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49ー12 とある男の小さな冒険

 不可能としか考えていなかったことなのに、いつのまにか戦争を止めるなんていってしまった。


 なんでそう思い付いたのか、逆にそれ以上いい案がなかったのか。


 とにかく俺は本気だった。


 考えを曲げない俺を見てレヴェルが大袈裟にため息をつく。


「はぁ……。コカゲ。悪いが」

「はい。ここからは別行動みたいですね。某の用が終わったら直ぐにそちらに向かいます」

「それで頼む」


 ?


 え?


「どういうこと?」

「お前一人では心配でならん。私もついていこう」

「でも、コカゲが」

「これでも某もそこそこの腕はありますし、里への道は覚えております。もし何らかの理由でその道が駄目になっても変更できるくらいには」


 確かに、コカゲ一人の方が移動も早いかもしれないけど。


「俺一人で……」

「不安だ」

「ですね」


 そんなに俺は信用ないのか。軽くショックだよ。


 色々と知らなさすぎるところも多いのは十分知ってるけど。


「それに、その格好のままで行くのか?」

「おかしい?」

「まず裸足がおかしい」


 でも靴履いたら本気で走ったときに靴が破れるし。


「服もデザインがちょっと古いんですよね」

「そうなのか……」


 確かにここ数年服を下界から補充してない。


「これを」


 コカゲが鞄から取り出したのは頭まですっぽり入る黒いローブと同じくらい黒く染められている包帯だった。


「なにこれ」

「これを着て口を包帯で覆えば目しか見えません。カストル様の目は珍しい色ですが、そこは隠すわけにはいかないですし」


 目以外全部覆うらしい。


 ヒラヒラしてて凄く邪魔そう……。


「邪魔そうとか言うなよ」


 いってないよ。思っただけだよ。


「なんでこんなの持ってるの?」

「忍ですから」

「………忍は皆持ってるの?」

「ある程度体が隠せるものは誰でも持ち歩いています」


 一体どんな状況で使うんだ、これ。


「レヴェルは?」

「私は形態変化を使う」

「あ、いいな、それ……」


 彼の形態変化は今の人形と竜の二種類しかないが、確かにあれを使えば知っていなければわからないだろう。


 あ、そうだ。


 コカゲと別れるなら会うのに必要なものがあったんだ。


「コカゲ。これあげる」

「これは?」

「俺の数少ない私物のひとつ。破片を持っているもの同士の距離が何となくわかるってだけのあんまり強くない代物だけど」


 力任せに金属の板を割って穴を空け、チェーンを通す。


「近いときは今みたいに銀色に、離れれば離れるほど銅色になる。次会うときはこれを頼りにすればいいよ」

「ありがとうございます」


 コカゲはそれを首にかけて進行方向に走っていった。


 本当に体力あるなぁ。俺だったら直ぐに疲れちゃう。


「いくぞ。こういうのは早い方がいい」

「うん」


 彼が早速形態変化を使って白い竜になる。


 手を出してくれたのでそこに座ると、早速とばかりに風をきって飛び始めた。


「どれくらいでつく?」

『聞いた話では先程の村から歩いて二週間と聞いたから……一時間もかからんぞ』

「わかった」


 今のうちにコカゲに借りた服に着替えておこう。


 脹ら脛まである長さのローブを羽織って首から口、鼻にかけて黒い包帯を巻いていく。


 どう見ても不審者なんだが大丈夫だろうか?


 しかも黒一色。元々夜闇に紛れるために着るらしいから暗色なのは仕方ないんだけど、これはこれで不気味。


「なぁ、これ本当に大丈夫? 寧ろ怪しい気がするんだけど」

『ブフッ……いや、問題ないとおもうぞ』

「今笑っただろ⁉」


 なんてやつだ。確かにどこからどうみても変なのは違いないし、コカゲのサイズだから微妙に小さい。


 腕とかパツパツで……?


「レヴェル。あとどれくらいで着く?」

『二十分もかからん』

「急いで‼」

『わかった!』


 レヴェルが翼の動かす速度を上げる。


 風圧が余計にかかってくるが、レヴェルが俺の前で反対の手を風避けに出してくれているので飛ばされる心配もないだろう。


『突然焦りだしてどうしたんだ』

「魔脈が一気に消費されてる。土地を毒化した時と同じことが多分これから起こる!」


 もうこれ以上魔脈を使わせるわけにはいかない。


「俺の両親やその友人が守り抜いた場所だ……! 今度は俺がなんとかするんだ」


 背中にあった弓を取り出して軽く構える。


 矢は道中の村で食べ物と交換して補充し、時間があれば自分でも作っていた。


 十分な数があるとはいえないけど、これで遣り繰りするしかない。


 自分で作った矢に魔法をかけていく。


「強化、炎熱耐性、速度上昇と……あとは最初は派手にいきたいから貫通力より破壊力かな」

『もう見えるぞ‼』

「っ!」


 レヴェルの指の隙間から、巨大な何かが見える。


 それを見てゾッとした。大砲だ。銀色に太陽の光を反射する巨大な大砲。


 あれに、あり得ないくらいの魔脈の魔力が込められている。


「あんなもん撃ったら……ヤバイどころじゃないぞ」

『どうする』

「止める。あっちに飛んでくれ。矢を射ったら飛び降りるから合図したら俺の近くに降りてくれ」

『了解』


 強化に強化を重ねた矢を大砲より少し前方に打ち込む。


 矢は狙った通りの場所に軌跡を画きながら突き刺さり、派手な爆発と突風を巻き起こした。


 ちゃんと計算したから怪我人は出ていない筈。


 突風に煽られて転倒して怪我した、とかは知らないけど。


『やりすぎじゃないか?』

「戦場の視線を集めたいならこれくらい必要だよ。じゃ、行ってくる」


 彼の手から飛び下り、相当長い滞空時間の後に先程の矢の真横に着いた。少し勢いをつけすぎたのか、地面にクレーターが出来たが……これは後で直そう。


 さっきの矢でこの辺り一帯だけでなく、戦場中の視線がここに集まっていた。


 計画通りとはいえ、少し恥ずかしい気もする。


「……」


 ………あ。何を言おうとしてたのか吹っ飛んじゃった……。


 静かな草原に風が吹き抜けた瞬間、沈黙を破ったのは周りの兵士たちだった。


 ざわつきながら後ずさっている。


「まだ合図してないんだけど……」

『どうせ言うことも忘れたんだろう? ならここにいようが待機していようが変わらない』


 だからって直ぐに降りてくることはないと思うよ。

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