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46ー2 大騒動

「なんだ、断ったのか?」

「一応保留ってことにした」

「珍しいな、龍一にしては厳しい判断だ」

「本名で呼ぶな。アインに聞かれたら困る」


 野菜を切りながら大きなため息をついた。


「できることなら日本に帰してやりたいが……方法がなぁ」

「………」


 琥珀は鍋に野菜を放り込みながら呟くようにそう言った天宮城の言葉に小さく唸った。


 それが同意の意味なのか反対の意味なのか。天宮城でもわからなかった。


 夕食の準備も終わったので鍋を食卓に運ぶと、いつの間にか雰囲気は相当悪くなっていた。全体的に沈んでいる、というかほぼお通夜である。


「えっと、どうした?」

『別に』


 凛音も答える気はないらしい。


 どうしたものかと考えていたら、気を利かせたシーナが天宮城にこっそり教えてくれた。


「シオン様のお話で意見が割れてしまいまして……少々対立が」

「え。誰と誰で?」

「アイン様とリンネ様です。アレク様の秘密を隠そうとなさるリンネ様がシオン様をお仲間にいれることを断固反対していまして」


 そんなに凛音はシオンさんを嫌っていただろうか?


 そう思う天宮城だが、直ぐに気付いた。


「戦闘能力がないから危ないってこと?」

「はい。その為に引きはなそうとしているようです」


 天宮城のように防御や接近戦が滅茶苦茶なほどに弱くても、遠距離では敵無しくらいの強さがあればいいのだが、今のところ江原にそんなぶっとんだ能力はない。


 素材を取りに行くためになかなかに危険な場所に行くこともあるし、それでなくとも他の同業者に目をつけられている為に自分に降りかかる火の粉は自分で防げないといけない。


 その力すらない江原は付いてきても危ない状況を作るだけになってしまうのだ。


 それにこちらには防御が紙みたいにペラペラの男が一人いる。


 遠距離では無双できるとはいえ仲間が近くにいると途端に巻き込むのが怖くて戦えなくなるので結果的に誰かが天宮城を守りながら戦わなければならない。


 今のところそれは凛音が引き受けているが、これ以上人数が増えたら守るものも守れなくなる。


 という主張だった。


「アレクはどう思うの」

「俺は……」


 天宮城が口を開きかけると、突然江原が立ち上がった。


「あの、私、その……行くところがないんです!」


(((それは全員知ってると思う……)))


 全員の思考が一致した瞬間だった。


「それで、えと……私、人間なんですぅっ!」


(((言っちゃったー⁉)))


 まぁ、全員なんとなくわかっていた。


「私、違う世界から来て、その、身寄りがなくて……」

「くくく……あっはっはっはっ!」


 突然、琥珀が爆笑した。


「いやー、すまない……ククク……可愛らしくてな」

『一気に気が抜けた』


 だが、これのお陰で全員気持ちが切り替えられたのは間違いない。天宮城も少し笑ってから立ち上がる。


「知ってましたよ?」

「へ?」

「多分全員気づいてます。な?」


 全員無言で首肯く。江原の顔が真っ赤になっていく。


「な、なんでわかったんですか」

【そんなに綺麗に人間に化けることができるのは王族くらいのものです】


 スラ太郎が丁寧に解説する。


「アインちゃんだって似たようなものじゃない」

「私は普段出歩くときはわざと耳と尻尾を出すの」

「シーナさんは?」

「私は道具で化けているので……」


 江原が撃沈する。こんなにバレバレだとは思ってなかった。


 全員気付いたのには訳があるのだが、それに気づける江原ではない。


『でも、皆の前で言ったのは立派』

「シオンさんが秘密を明かしてくれたことが誠意として伝わっていますから」


 そう言い、琥珀に目配せをしてから自分も立ち上がる。


「それに……同類に嘘をつくのも嫌ですし、ね」


 スッと帽子を取って本来の耳を顕にする。片目の色も隠さず紅いままにした。


「え?」

「僕はシオンさんと同じく人間です。トラブルのもとになりそうなので偽装しているんですが」


 江原が固まった。たったままピクリとも動かないし混乱しすぎて呼吸すら怪しい。


「えっと……そんなに驚くこと?」

「まぁ、同類がいるとは普通思わないよね」


 天宮城達は至って普通に会話を続けていた。琥珀なんか既に鍋に手を出していた。


 フリーダムである。








 江原が再起可能になったのはそれから数分後だった。


「え、え?」

「まぁまぁ、今はご飯食べましょう。琥珀に全部持ってかれる」

「え? へ?」


 普通に食事しだした天宮城達に困惑が隠せない。


「じゃ、じゃあ! 日本って国、知ってますか⁉」

「勿論」

【ご主人様は毎日行き来しています】

「毎日⁉」


 正確には行き来しているというよりただ寝ているだけなのだが。


「どどどどういうこと⁉」

「なに、簡単な話ですよ。そういう能力があるんです」

「聞いたことないですけど⁉」

「いえ……能力自体は世間には公表しています。ただ、詳細な能力の内容は誰も知らない」


 知らない、のではなく知らせない、といった方が正しいかもしれないが。


「どんな能力?」

夢使い(ドリーマー)っていいます」

「なんか聞いたことあるような」


 天宮城が有名なのできっと聞いたこともあるだろう。


「夢の中を好きに作り替えることが出来る能力です。他人の夢に入ることもできますし、それを通して記憶を見ることもできます」

「な、なんか突然物騒な」

「元々能力なんて悪用すれば物騒なものでしかないですよ」


 全能力者を否定するような発言だが、天宮城は立場的にそんなことを言っても問題ない人である。


 凄いのは、こんな話をしながらも周りの人達はせっせと鍋を空にしていくところである。


「そんなもんなんですか」

「そんなもんです。さ、ご飯食べましょう。って、おい! 肉は⁉ あんだけあった肉はどこ行った⁉」


 野菜ばかり食べていたスラ太郎とシーナ除く全員がそっと眼を逸らした。


「おい!」

『早い者勝ち』

「そうだけど、少しは残しとけよ!」


 たった鍋一個でこんなにも大騒動になるこの人たちも変だが、この環境を楽しんでいる江原もまた、自分は変人なのだろうと小さく笑った。

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