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「仕方無い……地脈魔法を教えてやる」

「ハクアはこれからどうするんだ」

「私は……帰れないので」

「どこに行くんだ?」

「……秘密です。私のことは忘れてください」


 そう言ってザークの首元の印に触れると印が一瞬強い光を放って弾け飛ぶ。


「奴隷印の解錠……?」

「これぐらいは出来ますよ。さて、ここでサヨナラですね」

「行くのか」

「行かないといけないんです。お元気で」


 白亜はその場に1000エッタ程置いて歩いていった。幻覚魔法で姿を隠して。








「お疲れ、ハクア君。帰ろっか」

「……ああ」


 サングラスをかけ直して答えた。上を見上げると、白いものがふんわりと落ちてきた。


「……雪」


 白亜の前世では馴染み深い物。白亜は少し日本の事を思い出し、頭を少し振って悪い考えを吹き飛ばす。


「……寒いな」


 フードを更に深く被ってボソッと言った。魔族の国に雪は降らない。四季もない。上を見上げれば硝子のようなドームとその先にある海の水のみ。


 夜と昼は光を魔法で調節して一応作られているが所詮偽物である。


「本物の空、か……」


 灰色の雲を少し見つめてから、レイゴットの後ろをついていった。








「お帰り。どうだった?」

「レイゴットが面倒くさかった」


 適当に答える白亜。もう少し位確り答えてあげればいいのに。


「って言うかサラはもう寝る時間だろ?」

「うん。待ってたの」


 健気だ。意外と。


「もう寝るわね。おやすみ」

「おやすみ」


 白亜はサラにそう言った後、研究室で何かを作り始めた。






「ハクア……?」

「サラ?寝たんじゃないのか?」


 あれから何時間か経っている。


「ちょっと嫌な夢見ちゃって」

「そうか……キリついたからちょっと外に出ようか」

「良いの?怒られるんじゃない?」

「大丈夫だって。行こう」


 白亜はサラの車イスを押していく。


 バルコニーに出た。とは行ってもかなり広い。子供ならサッカーとかしてしまいそうである。


「どんな夢だったんだ?」

「ハクアが」

「ん?」

「ハクアが死んじゃう夢見た」

「………物騒な夢だな」

「でも、初めてじゃないの。今までにも何度か同じのを見た」


 堪えられなくなったのか、車イスの持ち手部分を握り締めて涙を流す。


「死なないよね?大丈夫だよね?」

「……サラも、そう言うのか……」

「……誰か言ったことがあるの?」

「何人か、な」


 白亜が左手上から下に振り下げると、周囲の地面が一瞬緑色に光る。防音魔法だ。


「前に一度……俺の着ている服はどこのなのかって話したことあったよな。もう隠しておく必要もないから話すが……誰にも言わないでくれよ?」

「う、うん」

「わかった!」

「「…………」」


 レイゴットとラグァ、蜘蛛までもが直ぐそこに来ていた。


「はぁ……。まぁ、いいだろう。口外するなよ」

「キチキチ」


 何故か蜘蛛が率先して返事をする。


「そうだな、最初から話そうか――――」








 白亜は両親が殺された時から記憶をなぞるようにしてポツポツと独り言のように過去を話した。


「―――で、今に至るって感じだな」

「「「……………」」」


 反応しづらいショッキングな過去を聞かされ誰も声を出すことができない。


「………話しすぎたな。もう大分夜中になってるし解散するか」


 白亜が魔法を解除し、先に中に戻っていく。サラ達は暫くその場から動けなかった。








「キチキチ」

「ん………起きる。起きるから耳噛むな」


 最近起きたときに無意識に浄化を掛けるようになった白亜。少し不憫に思えてきた。


 余談だが、あの子蜘蛛騒動は何故か子蜘蛛が現れなくなったので自然消滅した。何処に行ったのかは未だに謎である。


「ふぁ……」

『欠伸するのなら顔を隠してしろ。みっともないぞ』

「細かい」

『確かに細かいですね』

『ぐぬぬ……』


 白亜は袴に着替えて腰に村雨と神棒を挿し、朝食を食べに向かう。


「ハ、ハクア。おはよう」

「おはよ……。どうした?」

「昨日の話し聞いたらこうもなるよ」

「気にする必要は無いと思うけどな……」


 通常即興曲ノーマリストでトーストとジャムをテーブルに出す。


 白亜の手から離れた物は消えるが、白亜の能力で作った手袋をすれば手袋に紐が付いている限り持ち上げても消えることはない。


 なので、白亜以外の人が物を食べる時は皆手袋をしなければいけない。食べづらいのでいい手はないかと模索中である。


「いただきます」

「いただきます」


 レイゴット達は基本的に来るのが遅いので先に食べていることが多いのだ。普段通りの朝食なのだが、サラが話さないので無言である。


 白亜は勿論ほとんどの場合話題を振らないと無言である。食事中は特にだが。


「その、今まで無神経に色々聞いてごめんね?」

「気にしなくていいって……」


 雰囲気は完全にお通夜だが。


「おっはよー!」

「朝っぱらから騒がしい……」


 レイゴット達も合流しトーストを全員でもさもさ食べる。悪魔(?)にしかみえない白亜、レイゴット。全身真っ黒のTHE魔族のラグァ。車イスに乗っている人魚のサラ。真っ赤で鎌のような脚を持つ蜘蛛。


 カオスを通り越して危険な香りが漂っている。


「ハクア君!最近なんか調べてるよね?」

「さぁな」

「教えてよ!」

「断る」

「えー。新魔法かなにかでしょ?」

「さぁな」

「あたった!ハクア君嘘つけないよねー」


 白亜は基本天然記念物なので嘘をつかない。無意識に、本当に違うなら「違う」あってるなら「さぁな」と答えてしまう。目が死んでいるので惚けるのは上手いのだが。


「教えて?お願い!」

「断る」

「幻覚魔法使えるようになったから次は別のがいいー」

「駄々こねるな。鬱陶しい」

「じゃあ古代魔法!古代魔法教えてよ!」

「えー………」


 白亜は暫く食べるのを中断し、何かを考える。


「……竜脈」

「え?」

「いや、こいつに教えると危ないか……」

「やりたい!竜脈って地脈魔法だよね!?やりたい!」

「しまった……」


 レイゴットに食い付かれたらお仕舞いなのだ。面倒くさいのである。教えるまで付きまとわれるのだ。


「私もやりたい!」

「キチキチ」

「いや、お前は無理だろ」

「キチ……」


 がっくりと項垂れる蜘蛛。というかなぜ誰も名前を付けないのだろうか。


「仕方無い……地脈魔法を教えてやる」

「「「やったー」」」

「ただし、これを集めろ」


 白亜は紙を懐中時計から取り出してレイゴットに渡す。


「ふーん?これを?なんで?」

「少し気になることがあるだけだ……全員食べたな?」


 プツン、と音がして手袋やジャムが綺麗に消える。


「魔法を教えるのは午後だ。……それまではこいつの練習したいしな」


 カチン、と神棒を片手で触る。


「判った。これ、準備しておくね」

「頼んだ」


 そう言って部屋を出ていった。








「成る程……気力で刃が作れるのか。確かに【俺に合った武器】だな」


 四本の白い棒がくっついて一本の長い棒状の武器になっていた。長さはおおよそ180センチほど。今の白亜より10センチほど高い。


『私は本来持ち主が変わるごとに形を変えてその者に合った武器になる筈なのだが……生憎そなた以外に持ち主が現れなかった』

「お前を持つにはどんな条件がいるんだ?倒したレイゴットは対象じゃないのか?」

『一応は対象だ。だが、私は少々あやつを嫌っていてな……』

「好き嫌いかよ」

『子供ですね』

『子供ではない!少なくともこの世界が出来たときには既に私は存在していたぞ!』


 意外と長寿だった。最古参の人物(?)と言えるだろう。


「それにしても便利だな。気力、魔力でも動くし。俺以外の生き物は触れられないんだろ?」

『そうだ。そなたの魂と直接リンクしているからな』

「ん?それだったらレイゴットも使えたりするのか?」

『いえ。マスターとレイゴットは契約を結んでいるような状態なだけで、魂を共有している訳ではないんですよ』

「そういうことか」


 白亜はたまにわざと先端を一本だけ吹き飛ばしたり、半分にして二刀流の構えで剣のように振ってみたり。様々な使い方があるようだ。


「ふぅ……」

『お疲れさまです』

『私もここまで振り回されるとは思っていなかったぞ……』


 神棒は少し気持ち悪そうにしていた。

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