「SMプレイ……」
ホクホク顔のオンズをジト目で見つめる白亜。
「それでは、こちらで登録いたしましょう」
ザークを連れて小部屋にはいる。そこには青色の液体が置いてあり、小皿なども並んでいる。実験室のようだ。
「ここに血を」
言われた通り小皿に血を垂らす白亜。ザークも同じ皿に血を垂らす。ザークの首元の印が薄く光った。
「はい、これで登録は完了です。お買い上げありがとうございました」
ザークの服は白亜が懐中時計からサイズが合いそうなものをだした。
「ハク―――カイド……すまない」
「800エッタ位問題ありませんよ。問題なのはシャウさんですね」
「助けるの?」
「助けるさ。ただ、俺が行くと確実に目立つが……魔法駆使すればいけるか?」
『危ない橋だ』
『渡らない方が賢明かと』
すこし悩む白亜。暫く考え込み、なにかに気付いた。
「ザークさん。シャウさんは今どこに居るか判りますか?」
「あ、ああ……。貴族に買われたらしい。なんでもその貴族が獣人好きだとかで」
「貴族ですか……中々厄介な」
白亜は左目を光らせてシャウのいる貴族の家を覗いてみる。
「良いなぁ、魔眼。僕も欲しい」
「知らん」
「えー」
白亜が目を細める。
「いた。…………」
「どうした?」
「いや、うん……どうなってるのかよく判らないんですが、シャウさん、主人の筈の貴族蹴り飛ばしてます」
「「え?」」
意味不明な実況である。
「どう言うことだ?」
「SMプレイ……」
「「そういうこと……」」
シャウを奴隷にしている貴族はドMだったらしい。獣人に蹴られることが何よりも楽し……嬉しいようだ。
「どうしますか?……なんかイキイキしてますけど」
「…………」
なんと答えたらいいのか不明だ。
「そのシャウって子に聞いてみたら?」
「貴族の場にいるのにそんなことは不可能だ」
ザークが心なしか耳をシュン、と倒しながら言う。
「いや、君ならできるよね?」
「ん……出来ないこともないけど、なんで出来るって知ってる」
「シアンが念話を使ったときに、属性がラッキーだったって自分で言ってたじゃん」
「よく覚えてるな……。ただ、ここから遠すぎる。今すぐ繋げるのはきついな」
キョロキョロ辺りを見回し、再び路地に入っていく白亜。
「どこ行くの?」
「人目が無いところだ……ったく。属性は知られたくなかったのに……」
念話を先に使ったのは白亜である。
「ここならいいか」
フードとサングラスをとり、懐中時計から敷物を出す。
「露店でもやるの?」
「こんなところでやってどうする……ちょっと面倒なことをする必要があるから今かけてる魔法全部一旦切る。人払いはお前がやってくれ」
「オッケー」
白亜が靴を脱ぎ、敷物に座るとレイゴットが周辺の見回りにいった。
「はく、カイド。あの人はなんだ?」
「あ、もう白亜でも大丈夫ですよ。あいつは……知らない方がいいです」
「そうか……それでだ、その、肌とかさ。あと、何か成長してないか」
「ああ、これですか?……これは色々ありまして。すみません。お答えできない問題です」
「いや、いいんだ。誰にだって秘密はある」
ちょっと狼狽えるザーク。白亜は少し笑顔を見せる。ザークの顔が赤く染まった。男としか見ていないのにこの破壊力である。
「お願いがあります。ザークさん」
「どうした?」
「私のこと、見なかったことにしていただけませんか?」
「……どういうことだ?」
白亜は胡座をかいて敷物に座る。どんな動きをしても格好よく見えるのだから、整ったやつは反則である。
「私は、誘拐されている身なんです。……あいつに」
「は?」
「だから、皆を巻き込みたくないのです。私の考えていること判りますか?」
「そ、それは判るが、何故……?」
「……ジュードにでも聞いてみてください。お願いします。私のことを聞いてくる人がいたら知らぬ存ぜぬで通していただけませんか?」
白亜は小声で、ザークに話し続ける。
「お願いします。あいつらは、もう私とは関わってはいけない。勿論貴方もです、ザークさん。シャウさんをどうするか決めた後は貴方を解放します。それは最初から決めていたんですが、ジュード達に私に買われた等の話しはしないで頂きたい」
珍しく長文を話す白亜。かなり本気らしい。目は死んでいるが。
「判った。お前に会ったことは誰にも言わない。誓おう」
「ありがとうございます」
座わったまま頭を下げる白亜。ザークは少し気まずそうに耳をピン、と立てた。
「と、それではシャウさんにコンタクトをとりましょう。……驚かないでくださいね」
パチン、と指をならすと白亜の隠していた翼や角、長い耳、髪色の幻覚魔法が解る。ザークはかなり驚いたようで腰を抜かした。
「ハクア……それは、一体」
「これも……色々ありましてね。お教えできなくて申し訳ありません」
少し悲しそうな笑みを見せ、白亜は懐中時計から紙やペンを取り出した。
「それでは、シャウさんとコンタクト、取りましょうか」
唖然としたザークを放っておいて、白亜は紙に目を瞑ったままなにかを書いていく。
「座標はこんなもんか……魔力の流れが見えづらいな」
ぶつぶつと呟きながら目を閉じたままペンを走らせる。正直不気味だ。一通り書き終わると目を開けて内容を確認する。
「ん……こんなもんか。ザークさん。私の名前を出さないように気を付けながらシャウさんと話して頂けませんか?」
「俺か?」
「はい。私は中継しますので」
「わ、判った。どうすればいい?」
「何もしなくて結構ですよ。頭の中で会話するだけです」
どう言うことだ?という顔をしているザークを置き去りにして白亜は着々と念話の準備を進めていく。
「始めます。気を張る必要はありません。ただ、話していただければ良いですよ」
白亜は魔力をザークに繋げる。白亜がザークに頷き、ザークが念じる。
『シャウ。聞こえるか?』
『え?ザーク?な、え?』
『こ、こういう魔道具があったんだ』
『遠くにいても会話できるのか?どこでそんなものを?』
『ちょっと色々あってな。そっちは大丈夫か?』
『いや、寧ろあんたは大丈夫!?あたいならここの主人を蹴るだけの仕事だから寧ろ満足してるけど』
どんな仕事だよ、という言葉を飲み込んでザークがまた話し始める。
『奴隷商に売られたが、ある客に買われた。その客に逃がして貰った』
『よかった……』
『シャウは気に入ってるのか?そっちの暮らしは』
『まぁ、ぼちぼちね。楽だもん』
『そ、そうか……。逃げ出したいとでも言うのかと』
『正直こんな変態とは居たくないけど、あたいはあまりにも容赦がないってんで来週解放される事になってるんだよ』
『本当か!?』
口数の少ないザークが満面の笑みを見せる。
『ああ、間違いないよ。これでまた、冒険者に戻れるんだが……』
『どうした?なにか問題が?』
『その……できちゃったみたいだ』
『なにがだ?』
『あ、あたいらの子』
『は?』
中継している白亜まで一瞬動揺してノイズが走った。
『だからここから逃がしてもらえるんだよ……な、名前どうしようか』
『は、早くないか』
『それもそうだな、はは。あたいとしたことが焦っちまったよ』
念話であまり個人的なことを話さない方がいいと思う。白亜にすべて筒抜けなので。
『じゃ、じゃあ迎えに行く』
『ま、待ってるぞ』
そのあと二人は細かい日時何かを話し合い、念話を終了した。
「………その、まぁ、おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
とんでもなく気まずい妊娠報告だった。




