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「これも違う、か………」

「結局何か凄いものってなんだったんだ?」

「あ、それこっちだよ」

「通りすぎてたのかよ……」


 なんでもハクアにこんなスピードで泳げるとアピールしたかったらしい。


「これは………どっかで見たことあるような」


 白亜の目の前には不思議な紋章が入った樽が転がっていた。勿論海の中、海底である。本来は真っ暗の筈なのだが、サラと手を繋いでいるお陰か、魔眼のお陰なのか。確りと見えているようだ。


『遺跡ですよ』

『覚えてるのか』

『記録にありますので。右目に魔力を送ってください』


 白亜の右目が紅く光る。


「わっ!ビックリした!」

「あ、ごめん」


 それにサラが驚いたが両者とも特に気にしなかったのでそのまま白亜は観察を続行する。


『これですね。どうやらこの樽は400年前の物ですね』

『何が入っていたか判るか?』

『開けてみないことには、なんとも。一個持ち帰ってみても良いでしょう』

『判った』


 早速懐中時計にしまった白亜。幾つか周辺にも転がっているので一つくらい問題はないのだろう。きっと。









「持ってきてよかったの?」

「良いんじゃないか?……放置されてたし」

「それもそうね!」


 白亜は陸に上がってすぐ体を水洗い、乾かして再びいつもの銀袴に戻る。


「その服珍しいわよね」

「袴っていうんだ」

「どこの服?民族衣装よね?」

「それは……」


 白亜は言葉につまり、


「今度、時間のあるときに話す」

「……そう」


 やはり、話すのには少し抵抗があるようだ。


「開ける?」

「開けちゃおう!」


 どっしりとした樽が砂浜に出現する。


「ん……」


 白亜の左目が翡翠色に光を帯びる。


「なにこれ」

「なにか見えたの?」

「なんにも見えない」

「魔眼封じってこと?」

「魔眼殺しだと思う……魔眼封じは俺には効かないから」


 白亜は少し考える。


「やっぱりこれ開けるのやめないか?」

「なんで?」

「これは一応レイゴットの管理下にあるものだ。こんなに大きいもの、レイゴットが調べずに放置するなんてわざと以外考えられない気がする」

「そういえばそうね」

「元の場所に返そう。けど面倒だからもう飛ばす」

「へ?」


 白亜が手を触れた瞬間、かなり大きい樽が光を残して消えた。


「今……え?」

「さてと、絵の続きを描くかな」

「ちょっと待って!今の、何?」

「何、とは?」

「魔法だよね?今の」

「転移?」

「なんで使えるの!?」


 白亜は何がおかしい?とでも言いたげな顔をする。目は勿論死んでいるが。


「幻覚魔法使えるんだから使えてもおかしくは無いだろ」

「なにそれ。私にも教えて!」

「………これは誰にも教えない」

「え?」

「危険なんだよ。かなり面倒だし、それに……」


 白亜は少し言い淀んで、言うのをやめた。


「………誰にも教える気はないってことだ」

「ふーん……へんなの」


 白亜は再び絵を描き始めた。サラも同様に海に入っていった。








「ハクア君。お帰り!」

「上機嫌だな………」

「これ集めておいたよっ!後でちゃんと幻覚魔法教えてね!」

「それが楽しみなだけか……判ってる。部屋で解読してくる」

「4時には出てきてねー」


 白亜が部屋の戸を開けると、赤い蜘蛛が糸で遊んでいた。


「………何やってんの?」

「キチキチ」

「あ、罠ね……お前の子供じゃないのか、あれは」

「キチキチ」

「いいなら俺も口出ししないけどさ……」


 どうやら蜘蛛はあの子蜘蛛を捕らえる気のようだ。なんともならない気もするがここは別に放置でいいだろうと白亜は判断し、ベットの上に座って資料を広げる。


『シアン。準備はできてるか?』

『勿論です』

『じゃあ、始めるぞ』


 白亜は背にある翼と両手の計6本で本や書類の束をつかんでノートに重要なことを書き続けていく。


 途中、ペンの音があまりに五月蝿くて蜘蛛が退出したが、白亜はそんなこと気にならないほど集中してペンを動かしていた。


「ハクア君!もうすぐ4時……って、わぁ!」


 大量の紙が地面に散らばっている。それもその筈、白亜が黒くなったノートを即行で破いてその辺に放り投げるからだ。


 ガリガリと物凄い勢いでペンの動く音が響いていた。


 ペン先が潰れ、使い物にならなくなったためと思われる万年筆が床に5本ほど転がっている。どれだけのペースで書き進めていたのかを物語っている。


 レイゴットは近くの紙を拾う。なんて書かれているのか全く判らない文字らしきものの羅列が続く。


 レイゴットが少し紙を引っ張るとプツン、と音がして紙が消えた。白亜は最近、創造者クリエイターで出したもの全てに糸をつける癖がついていた。


 ノートの紙一枚一枚につけるほどの異常っぷりである。


「まだ………判らないかな」

「ハクア君!」

「ん……レイゴットか。すまん。少し歯止めが聞かなくなっただけだ」


 別の紙を懐中時計から取り出して今書いていたことを少し写して、糸を全て断ち切る。すると、まるで今まであった紙の山が一瞬で消え去った。


「いつ見ても便利だねぇ」

「これは、まぁ、……運が良かっただけだけどな」


 いつも通り白亜のスパルタ魔法講座が始まった。








 カサカサと音をたてながら白亜は本のページや書類の束を捲る。


「これも違う、か………」


 こめかみを押さえながら目を閉じる。


『シアン。そっちは?』

『それっぽいのは在るんですが、確証が持てないものばかりですね』

『シアンでも駄目か……もう少し深く探してみよう』


 白亜はシアンと声を出さずに会話しながら軽く目の周りをマッサージする。


『目を使いすぎです。暫くは休みましょう』

『でも、もう少しやらないと』


 ペタ、と白亜の閉じられた目の上に何か冷たい物がのった。


「?」


 どかしてみると、サラが濡れタオルを白亜にのせていた。


「夜遅くまで……研究熱心なんだね」

「研究熱心というか……やらないと気が済まないというか」

「努力家なんだ」

「努力……か」

「どうしたの?」

「なんでもない」


 白亜は再び書類と格闘し始めた。それを見たサラは、無理しちゃダメよ。と呟き、自分のベットに戻っていった。


 研究所の明かりは、その後も何時間か消えなかった。








 それから、数ヵ月。


「出来た!出来たよ、ハクア!」

「やっとか……」


 脳に直接幻覚を刷り込む形の魔法も使えるようになった三人だ。


「これで幻覚魔法は覚えたね!」

「そうだな。これはもう俺から教えることは無いだろう」

「「「やったー!」」」


 年甲斐もなくはしゃぐ三人。だが考えて見てほしい。この中で一番若いのは180歳のサラである。レイゴットに至っては億単位なのだ。


 はしゃぐ大人を見ている冷めた子供状態の白亜。カオスである。見た目的には全員そう大差なさそうな年齢差に見えるのだが、白亜は11歳である。間違っても180歳とか数千歳とかと間違われるような年ではないだろう。


 悲しい種族の差である。


「ハクア君!ねぇ、今度さ。陸に行ってみようかと思うんだよね」

「幻覚魔法使ってか?」

「うん」

「あんまりお勧めしないぞ。周り全員の目を惑わすのはそう簡単なことじゃない」


 実際にやった事があるらしい。


「だから、ハクア君も来てよ」

「……は?なんで?」

「もし僕がボロを出したときに魔法でフォロー出来るのってハクア君以外いないじゃん」

「いや、俺は」

「そうと決まればレッツゴー!」

「俺何も言ってねぇ……」


 強引に地上に出ることになった白亜。少しかわいそうではあるが、レイゴットなのだから仕方がないのだ。そう考えていないとレイゴットとはやっていけない。


 しかもそれをかなり前から気づいていた白亜であった。

 魔眼殺しと魔眼封じの違いですが、魔眼殺しは【魔眼の効果が発揮されたとき、痛みを生じさせる】魔眼封じは【眼その物を使えなくする】というものです。


 要は、魔眼殺しの場合は痛みに我慢すれば使える。魔眼封じは失明状態になる、といった具合です。


 魔法の難易度や危険度的には実は魔眼封じの方が高かったりします。判りづらくてすみません。

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