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「さぁ、試練開始だ」

「ジャーン!」


 完全に開け方を忘れていたレイゴットは試行錯誤の結果、箱を開けることに成功した。


「どうだ!」

「……?」

「これは……一体なんでしょうか?金属の棒?」


 警棒のような真っ黒な棒が四本、中に入っていた。よく見ると美しい細工が施してある。


「ふっふっふ!これはね!立派な武器なんだよ!」

「武器?これを振り回すのか?」

「ちっちっち」


 レイゴットのテンションが上がりっぱなしで少々面倒なことになっている。


「これを君にあげよう!」

「いや、そう言われても……俺の武器は村雨で足りてるしな」

「き、君!その武器を、いったいどこで!?」

「弟子に貰った。入学祝にな」


 王族の財力を思い知った春だった。


「み、見せてくれないか?」

「……何に興奮してるんだ?」

「たのむ」

「……持ち逃げするなよ」


 白亜は腰の村雨を鞘ごと引き抜いて渡す。


「おお、なんと‼これは素晴らしい‼オリハルコンなんて‼しかも水竜の鱗まで!どれだけの価値のある剣なんだ‼」


 べた褒めだった。ここまで食らい付いてきたオンズには白亜だけでなくレイゴットまで引いていた。


「これ!どこで?」

「ドワーフのイジトさんだ……このピアスもそうだけどな」

「なんと‼あの有名なドワーフの鍛冶師に。こんな業物初めてみましたよ」

「ハクア君の剣ってそんなに価値のあるものだったんだ?」

「ああ。宝刀村雨。俺の宝だ」


 興奮冷めやらぬ様子のオンズから村雨を取り返して再び腰に挿す白亜。オンズが、ああ……、とか言っていたがレイゴットまで無視した。


「本題に戻ろう。ハクア君。これはね、力のないものには絶対に受け渡せない武器なんだ」

「……?」

「僕以上の強さがないと使えない魔法具……神棒。これは、その人にあった武器になる特殊な武器なんだ」

「どういうことだ……?」

「まぁまぁ、持ってみなって!」


 とか言いながらレイゴットは触れようともしない。


「……なんで近付こうとしないんだ」

「え、えっと。その、あれだよ!ほら、使用者が最初に触らないと使えないって言う」

「……ふーん?」


 妙に取り繕うレイゴットを不審に思う白亜。誰だって不審がるだろう。動揺しすぎだ。


『シアン。どうだ』

『危険性はありません。ただ、使用者を武器が決めるようですね』

『つまり?』

『レイゴットはこの武器に認められなかったのでしょうね』

『成る程』


 白亜は黒い棒に手を伸ばした。


 触れた瞬間、白亜の足から力が抜け、地面に倒れこむ……所をレイゴットがキャッチした。


「え?どうしたんですか?」

「試練の始まりだ。本当は魔王になるための試練なんだけど、ハクア君は耐えられるかな?」

「これは一体何なんですか」

「これは、神棒だよ。別名は、『夢喰いの棒』っていってね。試練を与える武器として有名だよ」


 レイゴットは寝息をたてる白亜を見て、


「ハクア君は神棒に認められるのかな?歴代の魔王誰一人として認められなかったらしいけど、どうだろ?」


 悪戯を仕掛ける子供のように、にやっと笑った。







ーーーーーーーーーーーーーーーーー







「う……!」


 白亜は頭を押さえて起き上がった。ぼんやりと周囲を見回す。


「ここは……?どこかで……?」


 段々意識が覚醒していく。ここは、


「山か……?」


 忘れもしない、日本の白亜の故郷の山。白亜の両親が亡くなった場でもある。


「なんで、ここ……」

「ん……」

「え?」


 地面にもう一人女性がいた。白銀の髪に白い肌、何処にでも売っていそうな白い服。全身真っ白で、白亜によく似ていた。


「誰?」

「………?マスター?あれ?」

「マスター……?もしかして、シアンか?」

「は、はい。そうですが……ここは一体?」


 きょろきょろ辺りを見回し、自分の姿を確認したシアン。


「ま、マスター!か、体が!体が存在します!し、至急体のご様子を―――」


 テンパりすぎて何を言っているのか判らない。


「シアン。落ち着け。ここがどこか知ってるよな?」

「は、はい……。マスターの記憶で確認しました」

「……そうだよな。なんでこ―――!!」


 腰に手をやり、シアンを庇うように戦闘体勢をとる白亜。しかし、


「村雨がない!?」


 武器がないところに一番驚いている。普通もっと驚くべき所があるのだろうが、白亜にとっては武器がないのは死活問題なので。


 仕方ないので徒手空拳の構えをとる。


 獣道を通って誰かが歩いてきた。


「「………!」」


 シアンと白亜は言葉を失った。表情の変化が普段ほとんど見えない白亜でさえ目を丸くしている。


「初めまして。ここではそなたに王の器があるかどうか確かめる試練を行う。私を倒せばよいのだ。簡単であろう?」

「俺………?」


 容姿や声が黒目黒髪の転生前の白亜だった。


「なんで……」

「試練、と言っているだろう?む?そちらが二人?少々分が悪いな。こちらも一人追加させてもらおう」


 スッともう一人の白亜が手を上げる。するとその後ろから亜人戦闘機ノン・ストッパー、通称魔獣の王が現れた。


「………!」

「ま、マスター?」

「………」

「マスター!確りしてください!」


 シアンが白亜の後ろに隠れたまま白亜を揺する。当の白亜は額から汗を流し表情が強張っていた。


「シアン……すまない」


 揺すられて何とか正気を取り戻し、再び戦闘体勢をとる。


「そうだ。そうでなくては困る。魔王の器に相応しき者かこの目で確かめるために、な」

「……俺は魔王じゃない」

「私に触れたのだ。それはこちらが決めること」


 向こうの白亜と魔獣の王も戦闘体勢をとる。


「さぁ、試練開始だ」








「うっ……!」

「どうした?そんなものか?私をガッカリさせないでくれないか」

「こ、の!」


 白亜はかなり苦戦していた。何故なら魔法や魔眼の類いが一切使えなかったからだ。気力は使えたものの、消費が大きすぎて有効打にならない。


 武器がないのも痛かった。


「ふっ!」


 魔獣の王が繰り出した腕の攻撃をスウェーで躱し、カウンターで気弾を入れようとするも、もう一人の白亜がそれを阻む。


「く……リベンジ!」


 白亜の十八番の攻撃、カウンター、それどころかフェイントまで見破られる。


『まるで……俺の動き方がプログラムされて動いてるAIみたいだ……』


 白亜は一度、練習用にそんなAIを組んで戦ってみたことがあった。結果は惨敗だった。自分の動きを完全に読まれてしまうと次の手が全く打てないからだ。


『……やってみるか?リスクがバカにならないけど……』


 白亜は羽根で攻撃をガードして一旦後ろに下がった。


 口の中を切ってしまったようで、口の端から血が垂れる。


「マスター、申し訳ございません。私が戦えないばかりに」

「シアンが気にする所じゃない。あいつらどう思う?」

「マスターの動きそっくりです。まさにそのままマスターがマスターと戦っているような」

「……そうか。ちょっと試したいことがある。リスクがかなり大きいんだけどもしかしたら倒せるかも」

「どうか、お気をつけて」

「……止めないんだな?何時もなら止めると思うんだが」

「マスターは止めても止まらないでしょう?」

「う……」


 自覚があるのか、少し目をそらす白亜。


「だから信じます。あなたの意思は私の意思なのですから」


 そう言い、白亜の頬に軽くキスをする。


「こんな所じゃないと出来ませんから、ね」


 少しはにかみながら白亜の行動範囲外に出るシアン。白亜は暫く状況を理解できていなかったが少し理解して顔が赤くなる。やはりあり得ないほど白亜は鈍い。


「話は終わったか?」

「ああ、すまない……」


 白亜は立ち上がってポキポキと関節を解していく。本気で怒ったり戦闘モードに入ったりするときにする癖。


「こっからが本番だ。……覚悟しておけ」


 戦闘時の力に満ちた冷静な目を向け、構えをとる。


「ふっ。そうこなくては、な」


 白亜の姿がふっと消えた。そのまま懐に入る。


「それぐらい……なに?」


 白亜が攻撃を仕掛けたのは、もう一人の白亜の方ではなく、魔獣の王の方だった。普段の白亜ならあり得ない攻撃パターンと動きで魔獣の王を殴り飛ばす。


「なんだと……?」

「やっぱりか……あんた、俺の動きをそのまんま真似していたんだな。俺は、こういう攻撃に弱いから」


 不意打ちには強い白亜だが、攻撃対象を突然変えられたり技の発動を中断されて別の技が来るというものはかなり苦手なのだ。マニュアル通りにしかできない、と言えば正しいだろう。


「奇怪な攻撃に弱いなら、なんとか考えて出すしかないだろ?」

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