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49ー11 とある男の小さな冒険

 一泊して村を出ると、そこには放棄された畑が広がっていた。


「……これじゃあ物資が足りなくて当然だよ」

「そうですね。殆どが雑草だらけです」


 俺はこの村の人じゃないし、下手なことはやめておいた方がいいとは判っているんだけど……。


「とりあえず今は目的を果たすのを優先しましょう。迷っていると本来の目的も忘れてしまいます」

「うん……」


 半月草を届けてから、考えることにしよう。


 俺の手に余ることはじっくりと対策を練った方がいい。ラグナロクのこともそうだけど、俺はラグーンの外のことを知らなさすぎる。


「戦争が終わればいいんだろうけど……」


 そんな簡単なことじゃないのは百も承知だ。


 けど、痩せ細った子供が死に物狂いで働いているのは見過ごせない。……昔のレヴェルと重ねてしまうからかな。


 次に訪れた村も同じ状況だった。


 残された老人達は酷く憔悴していた。食料も限界で、働き手もいない。長い間掃除されていないのか、至るところに埃と蜘蛛の巣が張られていた。


 商人のふりをして提供できるだけ食べ物を提供したけどこの人数じゃ持って一週間が限界だろう。


 俺の力は無闇に使うことはできない。過ぎた力は争いしか呼ばない。だから今はこれくらいの援助しかできないんだ。


 村の人はありがたいと言ってくれたが……


「どこの村も、状況は同じだな」

「そうだな。この戦争は相当長く続いている」

「そもそもなんで戦争なんて起こってるの?」


 ラグナロクを倒すという明確な目的があって前の戦争は始まった。今回はどうなのか。


 流石にまたラグナロクは関係していないよね? もしそうだったら本気で打つ手がないかもしれない。


「種族の争いです。エルフやドワーフ率いる亜人と犬族や猫族が率いる獣人の。某の種族のように参加していないのは極少数の種族だけです」

「なんでそんな」

「食糧難だ」


 食糧難? 今村が潰れかけているのは人手不足だからじゃないのか?


「そもそもの理由は土地が枯れ始めたことだ。作物の育たない砂の大地が各地で広がっていると聞く」

「一斉にか」

「一斉にだ。その理由はエルフの魔化装置」


 魔化装置……その名前は知っている。


「確か、エネルギーを作る方法のひとつだよね?」

「ああ、そうだ。地中の魔脈から魔力を引き揚げてそれを生活の中で使う」


 ラグーンでは俺の力を吸い上げていろんな機能を使っていた。


 俺の力は物質を崩壊させるほどのエネルギーの塊でもある。俺一人でラグーン内の運営くらい可能なんだ。


 今は下に降りてきてしまっているから多分屋敷ではライフラインの一切が止まっていると思う。


 あそこにある水から灯りまで全て俺の力で賄っていたから。流石にラグーンが落ちてくることはないと思うけど。


「魔脈の力を引き上げすぎたんだね」

「そうだ。世界各地で極端な魔力不足が起こり、それに激怒した獣人が戦争を起こした」


 魔脈はこの世界そのものを動かす燃料でもある。どこかが使いすぎればどこかが極端に少なくなるのは道理だし、一回無くなってしまえば復活する可能性は相当低くなる。


 俺でも直ぐに復活させるのは無理だ。元に戻すまでに短く見ても数年はかかる。


「じゃあ、エル――――っ⁉」


 ギィン、という音がする。しかも、頭蓋に響くとてつもなくデカイ音が……!


 たまらず耳を押さえて座り込む。


「お――どう――」


 音が全身を駆け巡り、ギンギンと頭の中で反響する。そのせいで周囲の音が殆ど聞きとれない。


 数秒激しい音が鳴り響いて、徐々に薄れていった。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 大丈夫、周りの音も聞こえる。


 突然だったから相当焦ったし冷や汗も凄いことになっている。


「なにがあった」

「聞こえ……なかった?」

「なにがでしょうか?」


 二人にはなにも聞こえていなかったみたいだ。


 俺だけに聞こえた………?


「声だった。何かの叫び声……」


 よくよく思い返してみるとちゃんと言葉を発していた。


「何て言っていたかわかるか」

「助けて、痛い……って」


 俺の耳が二人より良いとはいえ、ここまで大きく聞こえたものが二人に聞こえていないなんて、魔法でも使わない限り無理だ。


 もし魔法だとしてもここまでの効果のものは殆どないはず。


 コカゲが出してくれた水を飲みながら考えを巡らせていると、視界の端に入っている木々が妙な揺れかたをしたのに気がついた。


 ……なんか、根っこが腐ってるみたいな……


 少しつついてみるとグラリと大きく傾いた。


 そんなに細いわけでも枯れかけているわけでもないのに。


「これは……木じゃなくて地面が?」


 土を触ってみると結構サラサラしていた。綺麗そうなところを摘まんで口にいれてみる。


 なっ⁉


「不味いっ!」


 直ぐに吐き捨てる。口のなかが変な感じだ。


「不味いに決まっているだろう。そもそも土は食べ物ではない」

「それくらい知ってるよ! そういう意味じゃなくて……酷いエグみがある」


 それだけじゃない。なんかピリピリする。


「……毒だ。地質が毒性を持っている」

「毒? この辺りの土がそうなのですか?」

「いや、わからん。けど多分こうなったのは最近だろう。この木は毒素を受け付けていないみたいだからな。もう少しで枯れてしまいそうだ」

「どういうことだ?」


 なんて説明すれば良いのかな……


「もしここが最初から毒の地質だったらこの木はこんなに育ってないよ。根すら張れていないみたいだし、君の故郷で俺と同じ木を見た」


 毒の耐性に特化した木ならまだしもこの木はその耐性を持っていない。


 だからこそこうなったのは最近だとわかる。


 木の幹や葉を見る限り、大体一週間前後だろうか。


「……レヴェル」

「なんだ」

「コカゲと一緒に隠れ里に行ってくれないか?」

「お前はどうするんだ」

「戦争を止めに行く」

「………はぁ⁉」


 レヴェルがすっとんきょうな声をあげた。そんなに驚くことなのか?


「お前、なにいってるのかわかってるのか」

「わかってるよ。ただ、このまま放置したら一ヶ月くらいで下界……死ぬよ?」


 木に触れてみてわかった。魔脈の魔力が明らかに減っている。だから地面が変質したんだ。


 それだけじゃない。魔脈はもう既に限界なんだ。


 さっきの声は、魔脈の悲鳴、っていうのは曲解しすぎかもしれないけどそれに近いものだと思っている。


 戦争をするために魔脈を酷使しすぎたんだ。


 これ以上使いすぎてしまえば、本当にここに誰も住めなくなる、作物も人も活かせない土地に成り果ててしまう。


 ある一定地域なんて軽いものじゃない。半分以上魔脈の力がなくなったら、もうあとは回復すら望めない。ドミノ倒しみたいに止めることはできなくなってしまう。


 全部使いきったら終わりじゃない。半分でアウトなんだ。


「直ぐに止めに行かないと本当に不味いことになる」


 俺の力は回復に適さない。間に合わなければ、この世界が崩壊していくのを見守ることしかできなくなってしまう。


「もう、あのときみたいに後悔したくないんだ……!」

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