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49ー13 とある男の小さな冒険

 合図してないのに降りてきちゃったレヴェルの大きさに、なのかレヴェルの顔が怖いのかわからないけど、周囲が引いている今がチャンスだ。


「あの……」


 いや、こんなに恥ずかしい格好してまで顔を隠しているんだ。


 言葉遣いも態度も大きく変えるべきだろう。


「あな……卿らは自分が何をしているのかわかっているのか!」


 ちょっと声が上ずったが、寧ろ元の声を隠せるこっちの方がいいだろう。


(おい、なんだその言葉遣いは)

(しかたないだろ! これ以外がい思い付かないんだから!)


 小声でレヴェルに言い返しながらもう一度息を吸い込む。


「その武器が、大地にどれ程の苦痛を強いているのか卿らは理解しているのか‼」


 なんだこいつって絶対に思われてる。


「なんだ貴様は‼ どこの国のものだ!」

「私は……ラグーンから来た!」


 本当のことを言うかで迷ったが、どうせ信じないし嘘はつかない方がいい。


「貴様は何をしに来た!」

「この愚かな戦争を止めに来た! 下界の事とはいえ、ここまで騒がしいのは耳障りでならない」


 キャラが安定していないのにいろいろと話してしまった。


 こうなったら『とんでもなく偉そうで自分勝手な神様』という設定で押し通すしかない。


「なにを……」


 これ以上話すとぼろが出そうだ。ということで矢をもう一発空に向けて放つ。


 今まで俺に話しかけてきていた男の真横に突き刺さり、轟音を立てながら周囲を軽く破壊する。


 見た目ほどの威力はないけど脅しにはなるよね。


「……騒々しい。私が話しているのだ。黙れ。そして早々に全員ここから立ち去れ」


 昔読んだ小説の登場人物の口調を真似る。


 今は誰も動き出さないが、多分俺に向かって攻撃を仕掛けてくるだろう。


 その時にうまいこと防げれば――――


「グォオオオオオン!」


 レヴェルが、吼えた。


 何でかはわからない。が、突然遠吠えをあげた。


『薄汚い下人共……。さっさと我が神の言葉に従い行動を開始せよ。さもなければ私が貴様らを一瞬のうちに食い殺してやる』


 ……怖いよっ! 脅しすぎだよ!


 君のお陰で泣きながら逃げてく人もいるけどこれ当初の目的とは大分違うからね⁉


 その時、キィン、と何かの音を耳が拾った。


 即座に弓を構えて五本、矢を射る。


 打ち落としたそれは思っていた通り、全部矢だった。


 ちょっと威嚇してみるか。


「卿ら、私を愚弄しているのか……? ここにいる全ての生物を消し炭にしても構わないんだぞ?」


 あ、びびってる。


 よし、両軍撤退してくれるみたいだけど、あの大砲だけはちょっと許せない。


「レヴェル、あれを壊せ」

「承知した」


 レヴェルが上を向いて息を溜め、一気に吐き出す。


 それは口から出る際に炎の玉になって大砲に襲いかかり、一瞬にして溶かしてしまった。


 相変わらず、凄い熱量のブレスだ。あれを喰らって生きていられる生物なんて、俺を含めても殆どいないだろう。


「「「っ⁉」」」


 その場にいるもの全てが息を飲んだのがわかった。これで逃げてくれるとうれしいんだけど。


 でも、そう簡単には……いかないみたいだね。


「っ、相手は一人だ‼ かかれ!」


 どうやらドラゴンを相手にする度胸はなかったらしく俺に向かって何人かが飛び込んでくる。


(おい、手は必要か?)

(いや、俺だけで十分だ)


 レヴェルに小声でそう返してから弓を背負いなおして拳を握る。


「……初撃、右下」


 目線と音で判断し、予め攻撃箇所を避けておく。ただ、あんまり早く反応したら意味がないから結構すれすれで避けることにはなっちゃうんだけど。


 斜め下から斬り上げられる剣の腹を軽く指で弾いて軌道を逸らし体を屈め、反対側から斬りかかってきていた男と剣をぶつけさせる。


 頭上で剣と剣のぶつかり合う音がなった瞬間に右斜め後ろに軽く跳んで死角に入り込み足を掴んで投げ飛ばす。


 三人くらい巻き込めたかな。


「撃てっ!」

「あれは……!」


 小型の大砲が視界の端に映った瞬間、一直線に白い光が溢れだす。あれは見たことがある。


「千白砲!」


 あれは、俺の両親がよく使っていた魔法だ!


 見ていたから対処法もわかる。


 即座に右手に意識を集中させ、イメージを組み上げる。


 魔法とは、祈りや憎しみなどで発生する感情の塊だ。火事場の馬鹿力なんて言葉があるのも、感情は時に理解を越える現象を作り出す。


 感情を高め、魔力でそれをより鮮明な形にする。これが魔法という力。奇跡だ。


「千黒砲」


 同じ威力の、全く対極の力を叩き込む。そうすることで周囲にはなんの影響を与えることもなく、魔法は消滅する。


 まっすぐに打ち出された光の刃を圧縮して威力を高めた漆黒の光が分解していく。


 避ければいいのにわざわざ打ち消したのは、もうこの場所を傷つけたくないと思ったからだ。


 今の大砲だって魔脈の力を使っている。もうこれ以上は使わせられない。


「……愚か者。卿らのその武器のせいであちこちで土地が痩せ、水源が枯れている。それを私の前で使おうなど、喧嘩を売っているとしか思えないぞ……?」


 睨み付けると、レヴェルが手で大砲を凪ぎ払ってくれた。


 ナイスタイミング。


 その瞬間、グラリと地面が揺れる。


「まさか……!」


 いや、違う! 揺れたんじゃない! 割れたんだ!


 今の大砲の一撃で、地面の魔力が一気に持ってかれたから……!


「レヴェル! 落ちてく人を助けろ!」


 直ぐにレヴェルは反応してくれた。あの早さなら多分大丈夫だろう。でも、魔脈を使われたのが小さい大砲で良かった。レヴェルがブレスで溶かした方が撃たれてたら確実にヤバかった。


「ギャアアアア‼」

「ったく、世話の焼ける……!」


 叫びながら大砲を打ったやつらが落下していく。飛べない彼らに地割れは最悪の災害だ。俺は飛べるけど。普段は疲れるから飛ばない。


 レヴェルの飛んでいった方角とは真逆だからレヴェルもあっちで手一杯だろう。


「あんまり使いたくなかったけど……‼ はっ!」


 そこらじゅうにポケットから取り出した種をばら蒔いて力を直接送り込む。


 恐ろしい勢いで草の蔓や根が張っていき、天然のネットを作り出す。


「これで、全員、かな」


 力の使いすぎで目の焦点が合わない。半ば朦朧としながら地割れのない場所まで飛んで体を横たえる。


 あまりいい気分ではなかったが、とりあえず救えたことにホッとした。

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