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38ー4 キラト

 なんとか復活した天宮城。ニルバートがケラケラと笑いながら謝罪する。


『いやー、つい気になってポンポン出させてしもうたわ。すまんな』

「いえ、大丈夫です……」

『アレク、目が死んでる』


 暫くは物を出せそうにない。ここまで疲れたのは初めてだろう。


『それにしてもリュウイチか……』

「え?」

『いんや? ええ名前やなっちゅうことやわ。もうそろそろ暗くなるで帰った方がええで?』

「そうですね」


 確かに日は傾いている。帰る時間も考えてそろそろ帰らないと真っ暗だろう。


「では、僕らはここで」

『入り口まで送るわ。確か港に店があるんやったな? そっちなら裏口の方が近いで?』

『案内して』

『お安いご用や。こっちやで』


 通路を通っていると先程のように数匹精霊が集まってきて天宮城の頭上で回る。


 色からみてさっきの精霊達だろう。


「?」


 視界に入るようにわざとくるくるとその場で踊るように回って見せる精霊達。綺麗なのは綺麗なのだがやけにしつこい。


『なんや、そこまで気に入られるとは。流石は人間と言ったところやろか。いや、リュウイチがそういう性格なんか』

『ん』

「えっと、どういうことです?」

『その子ら、リュウイチと一緒に行きたいって言っとるで』


 え? と視線を前に戻せば、精霊達はまたくるくると回り出す。そろそろ目が回ってきた。


「行きたいって言って行けるもんなんですか」

『行ける。私と一緒』

『見たところリュウイチ、魔法使えんやろ?』

「あ、はい」

『精霊魔法なら魔力さえあれば使えるから連れてった方がええんちゃう?』


 そんな簡単にしていいものなのか? と思った天宮城だったが、凛音との契約も実際そんなものだったので自分で納得した。


「いや、精霊つれてくって言っても」

『大丈夫。ご飯ならルペンドラスの魔力で良い。悪戯しないよう私が言い聞かせる』


 珍しく長々と凛音が喋った。


 暫く悩んでいた天宮城だったが、


『お友達、欲しい』


 の凛音の一言により折れた。


 案外チョロい。


『契約は互いの同意で行われるんや。だからもう自動的に契約されとるはずやで』


 手首見てみ、と言われて右手首を見ると小さな青い痣が浮かび上がっていた。それも直ぐに溶けるように消えていく。


「これで終了?」

『せやで』


 早い。というかなにもしてない。


 精霊達は早速天宮城の帽子の上に寝そべるように乗っかった。天宮城から見ればただの光の玉なのだが、寝ているのがわかるほど寛いでいた。


『っと、ここから出れるで。せや、二日後にまた来てや』

「二日後ですか」

『わかった』


 ニルバートに送り出されて外に出ていった。


 一人裏口で残されたニルバートは扉を閉めてから大きくため息をつく。


『なんや、えらいおっかないやつと契約したんやな、ドライアドちゃん……リュウイチ、か……』


 ガチリと鍵を閉めて去っていく。机の上には天宮城が出した食べ物やらそのごみやらが大量に置いていかれていた。









「おかえりー、って、またなんか連れてきたわね……」

「それに関しては申し訳ない」

「良いわよ別に。これでアレクが魔法使えるようになったんだもんね。魔法じゃなくて精霊術だけど」


 帽子の上の精霊達を見て、あー、と頷くアイン。


 何となく予想はしていたようだ。


「精霊は悪戯好きって聞くけど?」

『言って聞かせれば大丈夫』

「そ、そういうものなの?」

『ん』


 そういうものらしい。


「名前は? 何にしたの?」

「まだ決めてない」


 そういえば決めないとな、と頭上に目をやると精霊達は一斉に天宮城の前に整列する。


 待ち遠しい、と言っているのが聞こえてくるようだ。


 この感じだと今ここで決めなければいけないようである。


「え、えっと……」


 左から青、緑、白、赤、黄、黒と並んでいる。凛音曰く、色でなんの精霊か予想できる通り、だそうだ。


 それと、性別とかは特にないらしい。


「じゃ、じゃあ、左からアクア、リーフ、サン、フレア、ロック、ルナ、で、どう?」

「あ、安直……」

「俺にネーミングセンスを求めないで欲しい……」


 アインに突っ込まれて天宮城も軽くへこむ。が、精霊達は喜んでいるようだ。


 その後、夕食の席で全員に精霊の話をした。


 誰も驚かなかった。


「あなたはアクア様ですね。よろしくお願いします。私はシーナです。アレク様の奴隷です」

「もう奴隷じゃないけどね……」


 一応もう奴隷ではない。


 そんなこんなで夜が更けていき、店の売り上げ等を確認してから自室に戻る。ここ最近で日課になってきた日記を書きながら小さく胸の辺りを押さえた。


「っ……少し、痛むな……」


 深呼吸しながらゆっくりと体を解すように関節を回す。


 徐々に引いていく痛みに顔をしかめると目の前に青い光……アクアが出てきて天宮城の回りを飛び回る。


「大丈夫だよ。休めば……直ぐ治るから」


 掛け布団の下に潜り込んで目を瞑る。


 疲れもあって、そのまま意識は緩やかに沈んでいった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 むくりと起き上がって欠伸をする。まだエミリアは起きていないようだ。


 琥珀もまだまだ寝足りないようで、布団のなかにもう一度入っていく。天宮城はそんな光景に小さく笑みを浮かべながら洗面所に歩いていった。


 近くに人がいると、人間誰しも意識はしてしまうもので気を使うので少し大変だ。


 いつもならある程度の時間までは私服で過ごすのだが、今日は最初から制服に袖を通す。


 机の上に帽子をおいてから朝食の準備に取りかかった。


 まだ少し外は薄暗い。小さな青い光がふよふよと浮かぶのがまた綺麗で―――


「っ⁉」


 目線を前に戻すと、アクアがそこにいた。


「えっ、あ、アクア⁉」


 開いた口が塞がらない。こちらの世界は明らかに日本だ。


 なぜ、精霊がここにいるのだろうか。


 頭が真っ白になって、持っていた卵がボウルの上で握りつぶされた。結果、殻を取り出すのに相当時間がかかった。

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