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「アンノウン」

「神棒ってやっぱり名前付けた方が良いんじゃないか?」

『そなたがそう言うのなら付けてくれても構わん』


 要は付けて欲しいらしい。


「そうだな……」

『村雨第2号なんてどうですか?』

『私は格下の武器の更に下なのか!?』

『冗談ですよ』


 白亜は暫く考え、


「アンノウン」


 直訳するとよくわからないもの。本当にそれでいいのか。


『ふむ。まぁ、いいだろう』

『それでいいんですか』


 白亜の配下(生きてない)が追加された。








 白亜はアンノウンを腰に挿した。


『やめるのか?』

「いや……久し振りに楽器が弾きたくて、さ」


 少し空を飛んで森の中へ。開けた場所を見つけて防音魔法を使う。


「そうだな……ピアノでいいか」


 手を出すと、グランドピアノが現れた。指先で少し鍵盤を押すと、ハンマーが動く音が少ししてから、ポーンと軽い音がなる。


 ほんの少し表情が緩む。久し振りの息抜きが余程嬉しいらしい。


 椅子も出して靴を脱ぐ。ブーツを普段履いているのだがペダルを踏むには適さないので。


 手をピアノにのせ、ゆったりと弾き始める。曲はノクターン。日本語にすると夜想曲だ。


 右手と左手が洗練された動きで優しく、しかし力強く動いていく。


 普段刀を振り回し、容赦なく火の出る花をそこら中に咲かせまくっている姿とは似ても似つかない。


 表情は穏やかで音楽を実に楽しそうに奏でている。


 音楽をやっている人なら判るだろうが、楽器というのは中々上達しない。その割りにサボると直ぐにツケが回ってくるので最初は楽しくても後々その練習量や手入れの面倒さに嫌気がさす時期がある。


 白亜は一度も嫌だと感じたことはない。


 楽器に向かう気持ちが、まず違うのだ。


 一通り弾いたところで別の曲に変更する。先程とは打って変わってかなりノリの良いジャズ曲だ。


 一秒間に何回指が動いているのか気になるほどの速さで指が動いていく。怖いのは、手首が一切ぶれていないことだ。


 手首を殆ど固定した状態で鍵盤を叩いている。人間技ではない。白亜はしかも気付いていない。普段通り弾いているつもりなのだ。


 何故こんなことになっているのかと言うとレイゴットとの訓練で鍛え上げられているからなのだが。








 鍵盤を押し込むようにして弾き終わる。その顔は晴れ晴れとしていてイキイキしている。本人なのかと疑いたくなってくる。


「楽しかった」

『ここまで変わるとは正直驚いた』

『好きなことになると文字通り目の色変えますもんね』


 白亜はプツン、と糸を切ってピアノを消す。


「また、時間があれば弾きにこよう」


 そう決心したのだった。








「おかえりー。どうだった?」

「かなり使いやすいな。村雨が使いにくい所ではかなり役立ちそうだし」


 あくまでもメインは村雨だ。そこは譲らないらしい。


「さ、ハクア君!地脈魔法を!さ、さ」

「静かにするならいい」

「おっけ」


 白亜は大きく溜め息を吐き、訓練場に向かうのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 日本組は冒険者として名を馳せていた。


 王都を拠点にしつつ、たまに遠出をして白亜の情報を集めていた。とは言っても全然集まらない。白亜が捕まったのは数ヵ月前。その間、情報収集に長けている白亜の配下の成果と合わせても何もない。


 よく心が折れないものだ。


「今日もまた森の探索?」

「そうみたいだな。最近魔物が増えてきたらしい」

「物騒だね……」


 今日も森に向かう日本、冒険者組。


 森の中を探索中、同業者だろうか。探索系能力を持った男子が誰かが居ることに気が付いた。


「情報持ってないかな?」

「聞くだけ聞いてみよ?駄目元で」


 その方向に歩き始める。すると、


「あれ?」

「どうしたの?」

「反応が無くなった。行っちゃったみたいだ」

「そっか。残念だなぁ」


 何らかの情報を持っていれば良かったのだが、もう既に去ってしまった今では関係のない話である。


「ねぇ。これ何だと思う?」

「………戦闘後?」


 目の前には信じがたい光景が広がっていた。


「どんな戦い方すればこうなるんだよ」


 地面が大きくクレーターを作り、水溜まりのように血が溜まっている。そこから少し離れた木には血とまるで粘土に拳をぶつけたようにくっきり手の痕がついたボロボロの幹。


「この感じからすると一瞬で戦闘は終わったみたいだね」

「なんてやつだよ……二人か?片方が血溜まり、片方が手形」


 その呼び方は何とかならないのか。


「ここまで強い人知ってる?俺この辺りでこんな強い人知らないんだけど」

「流れの冒険者じゃない?」

「たぶんな」

「でも、凄い……。こんなのできる人って白亜さんしか私知らない」

「「「え?」」」


 日本組の動きがフリーズする。途中で乱入してきた魔物を流れ作業で倒せるくらいには思考は止まってはいないが。


「ちょっと、今のどう思う?」

「どうもなにも……白亜さんなら確かに出来るな」

「うん。ってことはもしかして逃げれたのかな!?」

「そうか!ん?でもそれだったら先に連絡寄越すんじゃ………?」


 結局不思議な戦闘痕の話は白亜がやったのではないか、という話しに落ち着いた。


 日本組、中々鋭い。









「ああああああ!」

「ファッ!?ど、どうし」

「これ!ここ!」


 ジュードが街を気分転換にダイと歩いていたら掲示板の所で突然絶叫した。


「ジュードが書いた駄目元の手紙ではないか」

「下!ここ!」

「……?……!本当か!?」

「師匠の字です!間違いありません!」


 白亜の【待ってる】を見付けたようだ。白亜がこれを書いたのは幾つか理由がある。


 1つは、ある程度自由であるということ。外に出られる程度では。もう1つは、特に危険な状態ではないということ。何故かというと、待ってる、と書くくらいには余裕があるから。


 ということらしい。あの一瞬で考えられるところ、白亜はやはりとんでもなく頭がいいのだろう。天然記念物ではあるが。


「師匠、無事なんですよ!やったぁ!よかった!」

「そうだな!」


 抱き合って跳ねる二人。周囲から不審な目で見られたのは言うまでもないだろう。








「リンさぁぁぁん!」

「わっ!どうしたの?」

「これを見てください!」

「これって広場に貼ってた……え?」

「気付きましたか?」

「ハクア君?嘘じゃないよね?」

「はい!僕もさっき気付いたので何時かは判らないんですが」


 固まっていたリンが泣き出した。号泣である。


「わああぁぁぁ!よかったよぉぉぉ!」


 宥めている間に白亜の配下も次々とやってきて二次災害が起きた。因みに精霊組は運悪く外に出ていたのでかなり後になってから知った。タイミングが悪かった。








「師匠の無事が確認できました。一先ず安心できるでしょうね」

「捜索に集中いたします。若様を何としてでも助け出しましょう」

「「「はい!」」」

「それなんですが。海の中は調べられないでしょうか?空の上も」

「そうですね。ここまで逆に音沙汰が全くないことを考えると人が入れない場所に捕まっている可能性が高いですね。捜してみましょう」


 暫くどこを探すか、見付けたらどうするか、等を話し合いその日はお開きとなった。


「ごめんねジュード君……泣いてばっかりで」

「いいえ。大丈夫ですよ。僕も師匠が無事だってわかって本当に嬉しいですから」


 窓を開けて風を部屋の中に入れる。暖炉で暖まっていた空気を再び冷ますことになるが、換気は大事なのだ。


「うっ、さむい」

「どうぞ」

「ありがとう」


 膝掛けを羽織るようにして肩からかけ、ぼんやりと外を見るリン。


「ハクア君……本当に大丈夫かな」

「師匠ならきっと大丈夫ですよ。弟子の僕が保証します」


 誇らしげに、そう言ったのだった。

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