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「ん?……苦しくない」

「先ず球がでない………」


 三人は各々詠唱を唱え、投影プロジェクションの基となる光の球を………出すことにさえ苦戦していた。


「なにこれ全然制御できない」

「難しいですね……」

「ハクア。もう一回見せて!」


 三人が基となる光の球を出すことに成功したのは一週間ほど後の事だった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーー







「どうだ?」

「お手上げですよ……師匠から連絡も入りませんし」

「ふむ。新聞を読んでいれば良いのだが」


 白亜配下組、日本組は白亜探しと生きていくための金銭集めに奮闘していた。


 ジュード、リン、ダイ、キキョウ、ルナの五人は大量に配下組から送られてくる資料にうんざりしていた。


 何せどの島の報告にも白亜の名前は載っていないのである。


「師匠本当に大丈夫でしょうか……?」

「ハクア君だから問題ない……って言うのは相手が魔王じゃなかった場合なら言えるんだけどね……」


 パサパサと音がして書類の山が崩れた。それを見て全員が大きく溜め息をつく。


「もう直す気力ないよ……」

「はぁ………」


 かなりお疲れだった。







 所変わって日本組。冒険者になった者は白亜の情報を集めながら毎日を過ごしていく。


「えっと、その、ハクア・テル・リドアル・ノヴァと言う人の事を教えていただきたいのですが」


 こう聞くと、


「ハクア?ああ、破壊の申し子?」

「あー、スーパールーキーの?」

「象徴だろ?知ってるよ?」


 と返ってくる。冒険者組は白亜の二つ名が多すぎて混乱していた。


「この依頼をお願いします」

「はーい。これで成功したら昇格よ。頑張ってね」


 黒目黒髪の人族パーティの強さは巷で話題になっていた。




 いつも通り町の外に出て依頼をこなす。すると、森の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。


「皆!」

「「「判ってる!」」」


 全員で乗り込まず、足の速い者が先行して行く。そのまま戦闘音が聞こえたので全員で乗り込んだ。


「オウガだ!油断するなよ!【テンションアップ】!」


 端から聞くと何言ってるんだと聞き返したくなるが、これが尚弥(なおや)の能力の【言霊魔法】なのだ。


 この能力は言霊、つまり言葉で言ったことを魔法として具現化する能力で、能力の中ではトップクラスの使いやすさと便利さを誇る。


 テンションアップはこれを使った後の一定時間、パーティ全員の行動にプラス補正がかかる実にチートな力だ。


 その分制約も多いのだが重宝されている。


「大丈夫ですか!」

「え、ええ」

「運びます!皆!任せていいか!?」

「「「任せて!」」」


 最も攻撃力と機動性が高い白亜門下の二人が主力、槍や弓でオウガの動きを止め、魔法でとどめをさす。


「来る!皆!もう少しいけるね!?」

「「「問題ない!」」」


 全員で固まって敵を待つ。


「来た!レッドバットだ!5匹いるから連携別れるよ!」

「「「了解!」」」


 ザザッと全員が一斉に動き、5つの部隊に編成される。すると森の奥から赤い蝙蝠が飛んできた。決して速い速度とは言えないが、牙が強力で中々危険な蝙蝠である。


「たぁ!」


 賢人が魔法で撃ち落とされた蝙蝠を仕留め、別の部隊の応援に回る。


 そんなことが繰り返され、気付くと蝙蝠やオウガの死体が散乱していた。


「血の臭いで魔物が来るかもしれないから手早く済まそう」

「うん」


 慣れた手付きで討伐部位や魔石を取り出していく。まだ冒険者になって日は浅いものの、白亜が念のため全員に討伐部位等を全員に教え、剥ぎ取りの練習をさせていたのがここで役に立っていた。








「大丈夫ですか?」

「ええ………助かったわ」

「いえ、礼なら仲間に言ってください。それで、何故オウガに?」

「私は貴族なの。貴族は独りで獲物を一匹狩ってくるのがしきたりで」

「そう言うことですか……」


 貴族とはかなりアクティブでないといけないらしい。ジュードの場合、血の気が多すぎてアウトゾーンに差し掛かっているが。








「はぁ……」


 ジュードの前に積まれた書類には全て同じような事が書いてあり、その内容は白亜は見つかりませんでした、引き続き次の島を調査します。というのしかなかった。


「師匠……」


 もう一ヶ月以上会っていない規格外の自分の師を思い出すジュード。ダイに聞いたところだと体が変化してしまっているらしいが、そんなことはどうでもいい。とまで考えていた。


「島はほとんど調べ尽くした………後は、空か、海か。未発見の島もあるかも知れないけど」


 ジュードは大きくため息をついた。


「せめて連絡してくださいよ……」






ーーーーーーーーーーーーーーー






「これでいいな?」

「キチキチ」


 白亜と蜘蛛は互いの近くに水晶をセットし、眠りについた。


 これで喧嘩が収まれば良いのだが、とレイゴット達は考えていたが、それよりももっと重大な事態が起こることに誰も気づかなかった。




「痛い」


 次の日、白亜はまた耳を噛まれていた。そろそろ破壊魔状態になる寸前である。


「今日は録ったから、ほら!これ見よう!落ち着いて!」


 レイゴットがなんとか白亜を宥め、録画した水晶を覗く。


「ハクア君寝るの早っ!」


 数秒経たずに寝た白亜。蜘蛛も寝付きは良いようで直ぐに寝た。寝息のみの映像が続く。


「あれ?」


 蜘蛛がビクン、と痙攣した。すると無意識なのか糸を出し始める。部屋が半分真っ白になったところでそれは止まった。


「これ、何がしたいんだ?」

「キチキチ」

「……覚えてない?」


 すると、糸から何かが出てきた。


「「「?」」」


 子蜘蛛だった。


「「「………」」」


 子蜘蛛は白亜の作ったコンクリートの壁を破壊して、どこかに出掛けていった。それに反応して起きた蜘蛛が寝惚けて白亜の近くでこけた。


 そして、そこで何事もなかったかのように寝た。近くにある白亜の耳を無意識に噛みながら。


「「「…………」」」


「犯人……お前の子供じゃん」

「キチキチ」

「交尾してない?じゃあなんで蜘蛛が居るんだよ?」

「キチキチキチ」

「知らないって……無責任だな」


 なんだか曖昧な結果で終わった。





「ハクア。あれでよかったの?」

「もうこの際どうでも良くなったって言うか……あいつを叱ってもどうにもならなさそうだったし」


 実際そうだがあんなに怒っていたのにかなりあっさりである。


「っていうかこれからどこに行くの?」

「海」

「私も行く!」

「……暴れるからやだ」

「暴れないから!このとーり!」


 尾ひれをぺちん、と鳴らす。どうやらそれが人魚のお辞儀のような物らしい。


「………暴れない?」

「暴れない!」





「きゃあああああ!」

「ちょっ!動くな!逆に落ちるって」

「無理よおおぉぉ!」


 砂浜に落ちるように下りた白亜。心なしか翼がしんなりしている。かなり疲れたらしい。


「ハクア!気持ちいいよ!入ろうよ!」

「この服は水中じゃ動きづらいし、海は塩でベタベタになるから遠慮する」

「何のために来たのよ」


 白亜は書きかけのキャンバスを取り出し、昨日の続きを描き始めた。その様子をみたサラは興味を無くしたのか、海の中に潜っていった。


「ハクアハクア!」

「描いてるんだけど」

「何か凄いもの見つけた!こっち来てよ!」

「えー……」

「良いから早く!」


 仕方がないので水中でも動きやすそうな服(何故か和服)を適当に出し、着替える。


「その魔法便利よね」

「ん……これ魔法じゃないぞ?」

「え?」

「え?」


 創造者クリエイターの能力を一通り説明した白亜。


「凄いね!そんなに便利だなんて!」

「確かに便利だな」


 白亜が空気の膜を張る魔法を使おうとすると、サラがそれを止めた。


「これやらないと息できなくなって俺死ぬんだけど?」

「違うの。このまま入ってみてよ」


 渋々水中に入る白亜。


「ん?……苦しくない」


 それどころか空気中と同じ様に会話も出来る。


「えへへ!これが人魚の能力なんだよ!触れている間はその人に水の恩恵がつくの!凄いでしょ?」

「確かに凄いが……なんでサラが自慢するんだ?」

「ノリよ、ノリ!さ、行きましょう!しっかり捕まっててね。海の中で人魚に勝てる種族はいないんだから!」


 サラはとてつもない速度で泳ぎ始めた。しかし、白亜は忘れていた。自分がある一定の場所から出られないことを。


「………!サラ!それ以上行くな!」

「なんで?」

「良いから止まれ!」


 サラが止まった。白亜のギリギリの行動範囲だった。


「危ない……これ以上は俺はいけない」

「なんで?」

「レイゴットに捕まってるからだよ」


 白亜は手首のブレスレットを見せる。


「これがあるかぎり、俺は此処から出られない」

「なんで?」

「さっきからそればっかりだな……」

「気になるんだもん」

「レイゴットの玩具として俺はここに居るんだ。玩具は逃げ出せないようになってる。本当だったら牢とかにいれられるんだろうけど、レイゴットが許しているから俺はかなり自由だ」


 少し遠くを見る白亜。


「あそこに光が見えるのが判るか?」

「えーと、あ、うん」

「あれより先にはいけない。それが、あいつとの契約だから」


 白亜を興味深げに見るサラ。白亜は自分から目を逸らした。サラにはそれが、少し悲しげに見えた。

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