1ー1 超能力者は夢使い
はじめましての方ははじめまして、龍木と申します。この話、異世界転移物ですが異世界が出てくるの大分後になります。
最初から10数話までは毎晩更新致します。
よく誤字してるので見付けたら教えて下さると嬉しいです。拙作ですが呼んで頂けると作者が小躍りして喜びます。
人間は、この世のなかで最も弱い。植物など、動くことも出来ないのに人間なんかよりずっと逞しく生きている。
世界は平等だ。人間には力がない。だが、運があった。
他の動物を退けることが可能になる位の武器を作る知能。それが、最初に人間が手に入れた力。
はっきりした力の差ではなく、考えることによって自然界でも生きられる力を手に入れた。
そして、石を削って作り出すだけだった筈が、石を溶かして別のものに作り替え、火薬を産み出し、それを利用した銃や大砲を作り上げた。
そしてある日。人間は新しい力を意図せず手にした。
最初にそれを使えるようになったのはある小学校の全校生徒。全校生徒とは言っても少子化が進んでいる現在、その生徒数はたったの十名。
その子供たちがそれを手にしたのは本当に偶然だった。
タイムカプセルを埋めた場所に、黒い石を発見した。本当に、それだけの事だった。
その瞬間から子供たちが手にしたのは俗にいう超能力という力だった。
ある者は『重力を操る力』を。ある者は『天候を操作する力』を。またある者は『未来を視る力』を。
変化はそれだけではなかった。日本中に同じような力を持つ者が現れ始めたのだ。
人々は自分とは違う『力』を持った者を重宝し、また蔑んだ。
自分の力を不審に思い、使わないものも出てきた。
そんな者のために、子供たちは『能力者協会』を設立。能力者の管理、仕事の斡旋等をし始めた。
それにより能力者達との壁は徐々に無くなり、今では日常生活で能力者に遭遇することも少なくはない。
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「絵本ねぇ……」
ある一冊の絵本を本屋で立ち読みしている女性がいた。
その女性は元あったところに本を戻し、再び外に出る。
「寒……。能力でもあったら暖かい所で働けるのになぁ」
ぶつぶつと独り言を言っているが、無いものはないのだ。
「ま、別に本当に欲しいとは思ってないけどね!」
自分の会社に腕時計を一瞥してから走っていく水野麗。今年で入社4年目となる会社勤めのOLである。
「水野さん。お疲れ様。今日はもう上がって良いわよ」
「お疲れ様でした」
上司に仕事が出来ると定評がある水野は独り暮らし。今年で27歳になるのでそろそろ独り身が寂しくてしかたがない時期だ。
水野は家事が苦手なので、いつもコンビニの弁当で夜はすませる。
「いらっしゃいませ」
いつも使っているコンビニを入るといつもの声が響く。
「天宮城くん。お疲れ様」
「水野さん。お仕事お疲れ様でした。今日も買っていかれますか?」
「ええ。お願いできる?」
「はい。では揚げてきますね」
いつもここでポテトを買う。その時にほぼ毎日この時間にアルバイトをしている青年、天宮城龍一に会う。なのでその時間にポテトを揚げて貰うように頼んでいるのだ。
「天宮城くんも大変ね。高校生だっけ?」
「高校生ですね。今年で卒業ですが」
「大学行くの?」
「いえ。お金がないもので。その、フリーターになる可能性が……」
「就職は!?」
「就活は勿論します。ですがその、あるところから絶対にこっちで働けと圧力と言うか、そんなのがありまして」
普通逆では無いのか。という疑問がでてくる。
「どういうこと?」
「知り合いが会社を経営していまして……こっちに来いと」
「いけばいいじゃない」
「職場が荒れそうなんですよね……」
なんだか事情がありそうだ。
「そう……無理しないようにね。君みたいな秀才君なら引く手数多だろうしね」
「秀才じゃないですよ」
「首席でしょ? それでも充分なのに色々賞とか貰ってるんでしょ?」
「いえ。偶々、運が良かっただけですよ」
ピピピピ、と電子音が鳴り、天宮城が奥に入ってキッチンタイマーを止める。
「ポテトです」
「ありがとう」
代金を払い、弁当とポテトをもって外に出ていく水野。
「ありがとうございました」
後ろから天宮城の声が聞こえ、軽く手を振ってから別れる。
いつもの光景だ。
それが突然一変するとは、水野は全く予想できていなかった。
「あー、残業長引いちゃった」
水野は急いでコンビニに向かう。
「いらっしゃいませ」
「ゼェ、ゼェ、天宮城君………まだこの時間もやってるんだ」
「ふふ。お疲れですね。ギリギリでしたよ。あと二分であがりですので」
「そ、っか……」
息を切らしながら駆け込んできた水野を見て天宮城はほんの少し笑う。
「ポテト、揚げます?」
「え? でもバイトあがるって」
「数分くらい変わりませんよ。揚げますね」
直ぐに後ろの方に入り、タイマーをセットして再び戻ってくる。
「残業ですか?」
「ええ。長引いちゃってね」
「そうですか」
「ご両親と暮らしてるの?」
「いえ。実家が山奥でして。独り暮らしです。これでも家事は一通り出来るんですよ」
「出来そうよね」
「あれ、判りますか?」
「料理男子っぽいもの」
「ふふ。そんなに凝ったものは作れませんけどね」
先に会計を済ませる事にした。天宮城はレジを慣れた手付きで打ち、ポテトを待つ。
「羨ましいです。僕、仕事選べそうにないので……」
「え? それってどういう……」
水野が聞こうとした瞬間にピピピピ、と緊張感のない音が店内に鳴り響く。
「あ、ポテト揚がりましたね」
天宮城は奥に入ってポテトを取ってくる。
「龍一君。もうあがって良いわよ……ってあら? え!? もしかして龍一君の彼女!?」
「違いますよ店長! 常連のお客様です」
「それでもいい雰囲気じゃない! 今の内に彼女作っちゃいなさい! ここでこそ肉食になるべきよ!」
「何言ってるんですか! 水野さん困ってますよ!」
突然奥から店長の恰幅の良いおばさんが出てきた。
「ほら! ポテトはやっておくから荷物とってきなさい! 彼女帰っちゃうわよ!」
「彼女じゃないですって! 僕が女性と話してるときにいつも煽てるのは止めてください!」
「あら。友達の前ではそんな言葉遣いしないでしょ?」
「お客様ですって! ……水野さん。騒がしくてすみません」
「ほら、荷物とってきなさい! 店長命令よ!」
「使うとこ間違ってませんか、それ……」
この人のテンションには付いていけないとばかりにエプロンを脱ぎながら奥に入っていく天宮城。
「すみませんね。彼、どうも仲の良い人とは関わりを持たないようにするもんですから、煽てないと全く動かないんですよ」
「関わりを持たないように……? どういうことですか?」
「勘なんですけどね……。ある一定の所まで仲良くなると自分から離れていくようにするんです、あのこ」
「女性と?」
「男も。なんだか自分の近くに居て欲しくないって感じがするんですよ」
「?」
「あのこは、自分は周りを不幸にするって言ってましたね」
どういうことだろうか、と水野は考える。
「有り得ないほど女慣れしてないものですので、お客様をたまに使っちゃうんですよ。申し訳ございません」
「い、いえ! 私としては寧ろ……」
「寧ろ?」
「………」
「脈あり、ですかね? これ以上は止めておきますよ。冷めない内にお召し上がりください」
笑いを堪えながら差し出されたポテトを顔を真っ赤にしながら受け取る水野。
「あの……?」
「龍一君。さ、帰りな! 送っていけると尚良いよ!」
「なんの話ですか、それは」
店の奥から私服姿の天宮城が出てきた。手袋などの防寒具はなく、薄手のコート一枚羽織っているだけだ。
「寒くないの?」
「はい。寒さには強いんです。山育ちですので。それでは、お疲れ様でした、店長」
あれほど弄られたのに律儀にお辞儀をする天宮城。真面目そのものだ。
「そのまま家に押し掛けなさいよ」
「おかしいでしょう、それは」
最後にちゃんと突っ込んだが。
「折角だから、これ食べない?」
「え、しかし……」
「良いから良いから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
近くのベンチに座る。ただ、夕食を取るだけである。
「「いただきます」」
水野はいつも通りコンビニ弁当、天宮城はおにぎりを買って来ている。正確には、賞味期限ギリギリのおにぎりを貰っているだけなのだが。
ポテトを摘まみながら食べ進める二人。
「そういえばさっき仕事が選べそうにないっていってたけど、どういうこと?」
「以前知り合いが会社を経営しているという話をしたのを覚えてらっしゃいますか?」
「ええ」
「そこから凄い圧力と言うか、そんなのがありまして。先生方まで勧めてくるんです」
「違法じゃないの? それ」
「違法ではないですね。誘ってる域を出ないので。本当は絶対にそこで働くべきなのでしょうけど、やはり抵抗が」
「そう。私は自分の好きなようにすれば良いと思うんだけどね」
天宮城はおにぎりをもうひとつ開けながら、
「中々好きにしづらい立場なんですよね……」
殆んど聞こえないくらいの言葉で独り言を言った。
「何か言った?」
「いえ、何でもないです。そんなことより……」
「?」
「ソース垂れてますよ」
「ああああ!」
スーツに付く寸前だった。
「早く言ってよ」
「ふふ。いつ気付くかな、と。すみません。遊んでしまいました」
笑いながら溢れかけた箇所をおしぼりで拭く天宮城。
「送りましょうか」
「ううん。もうそこだから」
「そうですか。それでは、また明日」
「また明日」
特に約束をしたわけでも無いが、二人はほぼ毎日同じ時間に話をする間柄なので、この会話に特に意味はない。
「さてと、明日も頑張りますか」
ゴミの入った袋をもって自分の住んでいるアパートに歩いていくのだった。
「いらっしゃいませ」
「天宮城君。ポテトお願いできる?」
「ふふ。判りました」
いつもの時間にコンビニに入ると天宮城が何時ものようにカウンターの後ろにいた。
「お仕事お疲れ様です」
「天宮城君も毎日大変よね」
「慣れてますので」
いつものように話す。すると、自動ドアが開いた。水野は結構驚いた。
自動ドアが開いた事に驚いたわけではない。常にこの時間は閑古鳥が鳴いているこのコンビニに人が来たことに驚いているのだ。
「いらっしゃいま………!」
天宮城の動きが止まる。見るからに柄の悪そうな大柄な男が夜なのにサングラスをかけて入ってきた。
「おい。返事を貰いに来た」
「………」
少しパニックになっているのか、天宮城が動かない。
「ちょっと! 怖がってるの判らない!?」
「あ、水野さん。この方、僕の知り合いです」
「え? そうなの?」
サングラスを男が取る。案外目が可愛らしい。
「申し訳ない。客がいるとは思っていなかった」
「い、いえ」
「近藤さん……その言葉店長が聞いたら泣きますよ。割りと気にしてますので」
「そうか。すまない」
意外と礼儀正しかった。
「申し訳ありません、水野さん。この方は近藤さんです。サングラスをしているのは可愛らしい目元を隠すためです」
「龍一。人が隠してることを……」
「結構バレバレですよ」
「まじかよ!」
サングラスをかけ、鏡でチェックし出した。
「それで、今日は突然どうしましたか?」
「返事を貰いに来た」
「………まだ先の話では?」
「いや、正直今すぐ高校中退してでも君には入って貰いたい程なんだ。大分待っている方だと思うが」
「ですが、僕は……もう……無理なんです」
「判っている。だが、君が君である以上これは避けられない選択だ」
「そうですか……お断りしたいんですが」
「最悪拉致もあり得るぞ」
「ですよね……」
滅茶苦茶物騒な会話をしている人相の悪いサングラスの男と細身で殴りあったら勝ち目一切無さそうな高校生が話している。知り合いだと知らなければ恐喝現場にしか見えない。
「その……今度また伺います。なんとか抑えられてはいますし」
「そうか。では良い返事を待っている。………もし次にああなったら、強制的に」
「判ってます。宜しく伝えておいてください」
「ああ」
ピロピロピロー、と間抜けな音を出しながら自動ドアが閉まった。
「ふぅ……」
「大丈夫なの?って言うかあの人能力者?何て言ってるか全然聞こえなかったけど」
「そうなんですよ。サイレント? だったかな」
「羨ましいわね」
「そうでしょうか。能力者って何か縛られてるイメージありませんか?」
「判んないわね。でも待遇はとんでもなく良いじゃない」
「そうですね。有名所に就職しやすいらしいですね」
水野はコンビニ弁当をレジに置く。
「水野さんは能力者に憧れるんですか?」
「別に? 便利そうだなって思うだけよ」
「水野さんらしいですね。ポテトあわせて550円です」
「はい。……でも羨ましいっちゃ羨ましいわね」
「ふふ。空飛ぶとかできたら良いな、って考えたことはありますけどね」
「気持ち良さそうね、それ」
いつものキッチンタイマーの音が鳴り、ポテトを直ぐに取ってくる天宮城。手付きはプロである。
「僕、仕事どうしようか全く決めてないんです」
「断れば良いじゃない?」
「そうなんですが、良心の呵責が……」
「別に知り合いだからってコネ使わなきゃいけない訳じゃないでしょう」
「確かにそうですけどね」
微妙な沈黙が流れる。
「天宮城君。明日ってバイトある?」
「祝日ですよね? 無いと思います」
「そっか。ねぇ、折角だから一緒に出掛けない?」
「え? 水野さんと?」
「あ、嫌かしら?」
「い、いえ! そんなの全然! 突然の事で面喰らってしまいまして……」
「じゃあ、どう?」
「そうですね。では、その申し出、受けさせていただきます」
「お堅いわねー。高校生なんだからもっとはっちゃけないと」
それもどうかと思う。と天宮城は心の中で突っ込みをいれる。
「ふふ。では、連絡先交換しましょうか」
「そうね」
互いのスマートフォンに連絡先を交換し、朝の10時にコンビニ前集合になった。
「それでは、また明日」
「うん。また明日」