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46ー6 大騒動

 キリのいいところで切ったので短いです。

「あと、二枚……」


 流石に疲れてきてペースが落ちてきたが、いつもと同じように動けば十分もかからない。


 凛音たちもとりあえずやることは終えたので一休みしている。


「ふぅ……最後」


 ぱちん、と糸を鋏で切って慣れた手つきで折って手渡す。


「はい、これで53枚です」


 営業スマイルを振り撒きながら手渡されたそれを、ひきつった笑顔で受けとるしかない。


 イリスによろしくと伝えてから店を出ると、もう日が傾き始めていた。


『あいつ嘘吐き』

「まぁ、でもなんとかなる嘘だったから良かったよ。だろ?」

『……アレク甘い』


 どうやら二人とも気づいていた。状況を理解できていない精霊たちが凛音にどういうことかと説明を求める。


『あいつ、アレク困らせようとして嘘ついた。ぎるてぃ』

「あれくらいでイリスさんとの関係が悪くなるなんてないのにね」


 元々40枚だったのが急に13枚増えるなんて考えにくい。


「嫌がらせだろうね。前みたいに燃やされるとかじゃなくてラッキーだったね」


 まず燃やされることが普通になっているのがおかしい。この会話を聞いている人がいたら即座にこう突っ込むだろう。


 残念ながらここにそんな一般人の感覚をもった人はいない。


『仕事した。びーふしちゅー』

「まじかー。交換条件だったのか」

『ん』

「はいはい。じゃあ少し買い物してから帰ろうか」


 どうやらビーフシチューにハマっているらしい。ニルバート(イフリート)もそうだったが、神精霊達は食べることが好きなのだろう。


 長い間生きているからか、娯楽に飢えているのはなんとなく理解できる。


 この後凛音に砂糖菓子をねだられ、つい買ってあげてしまってアインに叱られる羽目となる。








 コキコキと肩をならしながら馬に変化したスラ太郎の背に跨がって凛音を前に乗せる。


「じゃあ行ってくる。店の方は任せていいね?」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 シーナに見送られながらスラ太郎が走り出す。


 舗装はされていないが、ガタガタという訳でもない道をある程度のスピードを保ちながらグングンと進んでいく。


『まだ飛ばない?』

「もう少し行ってからにしよう。見られると厄介だし」


 それからまた時間が経ち、すれ違う人もいなくなったのでスラ太郎に頼んで森に入ってもらう。


 周りに人がいないことを確認してから天宮城がぐるっと周辺を見回し、虚空から取り出したノートとペンで辺りの様子を描き留めていく。


【それは必要なのですか?】

「絶対必要って訳じゃないけどね。ここの風景をハッキリ覚えておかないと帰ってこれないかもしれないからさ」


 念のため、といいつつ満足いく出来に仕上がったのかそれを収納にしまう。


「よし、行くよ」


 パチンと指をならした瞬間、強烈な浮遊感が訪れて辺りの景色が一変する。


 数度の瞬きするほどの時間で巨大な湖の前に辿り着いた。


「ふぅ……やっぱ疲れるこれ……」


 少し顔色を悪くした天宮城がその場に座り込む。凛音が少し遠くまで走っていってまた帰ってきた。


『ちゃんと着いてる』

「そっか。間違えてなくて良かった」

『なんで今までこれ使わなかったの?』

「疲れるってのもあるけど……一回行った場所で、しかも風景をハッキリと記憶してないと使えないから、使いどころがあんまりなくて……。それに精々飛ばせて自分含めて二人くらいだし」


 凛音もスラ太郎も体積的には小さいのでなんとか一緒に飛べたというだけである。


『今日は休む?』

「そうしようかな……。二人は遊んでていいよ。俺ちょっと寝てくる」


 流石に顔色が悪い。本来数日かかる道のりをあり得ないほどの大幅カットで進んだのだ。疲労も半端なものではない。


 湖とは反対方向に進んでいくと、以前建てた家があった。ここには人も来ないので劣化も殆どないだろう。埃はたまっているだろうが。


 家を開けると埃っぽい臭いが立ち込める。少し咳き込みつつ全ての部屋の窓を開けてとりあえず寝る部屋の掃除を適当に済ませた。


「布団……新しくだすか」


 バサッと普段日本で使っている布団を取り出して直ぐに潜り込む。疲れもピークだったのか、そのまま直ぐに眠ってしまった。


 外では凛音とスラ太郎が水辺で遊んでいた。


 互いに水を掛け合ったりして楽しげな声をあたりに響かせている。


『そうだ』

「きゅ?」

『今日は凛音がごはん作る』

「きゅ⁉」


 スラ太郎が二度見した。直ぐ様なにか文字を書いて凛音に見せる。


【作れるのですか?】

『ん。アレクに教えてもらった』

【材料は?】

『………。今から取りに行く』


 どうやら食材のことを考えていなかったらしい。


 今から取りに行く、ということは相当時間がかかりそうだ。


 天宮城みたいになんの消費もなくポンポン出せたら楽である。だが、今はその天宮城がぐっすりなので流石に起こしてまで食材を取り出させる気が起きない。


『すぐ、行く』


 凛音はやる気満々である。そのやる気が料理の上手い下手に関わっているかはわからないが、できれば食べられるものを用意してほしいところだ。


【拙者もお手伝いいたします】


 スラ太郎も天宮城の手際をよく見ている。何を作るときは何を使えばいいのか。なんとなくはわかるのだ。


『じゃ、行くぞー。おー』

「きゅー」


 気の抜けた掛け声と共に食材集めが開始された。それにしても、本当に大丈夫なのだろうか。

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