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5ー1 新種の能力

「終わったぁ……」

「お疲れ。じゃあ次の……」

「休ませろよ!」

「冗談だよ」


 クスクスと笑う天宮城。


「なんでお前みたいなSがモテるんだよ」

「Sなのか?」

「どちらかと言うとSだろ」

「ふーん」


 本人自覚ないので。というより、天宮城は柏木を弄るのが好きなだけであって他の人は合間合間に遊ぶ、といった感じなのでどちらでもない気がする。


「っていうかモテるってのは否定しないんだな」

「一応告白はされるし……。晋也が可哀想な位静かだから……」

「おい」


 反応を面白がる天宮城。その手はキーボードの上で動き続けている。


「よくそんな速さで打てるよな」

「練習したから」

「ネトゲでもやってるのか?」

「あんまり? タイピングはできて損はないし、色々と役立ちそうだったから覚えただけ」


 友人達の仕事を受け持っていたなんて言えない。


「流石は学年トップの秀才モテモテ野郎だな」

「見事な棒読みありがとう」


 軽口を叩きあいながら、ゆっくりと時間は過ぎていく。


「龍一。なんで誰とも付き合わないんだ?」

「前にも言わなかった? 面倒そうだし、俺は働くから色々と相手に不便を与えるだけだからって」

「それだけじゃないだろ?」

「なんでそう思うの?」

「なんとなく」

「適当かよ」


 天宮城は資料に目を通しながら、言葉を選び、ゆっくりと話していく。


「傷付きたくないんじゃないかなぁ、俺自身が」

「どういうこと?」

「ほら、多かれ少なかれ男女間で色々あると互いに傷付くでしょ? 単にそれが嫌なんだよね」

「他人事みたいだな」

「まだ付き合ったこともないから所詮他人事だよ。自分に回ってくるのを警戒してるだけ」


 そう言った天宮城の目はほんの少し悲しげに伏せられていた。








 土曜日、天宮城は自分の部屋で寝ていた所を朝早く叩き起こされた。


「りゅう!」

「………まだ5時なんですけど」

「デートなんでしょ?」

「8時にここ出れば十分間に合うよ」

「そうなの? りゅうが寝坊してると思って起こしちゃった」

「はぁ……」


 ため息をつきながら周囲を見る。


「あれ? 増えてる?」

「お! 気づいた? 昨日ゲームセンターでとったんだ」

「縫いぐるみで俺の寝る面積減るんだけど……」


 縫いぐるみの個数をちゃんと覚えているようだ。


「りゅう、ご飯つくってよ」

「自分でつくってよ」

「えー」

「なんで俺に頼るんだよ。これでも一番下だぞ」

「私がつくったら焦げた何かにしかならないもん」

「レシピくらい調べろよ……」


 ふぁ、と欠伸をしながらベッドからおり、コキコキと肩や腕を回す。


「その癖ちっちゃい頃からだよねー」

「凝るからな。誰かさん達のせいで」

「さーて! ご飯は何かなー」


 自由奔放な風間を呆れた目で見て、顔を洗いに行く。


「おい、琥珀。前が見えん」


 進行方向になぜか琥珀が出てきて前に進むに進めない。


「なんだ、急に」


 ジーっと天宮城を見る琥珀。顔を隅々まで見ると、サムズアップ的な仕草をする。


「?」


 天宮城はなんのことかさっぱりだった。琥珀は実は、天宮城の顔が酷いことになっていないかチェックしたのだ。


 その証拠に、寝癖を押さえつけようとしている。残念ながらすり抜けてるのだが。


「りゅう。ご飯」

「だから、自分でつくる努力をしろよ!」

「いいじゃん。私りゅうに養ってもらう」

「何言ってるんだお前は」


 盛大にため息をつきつつ料理に取りかかる。


 慣れた手付きで卵を両手に持って小さめのボウルに両手の卵を割って混ぜる。


 一通り混ぜ終わったら冷蔵庫からパンやソーセージを持ってくる。


 フライパンに油を引いて、ソーセージを炒め、卵を絡めるように焼いていく。


 卵が固まったらパンにはさんでフライパンの上に置き、余熱で焼き上げる。


「はい、これでいいか」

「おおー」


 超シンプルな朝食が出来上がった。天宮城は冷蔵庫からサラダを取り出してそれもテーブルに置く。


「いただきます」

「いただきます」


 天宮城は先にサラダを食べ始める。女子か。風間はパンにかぶり付く。


「んぉ! ふぅおんむふ」

「口にいれながら喋ろうとするな」


 すかさず天宮城が叱る。どちらが年上かもう判らない。








「それじゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃーい」


 少々不安を覚えながらも天宮城は部屋の施錠等を風間に任せて部屋を出た。夢で出会った小林と現実では初対面である。


「ふふ、何かないかなー」


 当然のごとく風間は天宮城の私物を漁るのだった。


「絶対に私物見られてるよな……。まぁ、特に見られても問題あるものはないけど」


 風間の行動パターンなど天宮城にはお見通しである。


「えっと、確か駅前だったよな……」


 人が多すぎてどこに誰がいるのかさっぱりである。せめてもう少し人が居ないところにすれば良かったと少し後悔する天宮城。


「天宮城君!」

「え?」


 真後ろにいた。


「あ、よく考えたら初めましてですね」

「それもそうだね。じゃあ、初めまして。小林ひなたです」

「初めまして。天宮城龍一です」


 現実で初めて対面した小林は、内心動揺していた。


(ヤバイ……! イケメンなんだけど……!)


 ……訂正。興奮していた。天宮城はというと、


(なんでこの人こんな寒そうな格好してるんだろうか……?)


 最新の女の子のファッションは判らなかったようだ。


「じゃ、じゃあ、行こうか」

「そうですね。僕、あまり洒落たお店は判らないので……。今日は、よろしくお願いします」


 会釈程度のお辞儀をする。相変わらず堅い。


「ここが今有名なクレープ屋さんなの」

「クレープですか」

「あ。甘いの苦手だった?」

「いえ、寧ろ好きです」

「良かった」


 時間帯が良かったのか、店内は空いていた。折角なので座って食べる事にした。


「じゃあベリークレープを」

「キャラメルクレープを」

「畏まりました」


 小林はベリークレープを、天宮城はキャラメルクレープを頼んだ。


「キャラメル好きなんだ」

「はい。香りが好きでして」

「へぇ」

「イチゴとかお好きなんですか?」

「そうなの。酸味がありすぎず無さすぎずで丁度良くって」


 そんなことを話しながらクレープが届くのを待つ。


「そういえば、どうして会長さんは天宮城君の携帯触ってたの?」

「触ってた?」

「うん。私が起きたときにはもう触ってたと思うけど……?」


 そう言った瞬間、天宮城の表情が変わる。


「ははは。いい度胸じゃねぇか……あのゴキブリ野郎」


 ゴキブリ。藤井のお使い様である。口調が突然一変し、背後からどす黒いオーラを漂わせながら低く笑う天宮城。


 正直、恐くて仕方がない。


「え、えっと? 天宮城君?」

「すみません。少し……取り乱してしまいまして」


 いつものふんわりとした笑顔に戻る。小林は、天宮城を絶対に怒らせないようにしないと、と気を引き締めた。


「お待たせしました。ベリーとキャラメルです」

「ありがとうございます」


 律儀にお礼を言って受け取る天宮城。


「そういえば、天宮城君ってさっきのが素なの?」

「さっきの、とは?」

「ゴキブリ野郎とかなんとか」

「あー……素、でしょうかね? こっちもある意味素ですが」

「キレるとああなるってこと?」

「そう考えてもらっていいと思います」


 小さくいただきます、と言ってからクレープを口にする天宮城。


「彼女とかっているの?」

「いませんよ? つくる気もないですし……」

「えー? なんで?」

「小林さんには知っているのでお教えしますが……。僕、協会に入ってるわけじゃないんです」

「どういうこと?」


 周囲をチラ、と見て人がいないことを確認して小声で話す。


「僕、周囲には基本、非能力者として振る舞ってるんです。小林さんもそうだったように」

「うん。でも、あれ? じゃあなんで会長さんと一緒に居たの?」

「………秘密ですよ?」


 口元に人差し指をたてる。小林はコクコクと頷く。


「僕、最初の十人の一人なんです」

「………へ?」

「だから余計に隠さないといけなくて。周囲には知らせてないですし、学校のほうも校長と担任くらいしかこの事は知りません」

「ええええええ!?」

「お、お静かに」


 驚きのあまり叫んでしまった小林を必死で宥める天宮城。


「な、内緒ですよ? 誰にも」

「い、良いけど……本当なの?」

「はい」


 その後も困惑しつつも何とか落ち着かせて店を出た。


「まさか君だったなんてね……。確かに相当使えるよね、その力」

「そのお陰でよく狙われるんですけどね……」

「狙われる?」

「最初は12歳頃でしたか、夜に部屋の電気が消えたので付けに行ったら口元に薬品染み込ませたハンカチ当てられてそのまま連れてかれました」

「えええええ………」

「梨華姉がギリギリのタイミングで予知したので助かったんですけど」


 あのまま連れてかれてたらどうなってたか……と身震いして言う天宮城。12歳から波乱万丈すぎる。


「だから、自分の身くらい守れる様にと護身術とか一応やってます」

「それくらいやらないと本気でヤバイのね」

「はい。油断したらそのままお陀仏ですから」


 明るく縁起でもないことを言う天宮城。もうこの状況は慣れっこなのだろう。


「あ、観覧車」

「こんなところにあったんですね。全然知らなかったな……」

「乗らない?」

「え? いいですけど……」

「乗ろう!」


 余程観覧車が好きなのだろうか、と首をかしげる天宮城。琥珀がやれやれと肩を竦めていたのだが、天宮城には見えていなかった。


「わぁー! 高い!」

「結構遠くまで見えますね」


 二人はそれなりに観覧車を楽しんでいた。


「今日は楽しかったね」

「そうですね。なにかとお互いのことを知れましたし」

「ふふ。そうだね」


 クスクスと笑いあう。恋人同士でもないのに。


「また、遊びましょ?」

「そうですね。喜んで」


 ふいにフッと笑顔を見せる天宮城。小林は少し顔が赤くなるのを自覚しながら静かに外を見る。


「天宮城君。私ってもう能力者じゃないんだよね?」

「それは…………はい」

「やっぱりかぁ。結構使いやすかったのにな……」


 ボソッと独り言のように言う小林。


「え? あれ?」

「どうしたの?」

「波長が見えますよ! 能力が新しく覚醒してます!」

「え? 本当なの!?」

「はい! それも、おそらく最高レベルの7の能力だと思います! 効果見ないとわかりませんけど」

「本当!? やったー‼」


 観覧車内で跳び跳ねる。非常に危険だ。


「協会に行って確認しないと判りませんが、レベル7の洗脳系能力だと思います。波長がそんな感じなので」

「せ、洗脳!?」

「そんなに怖いものじゃないですよ。洗脳と言ったって食べ物の好き嫌いを反転させるとかそんな感じでしょうし」

「な、なんだぁ……」


 好き嫌い反転させてなんの意味があるのだろうか、というのは聞いてはいけない。


 観覧車からおりて、そのまま能力者協会に直行する。


「……勝手に入って良いの?」

「どうでしょう?」

「え」

「冗談です。僕がここの建設に携わっているので問題ないですし、僕の家でもありますので」

「家!?」


 家というか、プライベート一切無しのシェアハウスに近いところなのだが。


「それでは、一旦僕の部屋に行きましょう」

「!?」

「立会人が必要ですから、誰か僕の部屋に多分居座ってるので……あれ? 小林さん?」


 顔が真っ赤である。天宮城は照明の問題で赤く見えるだけだと思っているが。


「どうされました?」

「な、なんでも……」


 天宮城がドアの近くの箱に指を突っ込むと、ピピッと電子音がして扉が開く。


「指紋認証?」

「ええ。指紋認証と動脈認証ですね」

「金持ちだ」

「違いますよ。ここから先は職員でも入れないので」

「え? どういうこと?」

「僕らの……最初の10人と呼ばれる人達のプライベートスペースです」


 凄いところに入ってきてしまったと小林は改めて確認する。


「おかえり龍一……誰?」

「小林さん。ほら、この前言ってた」

「ああ、龍一が秋兄と病院行ったときの」

「そうそう」


 葉山が小林をじっと見る。心なしか目付きが鋭い。


「初めまして。葉山美鈴です」

「あ、天候操作の」

「ご存じでしたか」


 葉山は天宮城に向き直り、


「何で連れてきたの?」

「小林さん、能力覚醒したみたいなんだ。今って能力測定空いてる?」

「多分空いてるけど」

「じゃあいいか。美鈴、記録お願い」

「えー。どうしよっかな……」

「朝御飯リクエスト聞くから」

「ならばよし!」


 葉山も追加してある部屋に向かう。様々な機器が設置してあり、何かの研究室に見えないこともない。


「そこに座ってください」


 小林が椅子に座ると、葉山と天宮城がテレビの撮影で使うようなカメラ位の大きさの機器を構えて反対側から小林を見据える。


「やっぱりレベルは7ですね」

「龍一、最近レベルを見分けるの巧くなったね」

「慣れたの」

「そうだね。確かに」


 カチャカチャとボタンを押す音が天宮城から聞こえる。


「これさ、ここに集中してるから、まさかとは思うけど」

「でも、あり得えない訳じゃないでしょ? 前例がないだけで」

「そうだけど」


 二人の会話は小林にはさっぱりである。その後もブツブツと呪文のように討論されていく。


「試してみる?」

「大丈夫なの?」

「さぁ………?」


 何か話が纏まったようだ。天宮城が何かを書き込んだ紙を持ってくる。


「小林さん。これを見てください」


 見ると、サーモグラフィーカメラで写真を撮ったときのような写真が貼ってあった。


 背格好(シルエット)からして小林だろう。小林を中心として赤や緑といった色が塗られている。


「小林さんの能力の波長が一番集まっているのがここ……なんです」

「口?」

「憶測ですが……その、キスをすることで能力が発動されるのでは、と」

「キス!?」


 実に漫画のような話である。


「あ、口と口じゃなくて、多分どこでも」

「よ、良かった……」


 口と口とか、難易度が高すぎる。折角使えるようになった能力を無駄にするところだった。


「試してみて、もらえませんか?」

「誰に?」

「僕です」

「へ?」

「あ、嫌でしたら美鈴と代わりますが……多分僕でやれば何かあったときの被害は少ないかと」


 怪我をしてもすぐに治るので。

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