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47ー2 終わらない恐怖

 ぶちギレた天宮城と鈴木が向かったのは王城にある運動場ほどの広さを持つ訓練施設だった。


「申し訳ありません、アレク様……油断してしまい」


 天宮城はふるふると首を横に振って鉄扇を握った。


 互いに距離を取ってから天宮城が礼をすると、やり方がわかっていないのか鈴木が訝しげな目を天宮城にむける。


「公平な判断を下していただくためにここにいらっしゃった兵士の方に審判をお願いしました。よろしいですね?」


 たまたま訓練をするために来たのにこの兵にとっては、とんだとばっちりである。


「えっと、じゃあ制限時間は?」


 なにがなんだかわからないまま審判に抜擢された兵士だが、ちゃんとやることはわかっているようだ。


 天宮城は地面に鉄扇を立て掛けて両手を広げる。


「十分、でいいですか?」


 天宮城が頷くと反対側から声が上がった。


「ちょっと待て。なんでこいつが決めるんだ」

「決闘のルールです。申し込まれた方は制限時間の設定を決める権利があり、もしその時間内に終わらなければ申し込まれた方の勝ちとなります」

「こっちが圧倒的に不利じゃねーか」

「元々決闘とはそういうものです。下剋上のために存在しているものではありませんので」


 シーナが淡々と説明する。


 天宮城がまた何かペンを動かしたかと思うとそれをシーナに見せた。シーナは数秒黙ってからそれを読み上げる。


「……ルールは相手が降参するか、審判が終わりだと判断するか。それか相手が死亡するかで勝敗を決めます。掛け金はアレク様の生死とスズキ様への貸し、でよろしいでしょうか」


 特に今欲しいものとかもないのでとりあえず貸し1つにするということは先程決定したことである。


「ああ。かまわねぇ」

「………(コクリ)」


 決闘は他者の介入さえ無ければほぼなんでもありの生死をかけたサバイバルゲームである。


 天宮城の場合、開始早々バズーカでぶっ飛ばすのも有りと言えば有りなのだ。


 その場合鈴木は確実に死ぬが、そこまで面倒を見きれないというのが本音である。そこまでやる気はないが。


 準備が整ったと見や否や審判が声をあげた。


「では両者、構え」


 鈴木はよく磨かれた両刃剣を、天宮城は全身が隠れてしまいそうな程大きな鉄扇をまっすぐに構える。


 ガッツリ刃物の鈴木の剣と違い、天宮城の武器は鈍器なので金属バットと似た殺傷力しかないのだがいつになく怒っているからか殺す気満々にしか見えない。


 一瞬両目が赤く染まった。


「始め!」


 開始の合図と共に鈴木が走り出す。


 時間切れは鈴木の負けになってしまうのでそれを避けてのことだったのだろう。


 元々剣道をやっていた鈴木はどう見てもド素人の天宮城に負けるわけにはいかなかった。


 ぐっと剣を握りこんで袈裟斬りにする。天宮城はその攻撃を鉄扇の側面を使って受け流す。


 滑らされる動きというのは案外厄介なもので、体重が少しでも前に向いている場合は受け流された体勢によってはバランスを崩して転んでしまう。


 鈴木は直ぐに右足を踏み込んで体勢を整え、先程振り降ろした状態の剣で斬り上げる。


 真っ直ぐ真下から振り上げられた場合、受け流すのは至難の業だ。天宮城は冷静に扇の要になっている金具で弾くことを選択する。


 火花が散って金属同士が声をあげる。


 相手が予想以上に戦いなれていると気付いた両者は直ぐ様動きをより激しいものへと変化させていく。


 鈴木が出す攻撃を天宮城が全て受け流し、弾く。それがただ延々と繰り返されているだけなのに息つく暇も与えられない時間で火花が空気に色を描く。


「おい、なんでお前は攻めない」

「……僕の場合時間切れを狙えばいいので、防御のことしか考えてないだけです」

「全然面白くない」

「決闘は遊びではありませんから」


 いつもの数十倍の眼力で鈴木を睨む。本気の目だった。いつの間にか声も戻っている。


「ですが、今回はお客様の要望に応えましょう。どうぞ死なないよう、お気をつけください」


 両手に力を込めて扇を開き、そのままの勢いで要を外した。


 空中に分解された扇が散らばり、地面に落ちる前にひとりでに浮き上がって天宮城の周囲を囲った。


 一枚一枚がそれほど分厚くはないのだが、どれも鋭利に尖っており並の防具では簡単に貫かれるだろうというのは見た目だけでわかる。


 空中に浮かんでこちらに刃の切っ先を向けている。


「そうやって使うのかよ、それ……」

「ええ。あまり人に見せたことはありませんが、元々は鈍器ではなく大剣です」


 空に浮いているものの一枚を手にとって小さく笑う。目だけは一寸たりとも動かなかったが。


「……では、そろそろこちらからも攻めさせていただきます」


 ぽいっと手に持っていた一枚を放り投げて柏手を打つ。


 その音が響き渡ったのを合図に、周囲をただくるくると回っていた剣達がピタリとその動きを止めて一斉に鈴木に刃を向けた。


 また、目が赤く光を放った。


「先程も申しましたが、死なないよう、お気をつけください?」


 スッと静かに鈴木に向かって指を指した。


 その瞬間、巨大な黒光りする刃物が数枚を残して一気に飛び出す。しかも一方向だけではない。前も後ろも右も左も上でさえ逃げ場がない。


 全方位囲まれてからの一斉攻撃だ。見えていても防げるものではない。


「っづぁああああ!」


 鈴木は目の前の剣を自分の剣ではたき落として逃げ道を作る。だが、一枚を何とかしたところで、この剣の群れは全て天宮城のコントロールで動いているのだ。


 落下寸前にまた浮き上がって鈴木を追跡することなど容易い。


 一枚弾いてなんとか剣の袋叩きから逃れたが、ほかの剣が急にぐいっと進路を変えて鈴木に襲いかかる。


「そこまでっ!」


 気付けば、数枚の刃が自分の喉元にピタリと当てられていた。一枚防いだところで意味がなかったのだ。


 この声がかかっていなければ鈴木は確実に死んでいただろう。


 その場に座り込むと、剣が異様に軽かった。退路を得る為に弾いたときに耐えきれず剣が折れてしまったのだ。


 鈴木は剣を再び呼び集めて扇の形に戻している天宮城を見て、恐怖しか抱けなかった。


「どんな化け物だよ、こいつ……!」


 少なくともただの服屋の店長ではないのは確かである。


 終わることのない恐怖の中、とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったと後悔するしかなかった。

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