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47ー3 終わらない恐怖

 天宮城が扇を閉じた瞬間だった。


 地面が大きく上下し、爆発したと勘違いするほどの爆音を響かせて立っていられない揺れが辺りの空間をねじ曲げる。


「地震⁉ シーナ、無事か⁉」


 真っ先にシーナの無事を確認し、駆け寄ろうとしたその時。窓から何かが入ってきた。ひとつではない。5、6の金属の鏃が飛び込んできた。


「なっ―――」


 咄嗟に足を一歩引くと踏み出そうとしていた場所に鏃が突き刺さる。他の鏃も天宮城を囲うようにして地面に突き刺さり等間隔で円を描いた。


 その鏃から光の柱が真っ直ぐに伸び、薄い膜を張っていく。


 突然のことで反応が追い付かなかった天宮城がその膜に恐る恐る手を触れるとガラスに近い質感と温度の壁がそこにあった。


「なんだこれ……」


 即座に扇で殴り付けるがびくともしない。完全に閉じ込められた。


 なんども同じ場所に鉄扇を振るうがガンガンと音を立てるばかりで壊れる気配はない。


「流石! 1発で捕まえるとか」

「まぁ、こんなものです。彼が油断していたというのもありますけれど」


 見た目は6歳くらいの活発そうな明るい茶色の髪をツインテールに結んだ女の子と眼鏡をかけたいかにも真面目そうな黒髪ポニーテールの女性が入り口から堂々と入ってきた。


 天宮城のキレたときとよく似た雰囲気をしている。


「……ようやく見つけましたよ」


 眼鏡を指先で押し上げてそう言われた。もちろん天宮城には覚えのない相手だ。


「……どちら様で?」

「まさか……忘れてはいませんよね?」

「……? ? ??」


 全く思い出せない。あった人の顔を覚えるのは得意なのだが、見覚えが全くない。


「はぁ……まぁいいでしょう」

「ねーねー、ミリのことは覚えてるよね?」

「………? ミリさん、ですか?」

「あー。お姉ちゃん。この人本当に忘れてるみたいだよ?」


 頭を捻っていると天宮城の前にシーナが立ち塞がる。


 天宮城が暢気、というか襲われ慣れているので反応しないだけだが普通に考えたらかなり危機的状況である。


「何をする気ですか?」

「……貴女には関係ありませんよ、三ツ目族。そこを退きなさい」

「いいえ退きません」


 初めて知ったシーナの種族名だが、この世界の知識に若干疎い天宮城にはなんの種族なのかよくわからない。


 名前からして目が三つなのは理解できるが。


「アレク様。壊せそうですか?」

「……とりあえず扇では無理っぽい。ブーメランは狭すぎて振れないしバズーカは俺ごと巻き込まれる」


 言霊は無理っぽい。そう考えて今気付いた。


「? 喉治ってる」

「そんなこと言っている場合ですか!」


 そうは言われても壁が壊せないのだ。柱を作っている鏃を壊そうにもそれもかなり頑丈だ。


 もう一度大きく振りかぶって殴り付けるが岩でも殴っている気分である。割れている手ごたえが全くない。


「無駄だよ? だってそれミリとレナで作ったお兄ちゃん用の檻なんだから!」

「捕らえたのは私ですけどね」


 これ以上抵抗している状態でシーナと彼女らが接近すると危ないと判断した天宮城は躊躇なく手の中に銃を出現させる。


「あれは⁉」


 離れたところから様子をうかがっていた鈴木が驚きの声をあげる。天宮城はそれを一瞥したものの直ぐに弾丸が入っていることを確認して膜にピタリと当てた。


「これくらいじゃ無理そうだが……」


 両手で確りと固定し、二発ガラスに撃ち込む。発砲音が鳴り響いた。


 だがヒビも入らず、役目を失った弾の残骸が地面に落ちただけだった。


「場所があればもっと火力の高い武器も使えるんだが……」


 場所の広さ的に精々ライフルくらいしか扱えない。


 本気で殴ってもびくともしなかったこのガラスにそれが通用するとは到底思えないので試す気にもならない。


「もう、煩いなぁ。静かにしてよお兄ちゃん!」


 幼女の言葉に反応したのか光の柱から数本の鉄の槍が生えて物理的に地面に両足を固定され、両手がガラスに縫い付けられた。


 痛覚が鈍いとはいえ存在しないわけではない。衝撃に耐えかねてからか天宮城の呼吸が乱れる。


 鉄の槍は見事に両手両足を貫通しているので夥しい血もそこから溢れだしている。


「アレク様⁉」

「っ……大丈夫だ。痛覚がほとんどないからな。そんなことよりこれは一体……」


 引き抜こうともがけばもがくほどどんどん深く食い込んでくる。


 天宮城にとってはそれ以上に両手両足を拘束されたのが辛い。脱出の方法すら探れなくなってしまった。


「く……抜けない」

「それ以上動かれると血が余計に出てしまいます!」

「どうせすぐ塞がるから―――シーナ! 後ろ‼」


 天宮城の声に直ぐ様反応して懐に忍ばせてあったナイフを盾にする。


「へぇー。三ツ目のお姉さん結構戦えるんだ」


 ギリギリと刃と刃が擦れあい、シーナのナイフが砕けた。


 得物に差がありすぎるのだ。シーナのナイフはどこにでも売っている汎用品のナイフ。幼女の使っている武器はどう見てもそれ以上に殺傷力の高いナイフなのだから。


 しかもただの直刀ではなく大きくそり返っている。所謂ククリナイフと呼ばれるものだ。


 ナイフが壊れるのは想定済みだったがまさか一撃で壊れるとは思わず、一瞬シーナも面食らう。


「シーナ⁉」

「問題ありません。少し油断していただけです」


 天宮城は今すぐにでも相対するのをやめて逃げて欲しかった。


 だがそれと同時にシーナがこれくらいのことでは引かないということも理解していた。


「それにしても驚きましたよ。まさか貴方様が服屋の店長だなんて」

「ねー! びっくり。お兄ちゃん力は強いけど豪快だし」


 力が強くて豪快ならばむしろ性格としては真逆なのではないだろうか、と思わないこともないが。


 でもこの二人が人違いで天宮城を狙っているのではないか、とは微塵も感じなかった。


 天宮城が最初に二人を見たときに直感したのは『逃げ切らないと』という謎の焦りだった。顔には出さなかったが、内心相当焦っていたのは間違いない。


「君達はなんなんだ……。なんていうか、凄い……寒気がする」


 本能が逃げろと囁いてくる。


 檻から脱走した猛獣が眼前に迫ってくる感じだ。


 恐ろしいという感情よりも先に逃げなくてはという気持ちが膨らむ。


「来てもらえばわかります」

「それはお断りします。アレク様を行かせません。私が守ります」


 天宮城の代わりにシーナが静かに怒りのこもった声でそう告げて予備のナイフを真っ直ぐに構える。


「待て、シーナ‼ 無謀だ!」

「……アレク様は無謀だからといって諦めるのですか?」

「そうは言ってない! けど今突っ込むのはあまりにも―――」


 そこまで言って、口が突然思い通りに動かなくなった。それだけではなく、全身の力も一気に抜けていく。


 狭まる視界に最後に映ったのは肩を斬られて血を辺りに撒き散らすシーナの姿だった。

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