表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/237

38ー3 キラト

『立ち話もなんやし中どーぞ』


 奥へと通される間にも周りには沢山の光点が浮いている。ホタルでは無いようだ。


「あの、この周りに浮いてるのって……」

『お? 目がええんやな。この光ってんのは精霊や。下級になる前の、魔力に近い存在やけどな』


 ふわふわと漂う精霊にそっと手を出すと、青い光が掌に乗ってくるくると飛び回る。


『気に入られたみたいやな。近ごろ精霊狩りが頻繁にあって精霊以外には中々近付かへんのやけど』

「精霊狩り?」

『精霊は、魔力の塊。アレクが使う電池と似たような使われ方する』


 凛音がそう補足するが、声は何となく落ち込んでいた。


 ニルバートが精霊を保護して助けている、と付け加える。


『それにしてもよう入れたな? 裏表がないように見えたんかもしれんな』

「ここって普通は入れないんですか?」

『せやで。正確にいうと精霊達が通さへん。怪しいやつはすぐに追い返すんや』


 だから司祭は中まで入ってこなかったのか、と納得する。


『そう考えても少し不自然やけどな……。一回で中に入れてもらえるんはほぼあり得ない筈や』


 一見さんお断りだったようである。


「普通に入れましたが……なにかあったか?」

『ううん』


 本人達も普通に部屋に入ったのでよくわからない。


『なんでやろうな? それこそ神様くらいなら一回で通してもらえるかもわからんけど、普通の黒狼やろ?』


 そう言われてほんの数瞬答えに迷った。だが、天宮城が声を出す直前に凛音が口を開く。


『人間』

「『えっ⁉』」


 言っていいの? という天宮城の反応と、マジで? という反応のニルバートが同じ様な声をあげる。


『アレクは人間。リュウイチ』

「本名明かして大丈夫なの? だめだってアインが言ってなかったっけ?」

『ニールなら大丈夫。隠し事してくれる』


 それでいいのか、と軽く首をかしげる天宮城だったが、ニルバートは興味深そうな目で天宮城を見る。


『狼の耳あんで?』

『耳と目、いいよ』


 天宮城自身軽く困惑しながらも言われた通りに耳をもとに戻し、片目の色も赤に戻す。


「えっと、これでいいの?」


 満足そうに頷く凛音。


 ニルバートは天宮城の耳や手などを握ったり引っ張ったりしながら感触を確かめて気の抜けたような声を出した。


『人族とは……一体今までどこで暮らしてたんや?』

「何て言ったらいいのか……ああ、でも友人は神域って呼んでましたけど」

『私の樹の近く』

『ルペンドラスの近くかぁ……そら誰も気づかへん筈やなぁ』

「何故ルペンドラスの近くだと気付けないんですか?」

『ルペンドラスの力は再生やけど、その他に静寂ってのがあるんや。辺りのものから身を隠し、音すらも届かせない。まさに隠れ住むにはうってつけの場所や』


 あれだけ巨大なルペンドラスに接近するまで全く気づけなかったのはその力が常に周りに漂っているからだという。


『アフェンドラの力は癒しと繁栄やから、ルペンドラスとはある意味で真逆や』

「あ、だから精霊がここに沢山いるんですか?」

『そういうことや。それにしてもそんな種族やったらそら通されるわな』


 光点が天宮城の髪の毛を引っ張ったりして遊んでいる。


 天宮城も特に気にしないので本格的に精霊が遊び始めた。


 お陰で天宮城の周りが凄い光っている。


『っと、ここや』


 扉に入ると一斉に天宮城で遊んでいた精霊達はその場を離れていった。


『ここから先は精霊達は立ち入り禁止なんよ。悪戯好きが多いからなぁ、なにされるんかわからへん』


 中は意外と機能性に溢れていた。生活感が漂っている。


「それにしても……なんでこうすんなりと通してもらえたんでしょう?」

『多分やけど……案内したのキツネのおっさんやったんちゃうか?』

「はい」

『あいつ、相当がめつくて僕んとこ通すって嘘ついて案内して高い案内料を払えと脅すんや』


 どうやら詐欺されかかっていたらしい。


 精霊がなかに入ることを許すことはまずないのでただその前まで案内して扉に嫌われても一応案内したことにはなるので、案内料は確かに払わなければならない。


「いつか罰が当たりそうですね……」

『せやなぁ。僕らは見せもんやないしな』


 それはおいておいて、と天宮城に座らせ、


『人間ってなんか面白いことできるんか?』

「面白いことですか……あ、こういうことなら」


 虚空から缶コーヒーを取り出して机の上に置いた。


『んぉおお! どうやってん、それ⁉』

「強くイメージしたら出来る、といった感じですが。外見さえイメージできれば大抵なんでもつくれます」


 ジーッと近くにあった時計を見てから手を差し出すと時計が傷や凹みまで完璧に再現されて出てきた。


『凄いな、人間。制限とかあるんか?』

「疲れるまでなら幾らでも物は出せますが、海の上とか安定しない場所だとうまく発動しません」

『破格の代償やんかー、ええなー』


 缶コーヒーを開けて渡す天宮城。


「これ、飲み物なんです。ここに口をつけて、こう」

『むっ! 美味いやん! コーヒーやな』


 カシュ、と缶飲料ならではの音に変な飲み物かと警戒していたニルバートだったが、それを口につけた途端に子供のような笑みを浮かべる。


『アレク。飲みたい』

「ああ、ココアだっけ?」

『温かいのがいい』


 慣れた手付きで缶のココアを開けてちびちびと飲む凛音。それをめざとく見付けたニルバートは、


『それなんや? これとはまた違うみたいやけど』

「ココアです。飲みます?」

『もらおか』


 二本のココアで甘い香りが部屋のなかに充満する。


『これ、冬場にあったら最高やな』


 お気に召して何よりである。


 だが、天宮城は知らなかった。否、アインに一度は聞いていたのだが忘れていた。


 ニルバートという神精霊はその種族名からわかるように、神と崇められている。


 司っているのはアフェンドラと同じ繁栄。それと、『商売』である。


 こんなに売れそうな品を商売の神様が見逃してくれる筈は、なかったのだ。


『他にはどんな食べ物があるん?』

「そうですね……料理しなくていいものならレトルト食品とか缶詰、スープとかなら固形の物もありますし……インスタントとかならお湯注げば出来ます」

『ほんならちょっと見せて欲しいわ! どれも美味いでな』


 この後、物を出しすぎて体力どころか気力すら失せた天宮城がぐったりとしながら凛音の膝枕の上で気絶したように寝て、なにかしら魘されていた。


 どうやら夢の中でも物を出しているようである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ