「強くなけりゃ、誰も救えないからな」
「来たね。初めまして、第二王子様」
「初めまして。魔王、レイゴットさん」
約束の時間ピッタリにジュードがレイゴットの指定した草原に来た。
「主、どこにいる」
玄武が殺気を存分に放ちながらレイゴットの方を睨み付ける。
「書いてあっただろう?ハクア君の話だって」
「書いてありましたね。要求はなんですか?金でしょうか?地位でしょうか?私達の命でも取りますか?」
軽く答えるレイゴットにキキョウが声に怒気を含ませながら尋ねる。
「そんなどうでも良い話をしに来た訳じゃないよ。端的に言うと、ハクア君拐われちゃった」
「は?ふざけるのも大概にしろ。拐ったのはお前だろう」
人間化を解き、白く巨大な虎の姿になった白虎が唸りながら叫ぶように言う。
「嘘じゃないよ。僕達も今彼がどこにいるのか全然判らないんだ。僕が留守にしている間に拐われたみたいだし、毒盛られたとはいえあの怪物以上のハクア君を拐ったんだから相当の手練れだろうね」
「嘘をつくな。そうやって此方を騙し、寝首をかくつもりなのだろう?」
ダイが戦闘体勢をとりながら魔力を解放する。
「まぁまぁ。やりあうつもりはないよ。協力しないか、という提案だ」
「提案……ですか?」
リンがジュードの後ろに隠れながら恐る恐る尋ねる。
「このままただ闇雲に捜しても互いにぶつかり合うだけだ。我々で協力すれば助け出す力も探す労力も段違いだとは思わないか?」
「そうですね。確かに。しかしあなた、リンさんを人質にとった魔族ですよね?」
「そうだ。あの時は申し訳なかった……。研究資料を探そうと思うあまり、あんな非道な方法を使ってしまった。本当に申し訳ないと思っている……」
「信じられませんよ。あそこに師匠がいたからあの場は問題なくおさまったんです。もし師匠がいなかったらどうなっていたか」
「それは……判っている。罪も受け入れる」
ラグァは地面に座り込み土下座をする。
「どう思いますか」
「敵は、殲滅」
「私は気にしてないから良いけど」
「嘘は付いていないようですが」
玄武は勿論殲滅しようと物騒なことを言っているが、概ね問題はなさそう、という結果になった。意外とあっさりしているが何ヵ月も白亜が普通に過ごしている事をわかっていたのでそんなに悪い人では無いのではないか、と思ったから。
他には、あまりにも情報が足りず、もし相手の言っていることが本当だった場合に自分達で首を絞めることになるのではとレイスや朱雀をはじめとした穏便派が提案したからである。
「ハクア君はそんなに酷いことされてないと思う」
「なぜ言い切れるんです?」
「だってあの人達幻覚魔法使ってるでしょ?ハクア君が教えたんじゃないのかな、って」
「それと何に関係が?」
「ハクア君、自分を拘束してきたりする相手には絶対にそんなことしないもん」
「成る程。そうですね」
という感じで。
「師匠を助けるためなら、協力します。裏切らないでくださいね」
「大丈夫だよ。僕としても人間といがみ合うのは好きじゃないしね。本当は戦いより魔法研究をずっとしてたかったんだけどね」
「師匠は何故貴方に魔法を?」
「こっちも資料提供するっていう条件でね。僕は遺跡を読めないしね」
「そうですか」
互いに傷付けない、白亜を助け出すという事だけに協力する。という契約を交わす。
「ハクア君の他に人魚族の女の子が連れていかれちゃったんだ」
「人魚族、とは?」
「ああ、此方では知られてないんだっけ。僕達魔族の国の近くに人魚族が住む国があるんだ」
「人魚族……お伽噺に出てくる?」
「そうそう。下半身が魚の。ハクア君と仲が良くてね。ハクア君を脅す材料として連れていかれちゃったみたい」
女の子、白亜と仲が良い、という単語が聞こえてきたと察知しギャラリーが集まる。
「その子も助けるんですか」
「うん。とは言っても格段に強い訳じゃないし、本来は狙われる筈じゃ無い筈だったからそこまで警戒されてないと思うけど」
「結局は助けることになりそうですね……」
ジュードは白亜の配下に向き直る。
「また、師匠探しに手伝ってください。皆さん」
「「「勿論」」」
というか、白亜の配下だから当然である。
「海の中は僕達の領域だから陸だけを探せば良いよ。多分研究施設とかじゃないかな。ハクア君、素材ってみたら垂涎ものの体してるし」
「そうですね……空を飛べる方から順に探して貰いましょう」
ほぼ全員空くらい飛べるのだが、やはり種族という差は大きい。ジュードはなれた様子で次々に誰がどこを探すか指示していく。
「師匠探しは一からになってしまいましたが、絶対に見つけ出しましょう」
「「「はい」」」
不安をたちきるように、そう言ったのだった。
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「……よ!」
白亜の剣が空間を切り裂きながら動く。とんでもないスピードが出ている。光を越えてるんじゃないか、といえるくらいである。
「くっ……!思ったより、キツいかも、ね!」
「おっと……危なかった」
白亜の口調はあまりにも穏やかで緊張感がない。しかし、白亜もジャラルも互いに一歩も動いていないどころか剣も抜いていないように見える。
簡単に言えば、全く視認できない。そこそこの強さを持っているものでも今白亜とジャラルが何をしているか全く判らないだろう。
辛うじてレイゴットが見える位、だ。とんでもない化け物に育ったものである。
二人がただ突っ立って居るだけにしか見えないのだが、実際にはあり得ない攻防が繰り広げられているのである。
「強く、なったね」
「強くなけりゃ、誰も救えないからな」
音なんて打ち合って暫くしたら来るものになっている。花火をかなり遠くから見ているときと同じような感じだ。
二人が一発打ち合って離れると、大分離れたところで音がなる、位のスピードが出ているのだ。
「大振りの攻撃が減ったね」
「大振りは流石に見破られやすいからな。俺としては今まで自分のスピードを過信して適当に戦ってたし。良い薬になった」
ただ会話しているだけに見える二人の周囲は今近付いただけで切り刻まれる危険すぎる場所になっているだろう。
「今日だよな、確か」
「うん。お別れは寂しいけど、君なら多分好きなときに来れるだろうから悲しくはないね」
「ふっ。まるで実家の母様みたいなこと言うんだな」
「実家の兄さんだよ」
「いや、そういう事じゃないんだけど……まぁいいや」
白亜は攻撃を弾いたり回避したりを繰り返しながら楽しそうに話す。
「楽しかったよ。この一年」
「もっと居るかい?」
「それは、サラが発狂するだろ。ジュード達にも悪いし」
「ふふ。そうだね。でもまだ外に出る許可は出してないよ」
「判ってる。だからここで兄さんに勝つさ」
「是非勝ってくれよ」
にやっと不敵な笑みをする。しかも二人同時に。いよいよ白亜がジャラルに似てきた。いや、もう似ていた。
白亜が後ろに大きく下がる。
「やらせないよ!」
一瞬でジャラルが間を詰めるが、白亜はそれを予測していたようで右に大きく跳ぶ。
右足を軸にしてくるっと半回転しながら、ジャラルを見据える。するとそこかしこから黒い靄のようなものが顕れ、ジャラルに襲いかかろうとする。しかしジャラルは剣を一振りしただけで空間ごと靄を消し去る。
「まだ、だよ」
白亜は走りながら地面に目をやる。すると蔦や蔓が一気に地面から突き出てきた。
「おお、ちょっと予想外」
笑顔でジャラルが剣を使って目にも止まらぬ早さで全て斬っていく。予想外、というのは本数の話である。白亜は地面だけでなく岩などの生えない筈の部分からも生やしている。
これは、真空で普通に地上のように物を燃やす位あり得ないことなのである。
「それ」
蔦のドームのようなものが出来上がったが、ジャラルは一発火魔法の最上級魔法、豪炎地獄を無詠唱で発動させ、一瞬で塵も残さず消える。
それを判っていたように白亜は今さっきまで蔦しか見えなかったところに飛び込んで剣を振る。
ジャラルも剣でガードする。しかし、あまりの衝撃に白亜とジャラルの剣が折れた。白亜の攻撃はその先のことだった。
わざと折った剣を投げ捨て、腰のナイフを口にくわえて押し倒す。
ジャラルがそのまま倒れこむと顔を首に持っていき、頭突きをするようにナイフを首もとに当て、思いっきり引いた。
「はは……僕の負け、だ」
盛大に血を首から噴き出しながらジャラルが倒れた。初めての勝利に白亜は、
「あ……血が、血が目に入った……!」
平常運転だった。




