はこう言って見逃してもらうしかない。


「頼む、レヴェ―――」

「その必要はありませんよ」


 耳元で声がして咄嗟に飛び退いた。レヴェルの声でもましてやコカゲの声でもない。


 だが、レヴェルの手の広さにも限界がある。一歩動いただけで限界だった。もう一歩動いたら地面にまっ逆さまだ。


「そんなに怯える必要はないのでは?」


 クスクスと楽しそうに笑みを浮かべるのは、見ず知らずの女性。


 親しげに話しかけてくるが、彼女のことは記憶にない。


 それ以上に不気味なのはどうやってここに来たのかということだ。まさか高速飛行中に入り込んできたのか?


 俺の感知領域に堂々と侵入し、今目の前に立っているのにいまだに感知に引っ掛からない。


 目の前にいるのに。一瞬感知の勘が鈍ったのかと思ったが、レヴェルもその辺を飛んでいる鳥も確り感知できている。


『おい、そいつはいつからいた⁉』

「君も気づかなかったんだ……。俺の感知に一切引っ掛かってない。声をかけられるまで反応できなかった」


 ジリジリと後退しながら目の前の女性に目をやる。ゾッとするほど自然に、そこに溶け込んでいる。最初からいた、と言われても納得できるくらいに。


「なにをされに行くんです?」

「……アロクという半蛇人ナーガに魔脈のことを聞きに」

「そうですか!」


 ぱちり、と両手を合わせて嬉しそうに頬笑む。


「ではもう目的は果たせていますね!」


 ……ということは、


「君がアロク?」

「ええ。勿論」


 するとアロクがフッと視界から消えた。


「え? ………ぐっ⁉」

「相変わらず平和ボケしていらっしゃいますね。そこが良いところでもあるのですが」


 真後ろから首を絞められているのは直ぐにわかった。


 弓も矢も届かない。


『なっ!』

「ああ、動かないでくださいね。貴方を殺したくはありません」


 なにかしようとしていたレヴェルにそう告げるアロク。


 だが、ちょうど目線に入らないところで会話をしているのでなにをやろうとしたのかはわからないけど。


「……俺をどうする気?」

「勿論どうもいたしません。ただ、以前と変わらず静かにしてくだされば結構です。もう少しで計画は完成するのですから」


 首を絞められたところで俺は呼吸を必要としないから苦しいとかはない。声帯が押されるから声が出しにくいってのはあるけど。


「……本当にアロクなのか?」

「ええ。正真正銘、あなたのアロクですよ」


 やられた。散々後手に回らないように気を付けていたのに、これだ。もうとっくの昔から敗けが確定していたらしい。ラグーンを降りる前から。


『どういうことだ』

「……彼女は、アロク。ラグーンのアロクで、Lagoon・aloc。転じて……ラグナロク」


 蛇人だと聞いた時点でそうかもしれないとは考えないこともなかったし、本人に会いに行くまで確信は持てなかった。


「でも、そうか。君なら魔脈のこともよく知っているし、扱う技術もある。それに君が以前と変わらず直接動けばもし本当の歴史を知っている人がいた場合何かしら邪魔される可能性がある。けど魔脈の知識を一部でも貸し出せば勝手に潰しあって勝手に世界を壊してくれる。そう考えたんだね?」

「流石です」


 魔脈の乱用を推奨してしまえば誰だって食いつく。どこからか涌き出る無限にも思えるエネルギーだ。


 それを使えば社会は進歩する。


 だが少しずつならまだしも大量消費してしまうものが現れた場合どこかしらの犠牲は出るんだ。それを考えなかった人もバカだが、その危険性を教えなかったアロクの思う壺だ。


「さぁ、帰りましょう。もう一息で全てあなたのものになりますから」

「アロク……!」


 違うんだよ。俺は、それを望まない……!

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