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40ー8 夢の可能性

 その後も、他愛もない話が続く。実はこれが取引なのだ。


「……そろそろいいだろう。隠してること教えろ」

「りょーかい。んじゃあこの前入った新人さんの名簿あげる」


 先程までの世間話をしていた表情とは一変して真面目な表情をする遠藤。口調はそのままだが雰囲気ががらりと変わった。


「じゃあ後日能力禁止の免除の書類とりにいくね」

「……ああ。何度も言うが使えば使うほど俺の方に情報はくるからな。犯罪に使ったら即行で縛り上げるから覚悟しとけ」

「わー、こわーい」


 町中では基本能力の使用は厳禁だ。そうならないように天宮城たちの組織がある。


 超能力者は犯罪に巻き込まれやすいのでいつどこで能力を使ったのか記録される機器の装着を義務付けられる。


 また、その機器をつけている場合、緊急時以外は能力を使えないようにもなっている。


 だが、能力を仕事で使う人だったりはそれでは困ってしまうので、いつどこで使ったのか記録するだけの機器をつけることができる。


 その記録だけの機器を申請するには天宮城たちの許可がいるのでそれをいつも天宮城が用意しているのだ。


 これも取引のひとつ。


 遠藤との取引は天宮城の『世間話』『能力禁止を免除する機器』と遠藤の『支援金』『他企業の情報』を交換するものである。


 取引材料が釣り合っていないようにも見えるが、天宮城のことを引き込みたいと考えている遠藤からすれば対等なのだそうだ。


 遠藤は天宮城を見て、


「君さ、新しい能力でも開花した? ね? したよね?」

「なんでそんなこと」

「いつもより警戒してないかなって思って。なにかしらあるんじゃない?」


 天宮城は大きくため息をついてから声を出す。


「……“壊れろ”」


 ただひと言、目の前の皿に向かって発した。その瞬間に皿に亀裂が入り木っ端微塵になる。


「えっえぇえええ⁉」

「……“直れ”」


 またそうひと言口にすると、逆再生するように皿が元通りになった。


 いままで天宮城の能力など自分の怪我を一瞬で治すか夢という現実は関係ないところに干渉するものしかなかった。


 なのに、これはおかしい。なぜ言葉ひとつで触れてもいない皿が割れ、そして元通りになるのだろうか。


「ねぇ、どうやったの⁉」

「……言霊」

「コトダマ?」

「言霊ってやつを扱えるようになった。けどこれ能力じゃないと思う」

「じゃあなんなの?」

「……わからん」


 地味に使いこなしているくせに詳細を話さない人のように映るかもしれないが、これは本当にわからないのだ。


 あの商売の神(イフリート)の落とし穴に嵌められたときに偶々手に入れた能力なので詳細は本当に不明だ。


 正確にはスキルなのだがスキルの仕組みを知らない以上、とりあえず使えるとしか言えないのである。


 普通ならここで問いただされるかふざけるなと怒られそうだが、この空間にいる時は誰であっても嘘をつくことは許されない。


 その事もあって今話せることはこれで全てなのである。


「そう、わからないのなら仕方がないね。けど、進展があったら教えてね」

「ああ。……そういう契約だからな」


 いっそ遠藤を徹底的に遠ざけて無視したいところだが協会の支援や能力者の保護など無視できない功績が多すぎる。


 ここで無視を決め込んでも天宮城の他の10人のところに行くだろう。そしてちょっと頭の悪い彼らを裏から操るなどこの男には容易いことだ。


 手綱を握ることもできないが握らせもしないような微妙な関係を長い間維持するのは藤井達には不可能だろう。よくも悪くも素直すぎる。


「……こんなもんでいいだろ。そろそろ帰らないと業務が滞る」

「うーん、もう少しいて欲しいところだけど……まぁ次でいいか。それじゃ帰ろうか」


 周りの男女に目配せをすると全員が帰り支度を始める。とは言っても空間転移でまた元のホテルに戻ってくるだけなのだが。


「ああ、それと最後にひとつ。言霊、だっけ? それは夢使い(ドリーマー)で?」

「……ああ」

「そっか。ありがとう」









 漸く解放された、とホテルを出てからため息をつく天宮城。


 寝不足ではあるが昔はもっとぐっすり寝られなかった日々が続いていた位なので平気である。


 それよりも最後に遠藤に言われた言葉が頭のなかにこびりついて離れなかった。


「『夢の可能性は夢で収まらないものなのかもね』とか無責任に悩みごと増やすなよなぁ……」


 そもそも異質な能力なのだ。あれが他の世界に本当に繋がっているにしろ夢の中だけと完結しているだけにしろ現実(こっちの)世界に干渉できることがおかしい。


 こちらの世界でも鑑定や言霊は使えるし、寝た気にはならないのに眠気はこない。


 普通に考えて少しおかしな能力なのだ。天宮城が起きているときは時間の流れすら変わるのだからその点でもあちらがひとつの世界として成立しているのか疑問に思うところである。


 まさか世界が天宮城中心に回っているわけではあるまい。


 全く共通しない能力に他人の能力を真似ることすらできる能力なんて誰だって興味を持つだろう。


 その筆頭が遠藤なだけで今までなんども危険な目に合っている天宮城にはそういった人たちが少ないわけではないことをよく知っている。


「俺がしっかりしないと……」


 言霊を使ったことで少し痛む喉を二、三回さすってから協会の方へと歩きだした。









 すこし困ったことになったのは天宮城だけではない。


 誰だって悩みを抱えるものだ。


「最近忙しくて全然協会の方行けてないなぁ……」


 小林もその一人だ。


 アイドルをやっている彼女は初めからあまり自由な時間というものがなかったのだがそれはそれで充実していて、仕事を楽しんでいられた。


 だが、やりたいことができてしまってからはやはり時間が少ないと嘆く日々である。


 やりたいことというのは、能力の完全制御だ。


 天宮城に言われたように、小林の能力は強すぎて普段は絶対に能力の使用は禁止されている。有事の際には使うことも許されてはいるもののコントロールができないので使い物にならないのだ。


 だが、その特訓ができるのは協会内だけと決められているので勝手に練習することもできない。


 それに、練習という名目で天宮城にも会いに行けるのだ。やる気もそれなりに湧く。


 だが残念ながら仕事が次から次へと襲いかかってくるのだ。


「あー、休み欲しいなぁ……」


 天宮城に自称婚約者が出現したと水野からメールで聞くのはこの数時間後の話である。

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