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41 生の二枚貝

「面白いことになっているらしいぞ」

「どうでもいい……とてつもなくどうでもいい……」


 ぐったりとした天宮城は全身を机に投げ出してやる気なんてありませんと主張するように寝返りをうった。


「ねぇ、アレクどうしたの?」

【お元気が無いようですね】


 アインとスラ太郎が琥珀にそう訊ねる。


「ああ、納品数がとてつもないことになったらしいぞ。とりあえずある程度は作ったらしいが、あの様だ」


 どう見ても満身創痍である。


「なんでそんなに増えたの?」

『なんか、人がくるから、って』

「人?」

『偉い人らしい。アレクの服を気に入ったらしい』


 肌触りがよく破れにくい上安価な天宮城の作る服は相当な人気を誇っている。


 だが、店が動くというその特性上時期を逃してしまえばお目にかかることは出来ないし港のある国にしか行けないのでそれ以外の国からの販売要求が最近は特に酷い。


 商人としては嬉しい悲鳴をあげるところだが天宮城一人が、しかも手作業で作っているものばかりなので悲鳴どころではない。


 その内放っておいたら過労死しそうである。


「後……パーティドレスが……13と……下着が30と……」


 ぶつぶつとうわ言のように呟く天宮城。不憫だ。


『ナール、会いに行けない』


 凛音がポツリと言った。世界樹の神精霊最後の一人、ウンディーネのことである。


 イフリートの方には会ったのでもう一人の方だけなのだが天宮城が付き添えそうにないので会いに行けない。


 どちらにせよ今は他国にいっているとイフリートのニルバートから聞いているので今すぐ行っても無駄なのだが。


「アレク様。商人ギルドからのお手紙です」

「ごめん……今手が上に上がらないから……読んで……」


 ミシンと縫い針の使いすぎで筋肉痛を通り越して最早動かない。


「はい。……イリス様からですね。『用事終わったなら帰ってきて』だそうです」


 確かに天宮城は用事があるからそのついでに他国をみて回ると言いはしたがいつ終わるともどこに行くとも伝えていない。


 なんというタイミングだ。


「ああ……うん……了解……」


 スラ太郎に肩を揉んでもらいながら突っ伏したままそう答える。ギャリギャリと変な音が肩からなっていた。









「えっと、大丈夫?」

「なんとか……」


 とか言いつついまだにうつ伏せから動かない。


 机からソファに場所が移動しただけである。


「進路はどっちだ」

「南……で迂回しつつ……国境を越えるための手続きする……」


 船の舵を回しながら琥珀は小さくため息をついた。


「そんな様子では残りのぶんも仕上がるかどうか……」

「そんなこと言われても……俺は一人しかいない」


 体が最低でも三つ欲しい。


 ぐったりしつつ再び針を動かし始める天宮城。スラ太郎を枕にしているのでひんやりしていて気持ちがいい。


 しかも全自動で肩揉みまでしてくれる。流石はスラ太郎。


 レースを無心で縫い付けていると、船が大きく揺れた。


「っ⁉」

【確認して参ります!】


 床を滑るようにスラ太郎が走っていった。天宮城は驚きつつも手は止めない。もう病気の域に達している。


『アレク』

「凛音。なにがあった?」

『わかんない』


 揺れを感じた凛音が天宮城のいるリビングへ来た。そこにスラ太郎が帰ってくる。


【大変です!】

「どうした」

【琥珀様が食べられました‼】

「……は?」


 どういうこと? 天宮城と凛音の頭上にはクエスチョンマークが踊る。


「きゅっ!」


 とりあえず来て、と天宮城の手首を触手でつかんで引っ張っていくスラ太郎。


 甲板まで連れてこられた天宮城と凛音は目の前の光景に絶句した。貝、それも船よりもデカイ貝だ。それが何故か海面に浮いている。


 琥珀の足が、貝に食べられているとしか見えないから出現していた。


 貝のからに挟まれるようにして上半身が完全に見えなくなっている。


「なんでああなった⁉」

『アレク。追求は後』

「あ、ああ。じゃあこいつで………」


 神解きを巨大なブーメランの形にして大きく振りかぶる。ブーメランはくるくると回転しながら貝をぱっくりと切り裂いて天宮城の手の中に戻ってきた。


 あれだけ大きな貝だ。貝殻も相当分厚い筈なのだろうと思うのだが、これはそれをあっさりと切り裂いてきた。いったいどれ程の切れ味なのだろうか。


 今まで切れなかったものがないことが逆に恐ろしい。


「っと、琥珀‼」


 天宮城と琥珀はある程度五感が繋がっているので無事なのは確かだが何故か全く反応がない。


 不安になったのでスラ太郎に運んでもらって琥珀の様子を確認しにいく。


「おい、琥珀、大丈夫………か……?」

「おお、龍一か」


 天宮城以外はいないと見た琥珀は天宮城の本名でそう聞いてくる。まるで町中で偶然級友と遭遇したような感じで。


「お前……なにやってんの?」

「? 食料調達だ。中々の味だぞ」

「………」


 琥珀が甲板にまでぶっとばされた。ちゃんと武器を鉄扇の閉じた状態のものに変更しているので殺傷力はほぼ金属バットだ。


 ぶっとばされた琥珀に向かって天宮城が叫ぶ。


「心配して損したわボケェエエエエッ!」


 心からの叫びだった。


 貝をを天宮城の針の収納にしまってからはお仕置きタイムである。


 琥珀を甲板に正座させ、


「まずなにか見つけたら船内に伝える! 最低でも俺にリンク繋げ! それと二枚貝生で食うな! 食中毒になるだろうが!」


 琥珀の腹はドラゴンなので別に二枚貝を生で食べようが食中毒にはならない。なっても相当軽いものだろう。


 だがもしそうなった場合天宮城にも被害がいくのだ。ギリギリまでとばっちりは避けたいものである。


 船を一旦止めてしまったり、心配させた罰として二時間正座を言い渡して天宮城は仕事に戻った。


 ちなみにこの時琥珀の顔は見れたものではないと後に凛音は語る。


 二時間後、足をピクピクと痙攣させて呻き声をあげる琥珀が目撃されたとか、なんとか。

 生の二枚貝は本当に危ないです。ちゃんと火を通して食べましょう。


 人間だと食中毒になります。琥珀の胃袋は鉄でできていると思ってもいい程頑丈なので大丈夫です。

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