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「望むところだ」

 白亜対もう一人の白亜の戦闘はあまり美しいものとは言えなかった。途中で技をキャンセルしたり、少し不自然な動き方をしていたり。


 何故白亜がマニュアル通りにしか動けないのか、それは、戦いの練習を自分で作ったAIでやっていたからだ。


 それはやはりどうしても単調な動きになってしまう。


 白亜は、それを理解はしていたものの直すことが出来ずに今も尚そんな戦いかたである。


「くぁ」

「ふっ」


 互いに手の内は明かしきっている状態で、白亜が選択したのは小技のみで戦うこと。


 相手が大技を打ってきたら一発でアウトだが、現状はこうするしか方法が無かった。


 大技のモーションに入った途端、白亜が攻撃を封じる。


「互いに手の内は知ってるんだ。思いっきりいくぞ」

「こい、魔王の卵よ」


 白亜は地面すれすれまで身を屈め、気弾を放つ。


「バリエーション、水弾‼」

「な―――ぶは!」


 気弾の中でも最も威力の低い水弾。使いようによっては相手の目を一瞬潰せる道具になる。


「俺は魔王じゃねえ!」

「ぐっ―――!」


 白亜の右腕が綺麗に鳩尾にヒットした。その瞬間、


「ぐっ―――あっ!」


 ほぼ同時だった。黒髪の白亜の右腕が白亜の肩を貫き、その後ろの翼までもを一部吹き飛ばした。


「「かはっ―――!」」


 白亜は痛みをこらえながらなんとか後ろに下がって衝撃を逃がした。肩と翼から、かなり出血している。


 もう一方の黒髪の白亜の方は、勢いを殺しきれずに地面に叩き付けられた。


「「はぁ、はぁ、はぁ……」」


 互いに痛む箇所を押さえながら荒い息を吐く。


「ま、負けるとはな……」

「シアンが教えてくれたんだ……けほっ……俺よりもずっと危険だぞ、シアンは」

「そのようだな……さぁ、私を殺せ」

「何でだ?」

「私を殺さぬ限りここからは出られんぞ。……レイゴットとやらも私を殺し魔王になったのだ」

「俺は魔王じゃない」


 黒髪の白亜の目が少し細くなり、口角があがる。


「ふふ……そなたは魔王になるぞ。これは確実だ」

「お断りだね。……俺は人間だし」

「そうとも言い切れぬではないか?両方の血が流れているそなたは異色ではあるが」

「人間だ……多分な」

「自分の考えにも自信が持てぬのか、そなたは」

「ああ。持てない……不安で仕方ない」


 白亜はもう一人の白亜のところに来て近くの地面に座った。


「だから、お前がいるんだろ?」

「どういうことだ?」

「お前は俺の『信じれない気持ち』の現れなんじゃないかな、って」

「そんな筈はあるまい。どちらかというと私はそなたの悪しき心の部分だ。それを媒体にして試練を行ったのだ」

「じゃあ俺の悪しき心ってやつは相当強いんだな」


 白亜は傷口を押さえながらほんの少し笑った。


「でも、そうだとしても俺はお前と一緒にいたい」

「意味がわからぬ。私はそなたのいわば闇の部分。私を殺せばそなたの過去の記憶の辛さも和らぐだろう」

「そうだとしても、俺はお前でお前は俺だろ?抱え込んで生きていかないといけないんだって、最近気付いたんだ。……前世では、全部無駄にしちゃったけど」


 頭を少し掻いて自分の角をさわる。


「こんな身体になっても助けようとしてくれる人がいる。俺は、記憶なんて要らないって昔は思ってたけど、今はその人達に恥じないように生きるつもりだ」


 白亜はもう一度、もう一人の白亜に目を向ける。


「それには、お前が必要だ。どんな辛い過去でも生きていける強さがないと、誰も守れないしな」


 照れくさそうに、笑った。


「ふふ、ははは!試練を行うのは今まででも何度かあったが、こんなことを言われたのは初めてだ!」


 殴られた鳩尾を擦りながら笑うもう一人の白亜。


「良いだろう。私はそなたの力になろう。そなたの言う、闇を乗り越える力………それがどんなものか、この目で確かめてやる」

「望むところだ」


 その時、白亜は周囲が段々ぼやけていくことに気付いた。


「あ、れ……?」

「それではうつつであおうではないか。神の子よ……」

「それ、どういう……」


 そのまま倒れこみ、気を失った。







ーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ん……?」

「お。お疲れ!ハクア君!」

「………もう一回寝よう」

「いや、なんで?」


 白亜はレイゴットに膝枕されていた。少し嫌な顔をしながら起き上がる。因みに何故かオンズが居なかった。


「君僕の扱い酷くない?」

「そんなことはない。なにも考えてないから安心しろ」

「すっごい棒読みだね!」

「って言うか……さっきのはなんだったんだ」

「あ、そうそう。ハクア君勝ったの?」

「はぁ……勝ったのか?いや、最後倒れた気がする……?」

「え?どっち?」


 判断に困る終わり方をしたので勝ったとも負けたともとれる。


「多分勝った………?」

「適当だねっ。じゃあそれにもう一回触れてみれば?負けてたらもう一回試練が始まるけど」

「もう勘弁なんだけど……」


 心臓に悪い。強くはなれるかもしれないが。


「はい。どうぞ!」

「………」


 仕方がないので恐る恐る触った白亜。その瞬間、黒い棒が真っ白な陶器のような色に染まっていく。


「「え……?」」


 四本の棒が全て真っ白に変色した。彫ってある紋様が白亜の左目のように淡く翡翠色に光っている。


「なにこれ……?」

「僕も判んない」


 どうすればいいのか白亜が迷っていると、


『マスター。それを持ってみてください』

『大丈夫なのか?』

『ええ。持ってください。………驚くかもしれませんが』

『え?』


 シアンが最後に言った言葉が言い終わらないうちに持ってしまった白亜。すると、紋様が激しく光を放ち棒そのものが消えた。


「「!?!?!?!?!?」」


 大混乱である。


「え?俺、あれ?」

「ちょ、ちょっとまって!こんな話聞いたことないよ!?」


 どこに行ったのか、それはその後直ぐに判明した。


「あれ?ハクア君、それ、なに?」

「ん?……ん?」


 腰に真っ白な棒が刀と同じ様にベルトでくっついていた。両側に二本ずつ。


「え?」

『またあったな』

「ん?ん?」


 きょろきょろと辺りを見回す白亜。


『ここだ。そなたの腰に……見えているだろう?』

「え、これ?」

『これとは酷い言われようだが……そうだ。そなたの力になろうと言ったからな』

「力になろうってそういうこと……」


 てっきり白亜の中に戻るとかそんな表現だと思っていたようで、結構驚いている白亜。


「ハクア君?どうしたの!」

「えっと、あ、名前ってあるのか?」

『名前か?神棒だが』

「味気ない……っていうかそのまんまなんだな」

『仕方ないだろう。そなたが初めての持ち主なのでな』

「ふーん……」

「ハクア君?誰と話してるの?シアン?」

「神棒」


 ぽかん、とした顔になるレイゴット。レイゴット的には衝撃だったらしい。


「え?うそ?」

「いや、本当みたいだ……」


 レイゴットは少し動揺し、


「ま、いっか」


 これで終わった。本当によかったのか。








「帰ろっか。これを取りに来ただけだし」

「ああ……」


 サングラスを再び掛ける白亜。勿論、フードも被る怪しさ満点だ。


「そういえば、知り合いがいるんじゃないの?」

「確証はないし……」

「良いじゃん!僕も会いたい!」

「………はぁ」


 盛大にため息をつく。


『そなたも大変だな』

『大変ですね』


 白亜の頭に二人分の声が響く。白亜の周囲がどんどん賑やかになっていく。


「……」

「ハク―――」

「しっ。俺の名前を隠して事情を聴いてみたい。いいか?」

「了解。じゃあ何て呼べばいい?」

「なんでもいいだろ」

「えー。じゃあさ、カイドでいい?」

「カイド?……そのまんまだな」

「いい?」

「……勝手に呼んでろ」

「はーい」


 白亜をドイツ語で言うと、カイド、という発音になるのだ。


 白亜は檻の前に立つ。勿論後ろにはレイゴットも居る。


「名を聞きたい」


 普段とは全く違う声に驚くレイゴット。白亜の意外な特技、声真似が発動した。


「……ザークだ」

「何故ここに居る。経緯を教えてくれないか」

「……冒険者だったんだが、同じパーティの女獣人が拐われてな。助けに行ったはいいが、この様だ」

「そうか。その女獣人の名は」

「……シャウだ」


 白亜の元クラスメイト、ザークだった。


「その言葉に、嘘偽りは」

「勿論ない……神に誓ってもな」


 白亜はフードとサングラスをとって顔を見せる。


「………!」

「久し振りですね。ここでは私の名はカイドとお呼びください」

「ハク―――カイド。一体いままで……」

「カイド君!この男の子買うの?」

「ああ。金なら俺が出す」

「そっか。僕は大歓迎だけどね」


 白亜はジロッとレイゴットを睨む。


「研究対象にはしないって」

「……ならいい」


 白亜はザークと暫く話し、買うことにした。すこしそこに留まっていると奥からオンズが出てきた。


「お帰りですか?」

「いや、この男の子欲しいんだ。どれくらいかな?」

「この獣人ですか?そうですね、労働力は中々の物ですので1000エッタ程ですが……貴方様であれば800エッタでお譲りしますよ」

「どうする?」

「買う。俺が払う」

「毎度」


 そんなに高い訳でもないので直ぐに払う。


「きっかり800エッタ頂きました。書類の手続き……は出来ませんね。奴隷印の登録だけでもいたしましょう」

「助かる」

「いい武器を見せてもらったお礼ですよ」

「……やらんぞ?」

「はい。それは承知しておりますとも。そんな業物を見られただけで幸運なのです」

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