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39ー1 力の意味

「えっ、あっ、どうしよ……」


 アクアは天宮城が困惑していることに気付いているのかいないのか、暢気に周辺を飛び回る。


「おはよー……」

「わっ、あっ!」


 突然真後ろから声をかけられて咄嗟に帽子の下にアクアを隠す。みれば、風間が目を擦りながら起き出してきていた。


「ゆ、結城か……脅かすなよ」

「んー、ごめんごめん……なにやってるの」

「朝飯の準備」

「なんで帽子持ってんの?」

「いや、別に」


 直ぐに取り繕い、帽子をアクアに被せたままその場を離れる。


 が、気になって仕方がない。


 ボウルの中の卵をかき混ぜながらチラチラと様子を見に来る。


「なんでこっちくるのさ?」

「時間確認したくて」

「いつもなら台所から今何時ーって言うじゃん」

「朝早いから」

「そう」


 勘が良い風間の相手をしているとき、たまに凄くヒヤヒヤする。


 急いで全員分の朝食を作り終えて二人分の皿をリビングに持っていった。


 箸はちゃんと二人分出ていた。


「コーヒーは?」

「上に持ってってそのままになってるんだよ」

「えー」


 しかも色んな所を転々としているのでコーヒーメイカーが旅をしているという事態になっている。


 あれ、天宮城の私物なのだが。


「りゅうって今日外で仕事?」

「そんなところ。みいなも一緒に行くことになってるんだ」

「ああ、この前言ってたやつねー」


 ふむふむと頷きながら箸を口に運ぶ風間の目が帽子に向かないように必死に会話が続くように努める天宮城。


 そして時計を見て箸のペースをあげた。


「なんでそんなに急いでんの?」

「みいなだったら遅れるかもしれないからな。俺も先に準備しとかないと」


 基本的に彼女は時間にルーズなので先に天宮城が全ての準備を終えておいて、川瀬の手伝いをする必要があるのだ。


「ごちそうさま、っと。資料の確認とかするから洗いもの任せる」

「任されたー」


 アクアが見えないように机の上の帽子を滑らせてそのまま即座に頭にのせる。相当自然な動きだったので気付かれてはいないだろう。


 部屋に戻って帽子の中を見てみるとアクアがいた。なんとなく、怒っているように感じる。


 ただの光のたまのようにしか見えないのでなんとも言えないところではあるが。


「ごめんって」


 しつこく天宮城の掌の周りをくるくると回るアクア。どうやら抗議しているらしい。


 部屋に戻ってパソコンを起動させる。


 カタカタというタイピング音が小さくなり響いていた。


 この前まで使っていたやつはまた壊れたので消音対策としてほぼ音がでないタイプの物を買ったのだ。


 かなり優しく叩こうと努力もしているのだが、二ヶ月に一度のペースで壊れる。


 天宮城が雑いのではない。仕事が多いのだ。


 正確に言うと、パソコンでの仕事がやけに多いのだ。


 これで事務仕事専門ではないのだから、驚きである。ここ最近は書類仕事ばかりになっているが。


「よし、プリントアウトもしたし……そろそろか」


 腕時計で時間を確認してリビングに行きソファに座る。すると数秒後、


「寝過ごしちゃったーぁああ!」

「うん。だと思った」


 物凄い勢いで飛び込んできた川瀬にため息をつきながら書類を分類別に分ける。


 どったんばったんと周りがかなり騒がしい。


「ごめんっ、もう行けるよ!」

「朝飯くらい食べろ」

「でも時間」

「こうなることわかってたから三十分前の時間教えてる」

「………え」


 いつも何かしらバタバタしてかなり面倒なことになってしまうのだ。


 それをよくわかっている天宮城はかなり余裕をもって出られるように三十分時間をずらして川瀬に教えていたのだ。流石である。


「酷くない? 私相当頑張って準備したよ?」

「本当の時間話すともっと遅くなるだろ」


 自業自得が引き起こしたことなのでなんとも言えない。


 ぶつくさ文句を言う川瀬を適度に放置しながら目的地に向かう。


「今日ってなんだっけ?」

「自分の予定くらい自分で把握しろよ……今日は警察の方でちょっと、な」


 少し苦い顔をしながら駅の改札を通る。


 なるべく町中では乱用してはいけないのだ。これは転移系の能力が人によってはかなり不安定で、下手な人だと空から人が降ってきたと大騒ぎになりかねないので、その危険を減らすためである。


 約1名、乱用しまくっているが。


 朝の満員電車に平然と乗り込む天宮城に必死についていこうとする川瀬。やはり慣れない人には少し抵抗があるようである。


 何駅か過ぎ、降りる駅でピンボールのように弾き出される川瀬。天宮城はこうなることを予想していたので少し入り口から離れていたので被害はない。


「ちょっと、こうなるなら教えてよ」

「ん? ああ、みいなは満員電車慣れてないんだっけ」

「ないよ」

「俺は毎日これだったからな……」


 最初は、本当に潰されるかと思った。そう言いながら少し遠い目をする。


「まぁいいや。行くよ」

「うん」


 警察署に入っていく二人。18歳の天宮城と20歳の川瀬の周りからしたら相当若い二人組はそれはそれは目立っていた。


 天宮城はそうでもないが、川瀬は結構童顔なので未成年にしか見えないのもその一つの要因だったのだろう。


「あの、能力者協会の者ですが」

「お話は伺っております。右のエレベーターで5階に上がっていただき、窓際直ぐのお部屋でお待ちください、とのことです」

「はい。ありがとうございます」


 エレベーターに入って5階に上がる。


「ねぇ、龍一」

「なに」

「お腹すいた」

「さっき朝飯食べてたじゃん」

「空くものは空く」

「後で勝手に行け」


 寄ってくれないの? と頬を膨らます川瀬だが。天宮城からしたら確実に奢らされるような感じがしてならないのでそれを回避しているだけである。


 貧乏性の天宮城。財布の紐は綱引きの綱並みに堅い。


 エレベーターが軽やかな音を立てて止まると、流石に川瀬も黙った。ムッとした表情のままではあったが。


 窓際直ぐの部屋、というので間違えないかと不安だったが寧ろ目の前の通路にはその部屋しかなかったので間違えようがなかった。


 その事に少し安堵の息を吐きながら数回ノックしてから扉を開ける。


「やっぱりまだ来てないか……今のうちに資料出すからみいなも手伝ってよ」

「えー」

「ほら」

「わかったよ」


 食べ物屋に寄らないといわれて不貞腐れていたが、仕方ない、とでも言いたそうに肩を竦めて紙を受けとる。


 その紙には細かい数字や文字が散らばっており、少なくとも川瀬は読む気にはなれなかった。


「こんなの誰も読みたくないよ」

「俺だってこんなガチガチの文あまり好きじゃないよ」


 自分で作った資料ではあるが、やはり不満はあるようである。文体に。

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