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35ー2 帝国

 港についてから数日。天宮城達はとある問題に直面していた。


「在庫が全然足りない……」


 結構な数作ってあったはずなのだが、まるで足りないのだ。


 出すつもりはなかったくらいのものまで店頭に並べてはいるが、それもものの一時間でスッカラカンなのである。


 原因は人件費削減による値段の低さ。もともともっと低くするつもりだったのだがイリスに言われた通り、最初考えていた値段の倍で売っているにも関わらず、それでも十分安いのでまとめ買いする人が続出しているのだ。


 一人いくつまで、と決めたはいいものの、毎日来られたらもう売る物がない。


 万引きも多発していた。直ぐにこの店の警備システムに引っ掛かってしまうのに、それでもと盗もうとする輩が後をたたない。


「もうダメ……燃料補充してさっさと次の国行くか……」


 この国に来たのはついで扱いなのでここに留まっていなければならない理由もない。


 食料をある程度積めればもうやることはない。


 ミシンをガタガタと動かしながらため息をついた。


 この国では他国との貿易が推奨されていないので天宮城が運んできたものが新鮮に見えるのだろう。


 所詮個人所有の船なのでそれほどまでの大きさはない。店のスペースなんてちょっと狭めのコンビニくらいである。


 鬼気迫るような表情で服やアクセサリーを取り合うその姿は若干トラウマになりそうだ。


 家族全員で店のサポートをしているが、全然足りない。


「琥珀」


 琥珀を呼び出し、


「なんだ」

「動力魔石はどうなった?」

「注文してきたぞ。明日取りに行く」

「じゃあもう明日出ようか……正直あのお客の量は無理。この国舐めてた」


 ここまで人気が出てしまったのは別の理由もある。


 この国は繊維となる植物が育ちにくい気候にあり、布が割高なのだ。なので下手したら布の方が服よりも高い時もある。


 天宮城が調べたのは食べ物の市場価格なので気にしていなかったがそういう事情が背景にあったのだ。


「んじゃあ皆に言っといて。明日でるよって」

「わかった」


 コキコキと首を鳴らしながら疲れた手を動かし、服を作っていく。一着作るのにたった十数分で出来上がるのだがそれは開店後一時間も持たずに売れてしまうので全然間に合わない。


 服作りができるのは天宮城だけなので余計に負担が大きい。


 できた服を出すのは天宮城が許さないので地道に作っていくしかないのだ。








「あー、怠い……」


 ほぼ徹夜で仕上げて朝の開店準備に入る。ぼんやりとする目を擦りながら看板を回収した。もう置いておかなくても儲けは十分以上でている。


 寧ろもう来ないでほしい。


 開店前の数分で首がかくりとしたに下がる。


「やべぇ、凄い眠い」

「仮眠しますか?」

「……最初だけ任せていい?」

「はい」


 この状態で人前には出れないと感じた天宮城はレジの後ろの休憩室で椅子に座って仮眠をとる。


 仮眠程度ならあっちの世界に戻ることはないのでその辺りも安心だ。


 何かあったら起こしてと伝え、一時間後に鳴るアラームをセットし、気絶するように眠った。


 数十分後、


「あ、アレク様! アレク様!」

「んー……? 後二分でいいから寝かせて………」

「ててててて」

「て?」

「町に天使様が……! 天使様がいらっしゃっているそうです!」


 数秒天宮城はその言葉を頭の中で反芻し、


「てんし……? 誰?」

「天使様は天使様ですよ! それにあの名高いケルン様とコピシュ様です!」

「いや、知らんけど……」


 珍しく興奮した面持ちのシーナ。よほど珍しい事なのだろうか。


「見に行きましょう!」

「え、店は?」

「お店は少し閉めさせていただいて」

「それは駄目だろ。いいよ皆で見てきて。その様子だと客も引いたんだろ?」

「はい。天使様を一目見るためにと」

「じゃあ俺一人でも大丈夫だ。行ってきな」


 この世界の住民ではない天宮城は正直その凄さがわからないので留守番すると言い始めた。


「見ないんですか⁉」

「俺はいいや。店の方が大事だし、仮眠もとったから大分楽になったし」

「いいんですか⁉」

「な、なんかやけに食い下がるな……?」


 シーナは天宮城の肩をつかんで、


「天使様なんて、一生に一度お目にかかれればそれから先はずっと幸福だという言い伝えがあるほど下界には降りてこられません。もう二度とチャンスはないですよ⁉」

「そもそも人混み苦手だし。琥珀が見てくれば俺の視界繋げられるし」


 それよりも、とシーナに財布を渡し、


「伝心の力が制御出来るようになってきたとはいえ油断しないこと。もし暇があれば帰りに日持ちのするもの買ってきてよ」


 柔らかな笑みでそう言われては一緒にいきましょうとは言えない。


 船からは天宮城とアイン以外全員が出ていった。


「アインは行かなくていいのか?」

「小さい頃一回見たからいいの。もっと珍しい種族に会ってるしね」

「人魚?」

「クレアもそうだけど。アレク、あんた自分の種族忘れてない?」

「ああ、そうだった」


 もう絶滅したと言われている種族の方が確かに珍しいだろう。今や天使よりも希少なのだ。


「アインはここ数日ずっと中で家事してくれてたけど、一回外降りてみたらいいんじゃないか?」

「え?」

「この国に知り合いとかがいて鉢合わせの可能性を危惧しているなら今は問題ないんじゃない? だってこの辺り俺らしかいないよ。外の空気吸ってきたら?」


 確かに辺りに人の気配はない。


「ううん。いい。ちょっと嫌なこと思い出しちゃうから」

「そうか」


 天宮城はそれ以上の事は聞かなかった。


 天宮城自身、過去を話したくないと思っている人だからだ。無駄な詮索はしない。


「ねぇ、アレク」

「ん?」

「私ね、ずっと神様を恨んでた。産まれたときから死ぬ時期が決まっていて、どうせ死ぬからって雑に扱われて。全部神様が私を巫女に選んだからだって、ずっと」


 天宮城とアインが会った理由、それはアインが光の巫女として生贄にされたから。


 天宮城も深くは関わろうとはしなかったのだが、気になってはいた。


「あの日が来るのが怖くて、怖くて。あそこにつくまでにも死ぬかと思ったくらい怖かった。けど、そこにはアレクがいた。一人じゃなかった。そう思ったら、なんか安心して」


 誰もいない筈の山の頂上。そこに人がいた、しかも生贄のことを全く知らない人。こんな偶然などあるのだろうか。


「もしアレクがあそこにいなかったら私なんてもうとっくの昔に死んでるよ」

「そう」

「だからね、アレク。ううん、りゅ―――」


 なにか言いかけたその時、店の入り口が開いた。

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