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35ー4 帝国

「グォオオオオン!」


 巨大な亀が雄叫び(?)をあげる。


「グレートタートル……? それにしてはでかすぎるか?」

「お兄さん詳しいんですね」

「いえ、戦いの時は後方支援にまわるので大抵の魔物は大体覚えているだけです。が、あの魔物は初見です」

「キャッスルタートルです」


 その名を聞いて、天宮城はぎょっとする。


「キャッスルタートルって八聖獣の……⁉ じゃあ本気で僕に勝ち目ないじゃないですか……」

「信じるんですね?」

「嘘なんですか?」

「本当ですよ。ですが、お兄さんみたいに一回で信じてくれる人は早々いないので」


 八聖獣は世界樹の恩恵を受けた魔物として有名で、その姿を見たことのあるものはいないと言われる。


 ただ単純に死ぬからなのだが。


「そうなんですか。思ったより小さいんですね」

「あれは分体ですので」

「スライムみたいな構造なんですね……?」


 小さいとは言っても普通に天宮城の住居兼職場の船とほぼ同じ大きさである。


「グォオオオオン!」

「チッ、硬い!」


 こちらの会話が聞こえていない男性は剣で斬りかかるが薄く足の皮を切り裂く程度で刃が止まってしまう。


 歩く度に地鳴りと揺れが辺りの空気を震わせていく。


「あの、これ大騒動になりませんかね?」

「それは大丈夫です。こちらも少し細工をしているので」

「そんなことができるんですか……」


 亀が歩く度にその地面にクレーターが出来上がっている。


「あの、地面とかって」

「後で修復します」

「凄いですね……あ、亀さんの怪我って」

「召喚獣なのですぐ治せます。もし死んでも分体ですので問題ありません」

「便利ですね」


 男性の息がきれ始めている。亀の動きはかなり遅いのだがあまりにも図体がデカいのでどれだけ斬っても薄皮を少しずつ斬っているだけでしかない。


 それに亀の方も動くので何度も一撃離脱を繰り返さなければならない。


「はい、それまでです!」


 少女の声が響き渡り、亀が魔方陣に帰っていく。


「まだ、やれるが?」

「あくまでも戦闘力を見るだけですから。では次、お兄さん」

「ほ、本当にやらなきゃダメですかね……ダメですよね……」


 やる前から相当弱気な天宮城はブツブツと自分に対しての小言のような言葉を吐きながらどんよりとした暗いオーラを撒き散らす。


 かなり嫌なようだ。


「お兄さんの相手はこの子です!」

「ピィイイイイ!」

「…………」


 魔方陣から出てきたのは、青い鳥だった。


 否、正確に言えば青い炎を纏った巨鳥。


「え、攻撃がまず届かないのでは……?」


 不安がる天宮城に少女は天使のような笑みを浮かべて、


「それを使えば届くはずですよね?」

「届くかもしれないですが……今まで使ったことがないのに」

「大丈夫です。ほら、やって見せてください」

「……判りましたよ。どちらにせよお客様の個人情報を守るのは我々商人の務めですし、足掻けるだけ足掻いてみましょう」


 扇の中心を固定していた留め金()を取り、足に力を込める。


(今だけ……少し力を貸してくれ)


 天宮城には魔力がない。その場合外部から魔力を補充する事が必要だ。


 天宮城は世界樹ルペンドラスの魔力を一時的に借り、自分の中に溜めておくことができる。10分間のみだが。


 地面から送られてくる魔力を一旦自分の中に留め、そこから分散させて魔法という事象を起こす。


 十分に魔力が体に溜まったと考えて力を込めるのを止め、扇を一気に開き先程の魔力で空中に留める。


 天宮城が一度も開いたことはなかった扇は一枚一枚が分離し、まるで意思をもっているかのように空中に佇んでいる。


 その黒い巨大な薄い金属の板は要から解き放たれたことによりもう扇の形をしていない。


 本来はこの武器は扇ではないのだ。天宮城がそう思い込んでいただけのこと。


 それを知っていながら、戦いに怯えて近接戦闘の火力がほぼないということを自分に言い聞かせていた。


 右手を横に広げると、剣のように鋭い板が一斉に天宮城の前に移動し、狙いを定めるかのようにピタリと静止する。


 無言で天宮城が手を振り上げると弾丸のようなスピードで半分ほど真っ直ぐ巨鳥に向かって進み、もう半分は回り込むように飛来する。


 天宮城は一枚自分の方に飛んできた板に飛び乗って自分も空に浮かび上がる。


「うわっ、想像以上に怖い!」


 びびってさえいなければそれなりに格好いいのだが。


「ピィイイイイ!」

「っと、左翼上昇、中列下降し後ろに回れ! 右翼はそのまま迎撃‼」


 巨鳥が炎を撒き散らしながら目の前を飛び交う板に苛つくように威嚇の声をあげる。


 天宮城は言葉で板を指示しながらどこならば決定打になるかと考えていた。


(普通に攻撃に入ったら俺が丸焦げになるし神解きの耐久値も心配だ。なんとかしてあの火を消せれば……)


 その時、巨鳥の嘴から青い炎が吐き出され、天宮城の近くを焼いていく。その熱風で顔が少し火傷した。


「あっつい⁉」


 直ぐに足元の板に下降する命令を出し、効果範囲外に出る。そこであることに気がついた。


(火を吹いている時は体の周りの火が所々なくなってる……あそこしかないのか)


 火を吹いている瞬間に懐に飛び付いて一撃で何とかするしかない。幸い先程の亀よりも防御力は低いようだが機動力があるので中々近づけない。


「っ、一旦退却‼」


 嫌な予感がして一斉に板を下がらせる。すると巨鳥が全身の火を燃え上がらせた。


「あ、危ない……あれが当たってたら全部溶けてた……」


 自身の戦闘能力はほぼないので武器がなくなったら終わりである。


「ピィイイイイ!」

「今だっ!」


 数枚を犠牲覚悟で顔面に命中させ、羽の付け根辺りに飛び込んで足の下にある板を手にし、凛音から教わった氷の呪文を纏わせながら思いっきり切った。


「キュォオオオオオ!」


 皮膚の一部が凍りついて砕け散り、炎が一瞬消える。その瞬間に天宮城は周囲の板に指示をだし、風切り羽を容赦なく切り落とした。


「風切り羽は推進力を生むはずだから落ちる……と思う!」


 確かそんな感じだった! と実に情けない言葉を口にしながら直ぐに離脱すると、先程の氷の攻撃もあり巨鳥が落下していく。


 天宮城も地上に降りて最後の止めとばかりに板を横一列に並ばせて……


「それまでです!」


 少女から試合終了の合図がかかる。


 かなりボロボロになりながら魔方陣に戻っていく巨鳥を見て、大きなため息をついた。パラパラと板が統率を失ったように地面に落ちていく。


「もう無理……怖すぎ……二度とやらない……」


 本人は燃え尽きるどころか戦意喪失していたが。

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