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「そりゃそうだよね!2000年前に預けたんだもん!」

「こっちだよ」


 裏路地を進んでいくレイゴットとそれについて行く白亜。


「こんなとこ来たことないな……」

「人間はこういうところ避けるもんね」


 どんどん奥に入り組んだ道を進んでいく。次第に周囲が薄暗くなっていく。


 地面に座り込んでいる変な臭いのする男を見て、


「……スラムか?」

「お、よくわかったね」


 白亜の小さな独り言に能天気な声で答えるレイゴット。


 地面に座り込んでいる男たちは皆窶れて服や髪も真っ黒、目は殺意が籠ったものもいれば、白亜のように生気のない死んだ目をしているものもいる。


 白亜は何となくここにいる者達に共感した。


「俺も……似たようなものだな」


 レイゴットにも聞こえない小さな声でポツリ、と呟いた。








「ここだよ!」

「……?」

「さ、中に入ろう!………襲われないように気を付けてね」

「……え?」


 白亜の疑問の声を無視してレイゴットがレンガ造りの建物に入っていった。


 白亜はスラムにある店ほど危険なものはない、とでも言いたそうに服のフードを被り、中に入った。


 カシャ、カシャン。金属が擦れるようなそんな音が静かすぎる入り口に響く。


 レイゴットが見当たらない。白亜は一歩踏み出そうとして、足を止めた。


「………?」


 再び踏み出そうとするも、途中で足を止め、しげしげと踏み出そうとしたところを見つめる。


「………落とし穴と、ん………?火炎系のトラップか?」

「「あったりー!」」


 奥の部屋からレイゴットと人族の男性が出てきた。二人とも嬉しそうだ。特に人族の男性の方は尊敬の目と値踏みするかのような目を白亜に向けている。


「………」

「本当に当てたね!凄いよハクア君!」

「いやー、これに気づいたのはレイゴット様とあんただけだよ!本当に気づくとはね!トラップの中身まで当てるなんて天性の才能があるよ!」


 ノリやテンションがそっくりな二人。気が合いそうである。


「はい、トラップ切ったよ」

「………別の作動しただろ」

「おおー!流石だね!」


 完全に遊ばれている白亜だが、特に怒っている様子はない。これぐらいメンタルが強くないとレイゴット達魔族とはやっていけない。


「で、なんで?」

「ああ、君の話をしたときにね、トラップは見分けられないかって話になってね?」

「実際に検証したわけか……」

「「そのとーり!」」


 白亜は人族の男性に目を向ける。


「あ。自己紹介してなかったかな?表向きでは武器商人で裏では奴隷商やってるオンズだよ」

「……ポン酢?」

「オンズ。間違えないでねー」


 ポン酢と聞き間違えた白亜をみてレイゴットが吹いた。ついでにシアンも吹いていた。


「……白亜だ」

「短い自己紹介だね」

「全部明かす必要もないだろ」

「確かにね!でも、君のことはよく知ってるよ?象徴の灯のハクア・テル・リドアル・ノヴァ。ランク17冒険者でランバート学園首席卒業、弟子に第二王子ジュード・フェル・リグラートをとり、常に話題の渦中に居た人物」

「……よくご存じで」


 ここまで知られていると気持ち悪い。


「ふっふふ!突然君のパーティが活動休止になって君が町から消えた事は有名だからね。レイゴット様と繋がってたって噂もいっぱいたってたし」

「繋がってたというより……こいつには殺されかけた記憶しかないんだがな」

「あははは!確かに!」


 高らかに笑うレイゴット。オンズも上機嫌で話し続ける。


「新聞は君の話題で持ちきりだったよ!一流冒険者で第二王子の師匠という超重要人物が忽然と姿を消したんだから」

「………」

「これ以上は君の癪に障る事になりそうだから黙るよ。いやー。まさかそんな人が魔王に気に入られて捕まってたなんてね!」

「……知られてないのか?」

「そんな噂は流れてるけど、信憑性に欠けるからね」

「……そうか」


 噂なんて全く気にしない白亜なのでこの話は意外とあっさり終了した。


「と、そうだった。本題ですね」

「うん。ちゃんと保管してある?」

「勿論でございます。こちらに有りますので、どうぞ。足元にお気をつけて」


 奥へ奥へと入っていく二人について行く白亜。必然的に奴隷の檻の前を通ることになるわけで、


「た、すけ……」

「お願い致します……」


 白亜とレイゴットにはハッキリ聞こえてしまう声量で呟き続ける奴隷達。心がやられる、と白亜は思った。


 そのまま、檻を見ずに歩こうとしたところ、


「く……誰か知らないが、助けてくれ……」


 そんな声が聞こえてきた。白亜は息を一瞬のみ、そのまま気にしていないかのように通り過ぎる。目でしっかり檻を確認しながら。


「お見苦しい物を見せてすみませんでした」

「全然。これが君の仕事だもんね」


 人なのに物扱いなのは、奴隷は物であるという感覚が染み付いているだけである。この世界では当然の事だ。何かを取りに行くと言ってオンズが何処かに去っていった。


「ハクア君。奴隷欲しいの?」

「奴隷は要らない……が、知り合いが居たかもしれない」

「知り合い?」

「通ってた学校のクラスメイト、だと思う」

「君にしては随分と曖昧だね?」

「確認できてないから断言のしようがない。それだけだ」

「ふーん……」


 白亜はサングラスをとってポケットにいれる。


「どうしたの?」

「……慣れないから目が疲れた」

「そっか」


 白亜はそのまま眠たそうに欠伸をし、レイゴットを見る。


「で、ここには何を?」

「はは!これから判るよ!」


 そうこうしている内にオンズが戻ってきた。蓋も留め具もない、大きな箱を抱えて。


「お待たせしました」

「全然待ってないから大丈夫だよー。うん。ちゃんと保管されてたみたいだね」

「私も何が入っているのか知りませんので……」

「そりゃそうだよね!2000年前に預けたんだもん!」


 白亜の首が少し右に傾いた。


「あ、判んないよね。えっとね?これは僕が2000年前にこの奴隷商に預けた品物なんだ。魔族のところには置いておける物じゃなくてね?理由わかる?」

「……いい研究対象、と考えればいいか?」

「流石!そうだよー。隠しとく場所には奴隷商が最適だったんだ」

「じゃあポン……オンズは2000年は最低でも生きてるのか?」

「ううん。違うよ。代々受け継がれてきたみたい」

「なんで今更そんな昔の物を取りに来たんだ?」


 レイゴットはニヤ、っと笑い、


「君がいるからだよ、ハクア君」

「………?」

「これを君にあげようと思ってね。本当はもし僕が死ぬことになったら次期魔王に渡すものなんだけど」

「……次期ってことはお前のその前も魔王っていたのか?」

「そうだよ。僕は5代目。僕が魔王になってから勇者が誕生したんだよ」

「……お前は魔王のくくりでも規格外だった、と言うことか?」

「そう考えてもらっていいよ!」


 その魔王と互角に渡り合える白亜とは何なのか。


 レイゴットは大きな箱に手をかけ、向きを変える。


「えっと、確かここに……あった!」


 紋様が刻まれた部分に触れ、魔力を流すレイゴット。カコ、と音がして徐々に箱の中が音をたてる。


「なんかカタカタいってる……」

「大丈夫大丈夫。こういう仕組み……だった気がする!」


 完全に忘れているレイゴット。ワクワクした子供の目で箱を見つめるオンズ、死んだ目で取り合えず二人が見てるから、という理由でボーッとそれを見る白亜。


 カオスな現場だった。

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