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40ー4 夢の可能性

「ん……ぅう」


 朝日がカーテンの隙間から入り込んでいる。いつもより長い時間寝ていたからか目覚めは悪くない。


 無意識に喉に手をやる。焼けつくような痛みはこちらの世界では引いているようだ。


 たまに向こうの世界で大怪我をするとこっちに来たときも地味に痛みが続いたりする事があるので心配だったのだ。


「あ、おはよう」

「おはよ……」


 欠伸をしながら軽くストレッチをする天宮城にエミリアは優しげな目を向け、カーテンを開ける。


 部屋のなかに白く光の筋が差しこみ、広がっていくように充満する。


「今日は休みでしょ?」

「そうだったっけ……最近休み無さすぎていつが休みなのか」


 勤務時間はそれほど長いわけではないがその分何かあれば駆り出されるので休みなどあってないようなものになってしまっている。


 普通に会社としてはブラックだろう。ブラック企業並みに働いているのは天宮城達10人とその保護者の近藤くらいなので問題はないのかもしれない。


 エミリアはコキコキと首を回す天宮城の腕に抱きついて、


「お買い物、行きたいの」

「買い物? どこに?」

「駅前のショッピングモール」


 そういや最近そんなものも出来たなと思い出す。


 ついでに言えばここずっと床に布団敷いて寝ているので腰が痛くなってきた。寝具が欲しい。


「いいよ。じゃあ朝御飯食べてから行こうか」


 顔を洗ったりしていると琥珀がふよふよと前を通り過ぎる。


「どうした?」


 何らかのジェスチャーをし始める琥珀。それを読み解こうとじっと琥珀の動きを観察しようとした。その時に突然洗面所の扉が開く。


「タオル新しいのに替えるの忘れてた」

「あ、ああ。ありがとう……」


 琥珀に改めてちらと目を向けるが、琥珀は羽を三回パタパタと大きく動かす。


 その動きはまた後で話すから今はいい、という意味である。


 それほど急ぎのようではないようだ。


 そして天宮城も琥珀自身も何を話すつもりだったのか完全に忘れてしまったことに気づくはずもなく。








 久し振りの休みともなると寧ろ何をしたらいいのかわからなくなる天宮城である。とりあえず見たいものがあるというエミリアの後ろについていった。


 だがこの二人、とんでもなく目立つ。


 エミリアは日本人離れした顔立ちであるし、天宮城に至っては元々学校で絶大な人気を誇っていた見た目。どう考えたって浮くのは当然である。


 幸いなのはエミリアは兎も角天宮城がその視線に慣れていたために殆ど気にしなかったことだろう。


 出来たばかりのショッピングモールは一階から四階まであらゆるテナントショップがひしめき合っており端から端まで歩くのに数十分かかるほどの広さだった。


「こんなに歩いたの久しぶりかもしれない……」


 なんでこんなに遠いんだと内心でぶつくさと文句をいいつつベンチに腰を下ろす。


 エミリアはそのベンチの前にある雑貨屋に入っていった。正直、どこにそんな体力があるのか気になる。


 買い物になると女の体力は底無しになるらしい。


 琥珀も空いている場所にビターンと横になって丸い腹を見せびらかすようにしながら涼んでいた。


「あれ、龍一君?」

「あ、水野さん」


 そういえば水野の会社はここに近い場所だった、と思い出しながら琥珀に椅子から退くように目で示す。


 渋々這って移動する琥珀に二人で苦笑し、水野も天宮城の隣に腰を下ろす。


 リスと竜が軽く挨拶を交わしているようだ。互いに手をあげてペチペチと尻尾をぶつけ合っている。


 どうやら彼らには彼らなりの挨拶があるらしいことが判明した。


「力には慣れた?」

「なんとかって感じ。龍一君は仕事とか、どう?」

「仕事はとりあえず順調かな。母さんが突然再婚したけど……」

「あー。なんか新聞に載ってたね?」


 事情を藤井から色々と聞いてはいるが中々大変そうなことになっているようである。


 水野にそう言われて天宮城も小さくため息をつく。


「まぁ、再婚する分にはいいんだけどね……」


 若干遠い目をしながらそういう天宮城。苦労してきたようである。何があったのかはちょっと聞けなかった。


「今日は買い物?」

「そんなところ。母さんの再婚相手の妹さんと来てるんだ」

「再婚相手って外国人じゃなかったっけ?」

「そ。エミリアっていうんだけど日本語ペラペラ。他にも何か国語か話せるらしいよ」

「凄い」


 英語ですら苦戦していた天宮城と水野は本当に尊敬するに値する能力だ、と首を縦に振っていた。


 リスと竜がくるくると回って遊び始める。天宮城には琥珀しか見えないが、不自然な間隔があるのでそこにいるのかなと何となくわかるのだ。


「あれ? 肩から降りれるようになったんだ?」

「そう。ちょっと訓練して。寝てる間はいつも降りてたからいつでも降りれるものなんじゃないかなって思って」


 いったいどんな訓練なのだろうか。


 そもそも訓練ってなんだ。


「リンクは?」

「それのやり方がわからなくて」

「まぁ、慣れだしね」


 リンク、とは天宮城がたまに琥珀の目線を共有するあれである。


 最初は苦労していたがある程度まで出来るようになると軽く目に力を込めたりするだけで繋げられるようになってきたのだ。


 似たような能力を持つ水野も出来ないわけではないだろう。


「最近忙しそうね」

「忙しいけど、俺しか出来ない仕事って沢山あるからさ」


 目一杯動ける今が踏ん張りどころだよ、と笑みを浮かべて見せる天宮城。


 だが、数秒後には少し暗い笑みを浮かべて、


「……その内多すぎる労働時間を減らせって抗議するかその分の残業代あげろって要求するつもりだけどね」


 この時の天宮城に向かって、頑張ってね……くらいしか言えなくなった水野である。


 リスも若干天宮城から距離をとっていた。別にとって食われるわけではないのだが、そうしなければ命が危ないとでも思ったのだろうか。

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