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「軽っ!この子何キロ!?」

「邪神……?」

「ご存じありませんかぁ?有名だと思うんですけどぉ」

「聞いたことはある気がするが………なんでお前が、そんな力を……」

「さぁ?ジャラル様があんたを捕まえるときに使えって仰っていましたからぁ、俺っちにはよくわかんないんですぅ」


 間延びした声で話され段々苛ついてくる白亜。


「はぁ、はぁ、はぁ……お前は何者だ。見たところ魔族でも人間でもなさそうだし……それに俺を捕まえる道理が……」


 そこまで言ったところで急に地面に膝をつく白亜。


「くふふふ!効いてきましたねぇ?致死性はないのですがぁ、かなり強力なのでぇ、何年も眠ったままになることも少なくないんですよぉ」

「ふざけ……るな!」


 相当限界がきているようだが気合いで何とか立ち上がる白亜。足は震え、目は虚ろ、翼も全て機能しなくなっている。


 一方、男の方は全身血だらけ、腕や足なんかも其処らじゅうに広がっており、重傷を通り越して生きていられるのが不思議なほどの怪我ではあるが、笑みを崩さずじりじりと白亜に近づいていく。


「ハクア!」

「サラ……?スピ、ン?なんで……逃げろと」

「逃げられるわけないじゃない!」

「ハクアはスピンが守るって決めたもん!」


 二人が男と白亜の間に割り込む。


「邪魔」

「きゃん!」


 スピンが一瞬で壁まで吹き飛んでいった。8本の脚をフル活用し、衝撃を和らげたようだがダメージはかなり大きい。


「スピン……!もう、やめてく……れ」

「お。大人しくしてくれますかぁ?」

「するわけないじゃない!」

「サ、ラ……!駄、目だ!お、前じゃ殺され……る」


 立つことも儘ならなくなり地面に倒れ込んでしまう白亜。必死に目を閉じまいとしているのがわかる。


「私だってハクアの友達だもん!やられっぱなしなんて王族の名が廃るわ!」

「くふふふ!弱点、さらけ出してちゃ駄目ですよぉ?」

「きゃあ!」


 スピンと同様に壁まで吹き飛ばされるサラだが、スピンが一瞬で糸でクッションを作っていたので怪我は殆どない。


「くふふふ!さぁ。大人しくしてくれますかぁ?」

「くっ―――!」


 白亜の周囲から金色の光が溢れ出す。


「これは聖の光!?まさか使えるものがこの世にいたとは……!」

「ふぅ、ふぅ……アンノウン、シアン。いけるか」


『無論だ』

『勿論です』


 アンノウンを最上段に構える。そこに青い光と金色の光が同時に巻き付いていく。


「これは、この数ヵ月で対レイゴット用に作った魔法の一つだ……空間を破壊する方法は昔から知っていた。切り裂く方法も同様に」


 話し方が途切れ途切れでは無くなっていた。あの状態から回復しているのだ。


「もし空間を切って、空間ごと全部消滅させれたら?俺はそのための研究もした。あまり芳しく無かったがな……何とか編み出したのがこの技だ。……俺の仲間に手を出したんだ。手加減なんて要らないよな?」


 周囲の魔力を吸い込み、光がどんどん大きくなっていく。男の顔が引き攣る。


「先に言っておくけど、この技は絶対に避けられない。転移とかでも避けられないから。それと、防御や力も全部無視して攻撃できるから、確実にてめえは死ぬ」


 徐々に白亜の口調が強くなっていく。それにあわせて滅茶苦茶な大きさになっていた光が集束してより強い、一本の光の筋になる。


「……これで、終わりだ」


 白亜が男に斬りかかる直前、男が動き、近くにいたサラの頭を掴んで首筋にナイフを当てる。


「っ!」

「く、くふふふ。正直その攻撃は危険な香りしかしませんねぇ。そこまで強すぎる攻撃を使ってくるならぁ、俺っちも人質取るしかないでしょぉ?」

「待て!サラは関係ない筈だ!」

「それを下ろしてください?切っちゃいますよぉ?」

「下ろしても切る可能性が高いから下ろさない。お前が先にサラを解放しろ。俺はそれを確認したらおろす」


 サラは体を強張らせる。


「それでもぉ。同じことそっちもできますよねぇ?」

「誓って嘘はつかない。これから先、サラを含めた俺の仲間に一切手出しするな。俺はお前を殺す術くらい幾らでも出てくる」

「……俺っちも誓いましょう。こいつら含めお前の仲間には手を出さないことを」


 そういってサラを蹴飛ばすように遠くに放る。


「……」


 白亜がアンノウンを下ろすと、光も発散されていく。


「キシシシ!」

「なっ!?」


 柱の影から泥団子位の大きさの何かが出てきてサラの首に纏わりついた。


「きゃあ!」

「なっ!?約束と違うぞ!」

「くふふふ。約束は破ってませんよぉ?彼は俺っちとは関係のないゴーレムですからぁ」

「なにを惚けたことを……!」


 白亜はアンノウンを再び掲げる。


「きゃあああ!」

「サラ!?」

「くふふふ。正直に言いますよぉ?あんたを捕まえに来たのは俺っちだけじゃないんですぅ」


 サラの首に纏わりついたゴーレムが徐々に首を絞めていく。


「く……」


 白亜がアンノウンを下ろすと、サラの首の拘束も弱まったようで咳き込んではいるが命に別状は無さそうだ。


「鬼畜野郎……!」

「くふふふ!まさかここまで仲間に弱かったとはねぇ?彼女は使えそうなんでぇ、俺っち連れてくことに決めましたぁ」

「関係ないとさっき言っただろう!」

「人魚は高く売れるんですよぉ?」

「……何が望みだ」

「俺っちの雇い主に服従することぉ」


 白亜はアンノウンを持ったままサラに目を向け、男に再び向き直る。


「……良いだろう。条件はつけさせてもらう」

「どんな?」

「俺を仲間と戦わせるな。あと、情報提供もするつもりはない」

「それはつまりぃ。体は最悪解剖とかしても良いけど雇い主が仲間と敵対したときに自分を戦力として使うなって話ぃ?」

「そうだ。それ以外は飲まない」


 暫し男は考え、


「いいですよぉ。逃げないでね」

「……逃げないさ。ここで逃げてもサラ達が危険に晒されるだけだな」


 白亜はアンノウンを腰にしまう。しかし、そのまま崩れ落ちるように倒れた。


「ハクアッ!?」

「心配ないよぉ。この子いつ倒れてもおかしくない状態だったしぃ。怪我を治したんじゃなくて時間を戻しただけみたいだしぃ」


 白亜は体の時間を巻き戻してあの大技を使ったのだ。終わったあとに、全てのダメージが一気に回ってくる切り札の一つだった。


 男は白亜を抱き上げる。


「軽っ!この子何キロ!?」


 そんな感想を漏らしながら歩いていく。


「サラ、だったかなぁ?君も来て貰うよぉ。この子のブレーキになってくれそうだしぃ」

「………ハクアの為ならなんでもするわ。だからハクアを殺さないで。助けてあげて。ハクアの昔……酷いものだったから」

「?まぁ、殺さないから大丈夫だよぉ」


 サラは未だに気絶してしまっているスピンの方を見て、


「ごめんね。スピンちゃん」


 短くそう言ってから車イスを動かしていった。








「ハクア君!ただいまー」


 白亜が男に連れ去られてから一時間程後、レイゴットとラグァが帰ってきた。


「ハクア君?居ないの?」


 全く反応がないのは珍しい。不思議に思いながら食堂として使っている部屋に入る。


「……!スピンちゃん!?」

「レイゴット様!これは、一体……?」


 少し遅れてラグァも到着し、壁付近で気絶しているスピンを介抱する。


「あ……」

「スピンちゃん!これはどういうことだい!?」

「ハクア‼ハクアは!?」

「僕が来たときには君しか居なかった」

「ぅえええぇぇーん‼ハクアがぁ!おねーちゃんが!」

「スピン。順序だてて話してくれ」


 泣き出したスピンを宥めて事情を聞く。


 全てを聞き終わった後、レイゴットは地面を殴り付けラグァは心底驚いた表情をしていた。


「毒。そう言ったんだね?」

「うん……ハクアはそう言ってた」

「毒物は気付けなかったか……そうだ!」


 レイゴットが奥の部屋からディスプレイの様なものを持ってくる。


「ハクア君のブレスレットに反応するようになってるんだ!」

「流石レイゴット様!」

「………壊されてるね」

「ええええ」


 見事におかしいことになっていた。光の点が海中にあったと思ったら上空に飛び、あらゆる国をランダムに動く。転移をフル活用すれば出来ないこともないが、そんなことをしていたら流石に魔力が減り、レイゴットも気が付くだろう。


 この世界では実質転移魔法を使えるのは白亜だけなのであり得ない。つまり、壊されたのである。


「僕からお気に入りを盗むなんてどれだけ世間知らずなんだろうね……?」


 レイゴットがキレた。


「あはははは!待ってろ!僕が絶対に取り返して見せる!あははは!」


 レイゴットは興奮すると爆笑しだす。怒りも興奮のうちなのだろうか。


「うん。ハクアとおねーちゃんはスピンが助ける」

「早速目星がつくところから探っていきましょう」

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