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40ー5 夢の可能性

「お願いがあるんだけど……」

「なに?」

「今度の定期検査の時でいいんだけどリンクのやり方もう一回教えてもらえないかな?」


 そういえば簡単な話しかしてなかったかなと思い出して直ぐにそれを了承する。すると店からエミリアが出てきた。


「リュウイチ? その人誰?」

「あ、レベル7の能力者の水野さん。色々と世話になってるんだ」

「私がお世話になってるようなものだけどね……」


 困ったような表情でそう言う。実際天宮城には助けられてばかりだ。


「そう。……私、エミリアっていいます。よろしくお願いします、ね?」


 一体今の言葉の間はなんだったのだろうか。


 なんだか威圧されているような気がして水野が苦笑する。


 天宮城は気付いていないのか気付いているのか。そんな空気を無視しながら二人に話し掛ける。


「お昼どうする?」


 腕時計を見ながらそう言う。丁度昼前だ。そろそろ食べるなら店を決めないと一時間かそれ以上か待つことになってしまうだろう。


「そうだね。お腹すいてきたし……でもお邪魔しちゃ悪いかな」

「俺はいいけど……エミリアはどう?」

「う……いいよ」


 天宮城に俺はいいよ等と言われたらこちらもそういわざるを得ない。


 人付き合いが上手い天宮城だからこその相手を不快にさせない有無を言わせないやり取りである。


 三人でどこにするか話し合い、和食を専門に扱う料理店に入る。


「何名様でしょうか?」

「三人です」

「ではお座敷へどうぞ」


 時間も少し早めだったので直ぐに入ることが出来た。だが、座る場所が問題である。


 誰しも気の知れた相手が近い方がうれしいものだ。そして二人は互いの事を知らず天宮城としか付き合いがない。


 一瞬どちらが天宮城の隣に座るかで討論が始まりそうだったのだが。


「あ、俺こっち座るからそっち二人で座って」


 まさかの天宮城からの提案である。


「「あ、はい………」」


 正座した二人を置いて水を取りに行った天宮城。二人が仲良くなれたらいいなと置いていったのだがまるで雰囲気はお通夜である。


「「………」」


 何を話したらいいのかわからず、ただただ無言で机の上のメニューを眺める二人。


 だが、メニューなどあってないようなもので日替りランチしかこの時間はない。もう最初から決まっているようなものである。


 実際のところメニューなど見る必要はないのだ。だが、話しかけて間を持たせる自信がないのでどちらも話し掛ける勇気がないのである。


「あれ? なんで二人ともメニュー見てるの?」


 そこにコップをもった天宮城が来る。勿論この状況を見て喋り出せなかったのだなとは察したがあえてそう言ってみた。


 どちらも何と言い出したらいいかわからず戸惑っている。


 天宮城は内心で苦笑しつつ座布団の上に座った。


(これは苦労しそうだな……)


 小林のように誰にでもある程度明るく接するのが得意なら楽だったのだが。


 結局二人とも無言で料理をつついて終わった。








 天宮城は隠そうともせずに小さくため息をついた。琥珀が肩から天宮城の手にあるものをじっと見つめる。


「面倒くさい……」


 帰ってきてからずっとこの調子だ。いや、帰ってきてからというより出掛けている間に届いた小包を開けてからこの調子だ、と言った方が正しいだろう。


 エミリアはいつになく不機嫌な天宮城の様子に眉を潜めた。


 天宮城は感情を隠すのが非常に上手い。取り繕うのが常だからか本当にそう思っていてもどこか空虚な表情になってしまうのだ。


 痛い、苦しい、辛い。そういった感情などは特に見ることは滅多にない。無意識に他人には見せないようにするのだ。


 それを、エミリアがいるにも関わらず相当苦々しい表情を隠そうともしないなど一体どれだけ相手は嫌われているのだろうか。手紙の送り主の名前を見た瞬間からこの顔だった。


 今にもその手紙を破り捨てて燃やしてしまいそうな程に怒っているのは見ていてわかる。


 便箋は4枚。それも文字はびっしりと書き込まれている。まだ天宮城は1枚目しか目を通していない。


 机の上に置いてある右手の人差指がピクピクと痙攣したように動き始めた。


 藤井は確か本気で怒っているときは指が動くと言っていたので本気で怒っているのは間違いがない。エミリアが居るのである程度抑えているだけなのかもしれない。


「えっと、リュウイチ?」

「……どうした?」

「何かあったの?」

「ちょっと、ね……」


 そのちょっと(・・・・)がなんなのか教えてくれないんだ。と信頼しきってくれないことに少し落ち込むエミリア。


 だが、天宮城のこの反応は当然のものなのだ。藤井たちにも言わないことなのだから。


 天宮城は忌々しげに残りの紙も拾い上げて読む。強く握りすぎた手紙の端はくしゃくしゃになっていた。エミリアがこっそりと目を通したが漢字だらけでなんと書いてあるのか読むことはできなかった。


「……エミリア」

「?」

「俺、急用が出来たから暫くここに帰ってこないと思う」

「急用……? なんの?」

「個人的な……そう、個人的な用事だよ。危ないものじゃないし……それほど時間のかかるものでもないけど、どれくらいかかるかはわからない」


 珍しく言葉を探しながらそう言っていた。


 頭の中で返答を考えてからサラサラと話す天宮城らしからぬ反応だ。要は普通ではない(・・・・・・)というのは間違いないだろう。


「仕事は?」

「休む。ラッキーなことに今は大きな仕事はないし」


 異常だ。そしてとてつもなく危険だ。


 真面目に真面目を塗り重ねたような性格の天宮城が休むなどという選択肢を持ち出してくるとは。


「……なんの用事かくらいは教えてよ」

「エミリアは………知らない方がいい」


 その言葉で天宮城とは巨大な壁があることに気づいてしまった。感情を見せないのは壁の中に入り込まれないようにするため。泣き言を言わないのはそれでボロが出て壁の薄いところを見られないようにするため。


 そして誰にも頼らないのは、誰も信じられないから。


 まるで要塞だ。外から入ることも叶わなければ内から出ることも許されない。


 自分はどれほど陥落させにくい相手に惚れしまったのだろうかと考えないことなど、もう不可能である。

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